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極相色彩のケイオスライン  作者: 路崎舞
断章『エピローグ』
32/40

断章7話『微睡みに照らされて』

「――イス……イリス!」


「…………ぇ」


 気が付くと同時、右側から誰かに声をかけられ――思考が止まる。


 生命の発芽を思わせる優しい緑色の短髪、こちらを案じる薄黄色の目。忘れるはずがない。


「…………マリー?」


「うん、そうだけど……どうしたの? ぼーっとして」


 眉を顰め、こちらの顔を覗き込むマリーに、イリスの情報処理が追い付かない。


 だって、彼女は五年前に亡くなったはずで……。


「――もうっ、無視されたら僕だって傷付くんだからね!」


「あ、す、すみません……」


「ふんだ!」


 血色のいい顔でそう憤慨を露わにするマリーの姿は、生前の彼女と何一つ変わらなかった。


「……ここは」


「教会の庭。僕とイリスが初めて出会った場所だよ」


 くるりとその場で一回転するマリーを後目に、辺りを見回す。


 陽光を反射する円形の噴水、その水飛沫を喜ぶように風に揺られる草花、近くに設置された白いベンチ。

 要素だけ見ればレティシアの孤児院と遜色ないが、噴水の構造も草花の種類もベンチの形もそれなりに異なる。背後にある教会が決定打、ここはイリスの所属する教会だ。


 だが、困惑は尽きない。


「どうして、あなたがここに……」


「え……本当に大丈夫? イリスが誘ってくれたんでしょ? 噴水でも眺めながらお話しようって」


「そ、そういえばそうでしたね。あはは、どうして忘れちゃってたんでしょう!」


 言われてみれば、確かにイリスから誘った気がする。理由は……いや、特にちゃんとした理由はなかった。ただ、一緒にいたかった。


「……無理してない?」


「い、いいえ? マリーの前で私が『純白の聖女』だった時がありますか?」


「少なくとも、初対面のイリスは『聖女』様だったけど?」


「うっ……そこを突かれると弱いんですよねー……」


 ジト目で痛い所を指摘され、イリスはあははと苦笑い。


 その様子にマリーが安堵に目を細め、


「調子、戻ってきた?」


「おかげさまで。あはは、マリーには頭が上がりませんね」


「何を言うのさ! イリス、本当に今日もちゃんと鏡と睨めっこしたの?」


「? はい、でなければ部屋から出ませんよ。――今の話と何か関係が?」


「んーん? 何でも?」


 何やらマリーが思わせぶりな態度でニヤニヤするも、イリスにはさっぱり見当がつかない。いつもの冗談だと判断し、今なお水飛沫を上げる噴水に目を向ける。


「マリー、あちらに座って話しませんか?」

「奇遇だね。僕も、今同じこと言おうと思ってたよ」


 くすっと笑いが零れ、噴水の水飛沫がかからない位置にあるベンチへ二人で歩き、腰を下ろす。



「王国での暮らしはどう?」


「え? ……何故でしょう。モヤモヤと、幸せを感じます。想像したことすらないのに」


「あはは、ごめんごめん、変なこと聞いちゃったね」


 自分の頭を撫で付け、笑いで誤魔化すマリーの質問の内容に、それを聞いて浮上した感情に、疑問が募る。

 どうして、行ったこともない敵国を思うとこんなに胸が苦しく、温かくなるのだろう。――どうして、見たこともない黒髪の少女の泣き顔が脳裏を過ぎるのだろう。


「――やっぱり、イリスは女の子らしくて可愛いね!」


「へぁ!? い、いきなりなんです!?」


 突然、マリーからそんなことを言われ、心の準備もできてなかったイリスは動揺してしまう。嬉しい、嬉しいが恥ずかしい。脈絡もない。

 マリーはこんな性質の軽口を言う性格ではなかったと記憶している。何の心情の変化があったのか。


「思ったことは、ちゃんと言葉にしなきゃって気付いたんだ。僕はいつまでもイリスの味方だし、僕達はイリスが嫌というまでずーっと親友だよ!」


 だが、破顔してそう嘯くマリーに、そんな邪推は即座に消え去った。


「――ふふっ、私には、マリーに嫌と感じる機能は備わっていません。私の親友は、いつまでもあなただけです」


「…………そっか、やっぱり」


「……マリー?」


 イリスの本音にそう声を漏らしたマリーを訝しみ、顔色をそっと覗き込む。真剣な表情も束の間、すぐいつもの柔らかい笑顔に戻り、


