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炬燵汁粉

需要があれば続き書きます。

 我が尾矢白頭(おやしらず)大学では、毎日奇奇怪怪な事件が広大なキャンパス内で散発する。

 去年の暮までは無事平穏の大学生活を送っていたのだが、今年5月に入り妙な事件が多発し始め、7月現在では歯止めが利かない状態になっている。


 「先輩、そろそろ汁粉が冷めますよ。ささ遠慮なさらずにどうぞぐぐっと。」

 そう勧めるのは我が良き後輩であり、また悪き友である鹿目面太郎(しかめ つらたろう)である。なぜ初夏も去り真夏になろうという時期に熱いお汁粉を啜っているかというと、これもやはり奇奇怪怪な事象の延長線上の出来事なのだが、それは追々伝えよう。まずは目の前に悠々と鎮座して湯気をもくもくと出しているお汁粉をどうにかせねばならない。

 「まま慌てるな鹿目。お汁粉は熱すぎても温すぎても駄目なのだ。彼の知流孤(しるこ)大名も辞世の句で残しているだろう、『お汁粉は 冷たすぎても熱すぎても だめでおじゃる』と。現代社会に流布する混沌としたストレスにより迷える子羊となった我々にはまさに蜘蛛の糸的な句だなぁうん。」

 「何をわけのわからん事をいっているんですか、そんな大名いませんよ。暑すぎて脳みそが汁粉になっちゃったんじゃありませんか。ささ早く飲んでください。私はノルマを達成しま」

 と言い掛け鹿目は明後日の方向を向き、目を大きく見開き後ろへ倒れた。7月も終わりの今、炬燵に入り熱々のお汁粉をほうばる迷える子羊は今天に召されたのだ。多分体温の神様からお小言をもらうだけですむだろうが、早めに汁粉を完食して涼しい所に運んでやらないと俺も危ないかも知れん。

 しかしこの汁粉はなんだか粉っぽすぎて汁粉という食べ物なのか、砂利粉という新たな食べ物なのかようわからん食べ物だ。汁物の癖にまったく喉を通らない。


 今から一週間前、俺が所属するサークル「でいだらぼっち」にて開催された罰ゲーム共倒れ大会は、現在法学部3年の先輩方が経済学部4年の先輩方から与えられた罰ゲームをわれ等2年、1年に押し付けるという理解しがたい恒例行事だった。

 鬼ごっこという遊びをご存知だろうか。多数の人間が揃って始めて行える本格派スリリングサバイバルゲームだ。ジャンケンで鬼を決め、その他は逃げる。鬼は逃げている奴等をタッチで捕まえ、鬼という立場が次か次へと他の奴に移っていくというシステムだ。行事もコレに近い。しかし少し詳細が過激だ。罰ゲーム内容は毎年更新され、内容がどんどん追加されていく。そして5項目溜まると、そこで爆発する。そう、実行に移されるのだ。そして今回がその5項目目追加の時だった。(どのタイミングで追加要請が下されるかはいまだにわからない。4年次生でも怯えているということは、かなり上役から回ってくる指令なのだろう。)

 通常、4年から3年、3年から2年、2年から1年と降りてきて、その年次の生贄達が犠牲になっていたのだが、2年次生は俺と幽霊部員の片山しかいない。片山は4月から来ていない。きっと知らないサークルの行事か、他のサークルの陰謀に巻き込まれたのだろう。そういう訳で、2年次生一人に全ての罪を着せるのはおかしいと俺が抗議した結果、1年次生の鹿目を巻き込むことに成功した。

 ただの罰ゲームと思ってもらってはいかん。我が大学のサークル活動は日々暗躍する組織の幹部達の気まぐれで部活に昇進したり部費がでたり愛しいあの娘とお近づきになれたりと至れり尽くせりなのだが、その恩恵を享受する為には肉体精神共に疲労困憊している幹部様方の機嫌をとらねばならない。

 そして今回の罰ゲームが「初夏に炬燵に潜る」「粉っぽお汁粉を熱々のまま食べる」「密閉された部室で行う」「餅は1キロ、餡子はコシアン」「二人以上」という条件だった。最後の二人以上というのは我が敬愛し侮蔑する先輩、芽藻虎(めもとら) 奈医(ない)のせめてもの救いの手であった。俺が抗議しなかったら「お汁粉は大なべで作ること」になっていたと後で知る。

 粉っぽい汁粉を間食し、レフェリーに空の鍋を見せ、俺は鹿目を担いで外に出た。誰もドクターストップをかけない非情を見るに、これはまさに命を懸けた戦いであったと戦いの後に知った。

 「あ、先輩も天国に来れたんですか。残念。とても気持ちがいいですねここ」

 鹿目はぬるまったタイルの上で横になりながら冷たいタオルをおでこに乗せてもらっていた。というか残念とはなんだ運んでやったのに。しかし鹿目が居なければ俺がまだ部屋の中で悪戦苦闘、悪くすれば本当にあの世へ旅立っていたかもしれないのだ。よくやったぞ、鹿目。

 「これで我が部も安泰だ。」

 部活に昇進していない古参サークルの長である新居(にい) 堂馬(どうま)が言う。人間行動研究心理学部所属の新居先輩は大学入りたてほやほやの右も左も分からない罪もない赤子を騙しこのサークルに勧誘した悪いお方だ。最初の2ヶ月はとても珍重された。そこで変な書類にサインをせがまれた。「私はサークルを離脱しないことをここに誓います」という契約書らしい。こんなに優しくされ、珍重され、飲み代まで先輩持ちのすばらしいサークルを誰が辞めるかと笑いながらサインをした。が、それも後の祭りである。罪無き子らには過酷な運命が待ち構えていた。


 「おい鹿目、そろそろ夕刻だもう帰ろう。」

 俺は鹿目とルームシェアをしていた。鹿目の実家は大層な大金持ちと聞いていたが、学費は奨学金、自分の生活費はアルバイトで何とかやりくりをたてている俺を見て何か感化されたらしく、同じ屋根の下、いや同じ部屋で俺の教えを請いたいといいだしたのだ。悪い気もしないのでOKを出した。

 「先輩、僕晩御飯はオムレツがいいなぁ。」

 そういう鹿目を抱えて部屋へと還っていった。粉っぽい汁粉をアレだけ食べてまだ食えるのかこいつ。

 ここ数十ヶ月、項目追加要請が来ていないので当分はこないと思っていたが、大学全体がざわめき始め、変な事件が勃発するようになったこの時期にわざわざ要請を送るなんて、裏があると思うのだが・・・われ等下級部員には知ることの出来ない怪しい隔たりを感じる。

この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。

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