観音荘
巣鴨と鹿目の棲むボロアパート
俺は鹿目を担いで安らぎの無法地帯「観音荘」へと無事帰還した。ここは我が日本国内でも稀に見る超が着くボロアパートだ。3階建て、三畳一間、一つの階に四部屋あり、トイレは各階、台所は一階に設置されている。一階に大家が住んでいるが未だに会ったことがない。
台所・トイレは共有故に異世界の香りと誰にも抜けたとも知らない威厳が放たれている。半年以上前から放置されている鍋の蓋は何らかの物体により完全に本体と付着し取れなくなっていたり、カップラーメンのドンブリが積みに積まれ柱を成し今にも天界へ届かん勢いである。
天井はタバコやら汗やら料理中に跳ねた油やらひっくり返すのに力が入りすぎてとびちった目玉焼きのカスなどが付着し、以後何世紀経っても前衛的と賞賛されるであろう模様が浮かんでいる。つまり未知の絵画が出来上がっている。
冷蔵庫はとっくのとうに壊れ、無用の長物を成し、電子レンジはコードが切られ、4つある照明のうち3つは入っていない。調理道具はところどころ錆が生じ、ガスコンロだけが辛うじて最大火力はとろ火だが点く。
三階の共有トイレは扉が壊れ、何が原因で出来たかわからない大きな穴のお陰で廊下にトイレ独特の異臭を放っている。
玄関はシロアリに食われ朽ちた靴箱があるが、古新聞に包まれた様々な大きさや重さの謎の物体が占拠しており、脱いだ靴は自室へ持っていくシステムとなっている。驚くことにポストも共有で、毎日大量のダイレクトメッセージが届く。
壁には雨水が浸食した痕跡がありありと見え、一階二階の天井は今にも崩れ落ちそうなほど変色・腐敗し、鉄筋のようなものがチラチラと見える。三階の天井は隅の隅まで雨漏りの跡と分かる染みが縦横無尽に駆け回り、天下雷鳴轟くが如き奇跡的な紋様を形成している。
先ほどルームシェアといったが、三畳一間を二人で間借りしているわけではない。歴史的価値の有るここ観音荘はここ十年、2階の住人のみで形成され、3階は全て空き部屋になっていた。そこで大家は思いつき、一部屋5万のところ、四部屋全て借りられれば一部屋3万5000にしたというのだ。近くの別の大学に通う同じ高校を卒業した友人、餡直 総銘君、同サークルの幽霊部員片山を誘い、とりあえず3人で観音荘3階に陣を敷いた。そして今年の4月に、ついに4人目の阿呆少年鹿目を我が勢力圏内に収める事が叶った。
玄関からすぐ右に階段があり、手前から1号室、2号室となる。一番奥にトイレがある。鹿目の部屋は304号室の一番奥にある部屋だ。扉の立て付けが悪くいつもあけっぱなのだが、本人は風通りがよいと直す気はないようだ。
鹿目を担いだままいやに湿った布団に放り投げた。同じ間取りの部屋とは思えないほど何もない。あるのは先に述べた湿った布団とちゃぶ台とコンビニのおでんカップだけだ。
「うう、先輩ありがとう。こんな僕でも愛されてるんですね。」
「わけわからん、もういくぞ。水はちゃんと飲めよ。」
「はい、どうも。早く出て行け。」
汁粉臭い息を吐く青年が二人布団の中にいても何も変な事件は起こらない。しかし悪い気分になる。窓を開け放ち自分の部屋へと戻った。