「いつか、気付くよ」


「え、っと、何を、ですか?」


「ううん、何でもない」


 そう再びはぐらかした。今回のは流石に見逃せず、「嘘言わないでください。親友に、隠し事をするんですか?」と詰めよった。


「――イリス、昼食の時間ですよ」


「あ、はい……今行きます!」


 ――と同時、教会の方からニムレットのイリスを呼ぶ声が聞こえてきた。不本意だが、仕方ない。問い詰めるのは今度にする。


 そうして切り替えマリーの手を掴み、立ち上がって教会へと歩き始めるイリス。



「――ごめん、僕はそっちには行けない」


 だが、途中でマリーが立ち止まり、そう呟いたのを耳が捉える。


「な、何故です……!? 何度も、一緒にニムレットさんの手料理を食べていたじゃないですか!」


 そう問い質すも、返ってきたのは儚げな微笑だけ。


 いつしか辺りから物が、空が、色が消失し、真っ白な空間の中、イリスとマリーだけが取り残された。のに、お互い立ち止まっているのにも拘わらず、彼我の距離がどんどん離れていく。


 今にも消えそうなマリーにいても立ってもいられず、駆け出す。近付き、接近し、像が大きくなっていく。だんだんマリーとの距離が埋まっていく。でも、後ろで手を組む彼女の微笑は悲しげで。


「イリスが楽しそうで良かったよ。僕も、安心していける」

「待ってくだ――」


 必死に伸ばす手に、マリーの手のひらが合わせられ、糸が切れたように足が止まる。


「大丈夫。イリスは良くやってるよ。僕なんかよりも、ずっと」


「そんな……ことは……!」


「だから、ほら。そろそろ起きる時間だよ。――えへへ、初めてのお泊まり、楽しんでね!」



  ▽▲▽          ▽▲▽



「――あ、起きた?」


「れ、てぃしあ……さん?」


 開眼。かつての魔力枯渇の時みたく、傍らにレティシアが座っていた。視界には天高く伸ばされた自分の手の甲が見え、左手からは心地よい温かさと滑らかな感触が――。


「なんだか、辛そうだったから」


「……そう、ですか。ありがとうございます」


 出処不明の喪失感が、レティシアの心遣いによって和らぐのを感じる。


「悪い夢でも――ううん、心じゃ抱えきれない夢でも見たの?」


「――ぇ?」


 繋がれた手をぼんやりと眺めていると、レティシアの心配そうな視線がイリスの顔に降り注いだ。


 目元に触れる。生温かい水滴の残滓があった。


「そう……ですね……。何か、幸せな夢を見ていた気がします」


「……そっか。なら良かったよ」


 夢の内容は思い出せない。だが、幾ばくかの喪失感は残っているも、心の大半を占めているのは幸福感だ。


 穏やかな環境から転落し、大切なものが手から零れ落ちたような、そんな感覚。だが不思議と、転落よりも環境への幸福感の方が、格段に勝っていた。


「起きてすぐ食べるのは大変だろうし、ご飯の前にお風呂に入ろうと思ったんだけど、どうかな」


「良いと思います。ですが何故、わざわざ確認を?」


「イリスも一緒に入りたいかなって思って」

「入りませんっ!!!!」


 全力の否定にレティシアがしょんぼりするも、イリスの胸がチクリと痛んだだけで、罪悪感はひとつまみしかない。


 一緒に湯船に浸かったあの一件は不慮の事故――いや、不慮の事件だ。あれは他に選択肢がなかったから仕方なく受け入れただけで、断じて流された訳では無い。全てはニムレットが悪い。


 ――一緒に寝るのでさえこんなにも恥ずかしいのに、女の子同士とはいえ一緒にお風呂に入るなんて、そんな勇気も覚悟もイリスには永遠に準備できそうにない。

 今でもあの時のことを思い出すだけで身体が沸騰する。だから、選択がイリスの手に委ねられるのなら、即答で断る。


「じゃあ、私達は後で入るね」


「……え?」


「二人で入るから長くなっちゃうでしょ? その間に、髪の手入れとかしてもらった方が効率いいかなって」


「あ、そ、そうでしたね。ええ、そうしましょう」


 落ち着いた声色でそう話すレティシアに、サンドラが一人では入浴ができないことを思い出した。


 彼女からすれば意識するまでもない日常なのだろうが、イリスにとっては純然たる非日常であるそれを、事もなげに言い放ち、涼しい顔でいられるレティシアに、イリスは自分の羞恥心が誤作動を起こしているのではとさえ疑ってしまう。


