矛盾した表裏一体
嘲笑うかのような、
その表情が僕に悪魔を連想させた。
あの頃から何年か経った。
僕は契約を交わした覚えはないが、正真正銘の悪魔となっていた。
契約を交わした覚えもないが、契約を破棄した覚えもない。
ただ契約などは元からなく、やはりこれも多々ある人間の平等な権利の一つとして元来平等な権利としてあったものらしい。もっとも、全ての権利が平等ではないのも事実だから悪魔の契約の権利が本当に平等かは疑問だが。
悪魔になってから特に変わった事はない。それは生活が変わった事はないという意味である。
裏切り、イジメ、嘘。これらは悪魔の所業。
いつかの嘲笑いが僕に悪魔の道を照らし歩かせた。
淡々とした物言い、冷酷な判断、感情がない人間。
少なくとも僕の周りの人は僕の姿がこう映っているだろう。
でも本当は関心があるからこんななる。
他人に関心のない人はとても優しいと思われがちだから。
優しい人は本当は他人に関心がない人が多い。それが天使といい、悪魔と比喩されるものだ。
天使は他人に興味はない、悪魔は他人に興味がある。
天使は他人の評価を気にしない、悪魔は他人の評価が気になって仕方ない。
悪魔の優しさは誰にも伝わらない。薄く平べったく透き通るような透明のガラスのようでかなり見えにくい。それに気付かず触れてしまうとかえって怪我をするから皆目を逸らす。
天使の優しさは、濁ったピンクの蝋で、燃えると綺麗な赤、青、オレンジ等に色を変える。皆は目を留め癒される。
天使が悪魔。
悪魔が天使。
こんな馬鹿な嘘を僕はあえて言おう。
僕は悪魔だから嘘が好きだ。透き通るような綺麗な嘘をつく悪魔だ。
天使は綺麗な嘘もつかないかわりに当たり障りのない濁した事実を言う。
どちらの人間も神ではない。
しかし天使と悪魔は互いに一線を越えない。超える事が出来ない鏡がそこにあるから。
矛盾した話だが、決して交わる事のないその二人を人は自身という。
自身は自身の想像で自身を創る。ありきたりはごめんだ。そんな自身の全てが嘘なんだ。
自身は自身で変える事は嘘だけだ。他人に関心がないのなら綺麗なままだ。嘘のない自身。
表裏一体とはよく言ったもんだ。