「……レティシアさんといると、度々私の常識が間違っているような錯覚に陥ってしまいますね……」


 そうぼやきながら、隣ですやすやと眠っている桃髪をさらりと撫でる。


 どうやらイリスが仮眠をとっている間に、サンドラにも眠気が襲っていたようだ。レティシアが入浴を後回しにする大因もそこにあるのだろう。


「では、お言葉に甘えて、先に清めてきます」


「うん。ゆっくりでいいからね。それと、一緒に入りたくなったら「なりませんっ!!!」」


 レティシアの提案に全力で否定した後、脱衣所へと足を進める。


 ――前みたく水に顔を沈めていれば? と一瞬頭を過ぎったが、首を横に振って霧散させ、入浴の準備をするのだった。



   □■□          □■□



 イリスが入浴をすませ、レティシア達が入れ替わりで湯船に浸かりに行ってからしばらくして。


「失礼いたします。夕食をお持ちしました」


 と、メイドが扉を叩いた。「はい、今開けますね」と駆け寄り、部屋に招き入れる。


「おや、王国の方々は仲良く湯浴み中ですか」


「はい。そろそろ上がる頃だと思い、先にお呼びした形です」


「――聖女様は一緒に入らないので?」

「入りませんっ!!」


 何かを勘違いし、ニマニマと揶揄ってくるメイドを一蹴し、ワゴンを中へと進めさせる。


「では、こちらで待機していますね」


「その必要はありませんよ――ほら」


「お待たせ、イリス」「い、こんど、いっしょにはいろ!」

「入りませ……いえ、サンドラさん。その言葉はレティシアさんだけに使ってください。他の人にかけてはいけませんよ」


「ってイリスは言ってるけど、イリスなら誘っても大丈夫だからね」「レ・ティ・シ・ア・さんっ!!!」


「……そろそろ、紹介を始めても?」


「あ! いいにおい! め、おねがいします!」


 そうして元気よくお辞儀するサンドラに、イリスは心底救われた。



 □ ■ □



「ごちそうさまでした!」


「うん。よく言えたね、サンドラ。イリス、採点してあげて」


「元気の良さ、手を合わせるタイミング、お辞儀の親しみやすさ、作り手への感謝……文句なしの満点ですよ、サンドラさん!」


「――っ! まんてん! さ、うれしいよっ!」


 と、その場で陽気に体を揺らすサンドラに、レティシアと共に顔を綻ばせる。


 今回メイドが持ってきたのはドリア、ポテトサラダ、白身魚のムニエル、キノコ抜きクリームシチュー、それと茶葉を変えた軟水ストレートティーだった。

 料理自体は頬が溶けるのを錯覚するほど美味しく、スプーンを進めていたのだが、食事を終えた先のことがチラつき気が気ではなかった。


 ――そして遂に、避けては通れない関門が訪れる。




「じゃ、寝よっか」「うんっ!」


「で、ですが……ですが……!」


 威勢のいい返事をしたサンドラとは対照的に、イリスはそう肩を震わせる。


 一緒に寝る。そこは千歩譲ってなんとか飲み込んだ。お風呂の応用で、布団に顔をうずくめていればいい。そうすれば、自然体で前と同じく会話できるはずだ。


 問題は――、


「ベッド二つなんですがっ!?」


「? それがどうしたの?」


「どうしたもこうしたもありません……っ!」


 キョトンとするレティシアに声を震わし、事の重大さを必死に説明する。


「私達、三人なんですよ?」


「うん。見ればわかるよ」


「で、ベッドは二つしかないんです!」


「そうだね。何か問題あるの?」


「大ありです! ――誰かが、一つのベッドで添い寝をすることになるんですよ――っ!」


「……嫌なの?」


「べ、別に、嫌というほどでは……ありませんが……」


 同年代と添い寝をする経験がないのと、恥ずかしいのとが、イリスの懸念の根本原因だ。レティシア達と添い寝をすること自体に嫌悪がある訳では無い。


「――なら、三人で寝ればいいんじゃない?」


「…………え?」


 ――――。今、何か聞こえた気がしたが、脳が処理を拒んだ。


「一つのベッドに三人で寝るの。それなら、文句ないでしょ?」

「みんなで、ねるの……? おはなし、たくさん?」

「そうだよ、サンドラ。楽しくお話して、ぐっすり寝よ?」

「うんっ! い、いっしょにねる、たのしい!」


 ――――。楽しそうな声が聞こえた気がするが、脳が処理を放棄した。



「……寝ないの?」「い、いや?」


 一足先に毛布に入り、レティシアとサンドラがそう問いかける。


「寝ます! 寝ますけど……!」


 ――イリスには、祖父母とニムレット以外の誰かと一緒に寝た経験がない。


 信心深い両親は『聖女』を神聖視し、不必要な接触を避けていた。教会に預けられる前は「聖女部屋」に軟禁され、基本独りで生活していた。

 それを良く思わなかった祖父母がたまに「聖女部屋」にこっそり入り込み寝泊まりしてくれたが、それもイリスにとっては非日常に過ぎなかった。


 教会に預けられてからは主に羞恥によって。よくシスター同士でお泊まり会が催されていたが、初期の頃は『聖女』として、「自分」を思い出してからは感情を理由に参加を辞退し続けた。

 そうして辞退した日には決まって、自分の好きな色で飾った自室にて、想像の中でお泊まり会に参加しては一人悶絶していた。


 そうしたお泊まり経験と実の両親からの愛され経験の欠如が、イリスの羞恥心を一般常識のそれよりも強めていた。


「〜〜っ! 分かりました、分かりましたよ入ればいいんですね入ればっ!!」


 半ば投げやりになり、勢いのままにベッドに飛び込む。真横にレティシアがいた。顔を埋めることにした。


「イリスは可愛いね」


「うるさいですっ!」


「かわいい、ね!」


「真似しないでくださいっ!!」


 心の許容量を超えた恥ずかしさにふるふると肩を声を手を震わせ、暗闇の中に沈み込む。身体が熱い。おかしい。お風呂の時は、次第に静まっていったのに。むしろどんどん熱くなっていく――。


「そういえば、イリスはナフィリンとどうやって友達になったの?」

「ひぇあ!?」


 そんな中の唐突な問いかけに身体が跳ねる。


「え、あ、そ、そうですね……私が『純白の聖女』として教会に本格的に担ぎ出された辺りでしょうか」


 確か、頭痛と不眠と気持ち悪さの三重苦に苛まれていた時期だ。マリーと出会う少し前だったと思う。


「皇城にご挨拶に伺ったんです。私は聖女である前に帝国の臣民であり、主に次ぐ忠誠を閣下に誓います、と、閣下に申し上げました」


 その言葉に偽りはなかった。


「しかし閣下は笑顔を消して、仮面を外せ、顔を見せろ、不敬であろうと私を追い出したんです」


「……なんか、ナフィリンらしいね」


「ですよね。私もそう思います。……その時は真意が分からず、追い出されたことを誰にも告げないまま教会に戻ったのですが……それから少しして、意味が分かりました」


 マリーと出会い、忘れていたものを思い出した。


「そして再び謁見した時、彼女もまた仮面を被っていることに気付いたんです」


「じゃあ、イリスから言ったの?」


「ええ。差し支え無ければ、このイリス・ミリネスが、ナフィリン・ランゴルマージの友達になりましょうか? と」


 無礼な物言いだったと今は猛省しているが、その無礼さがナフィリン的には合格だったらしい。大層愉快そうに大笑いし、「いいだろう、イリス。お前に、妾の唯一の友人を名乗ることを許す」と告げたのだ。


「な、かっこいい! いも、かっこいいよっ!」


「ふふ、ありがとうございます。閣下との馴れ初めはこんな感じだったかと。レティシアさんの方はどうだったんですか? サンドラさんと、どうやって知り合ったので?」


「私は、傷だらけのところを助けてもらったんだ。以来、サンドラは私から離れようとしなくて……親友だって気付いた今は、多分あの時の私も同じだったんだろうなって、思ってる」


「……納得です。でなければ、『侵色』に寄り添うことなどできなかったでしょうからね」


「ふふ、それをいうなら『聖女』様だってそうでしょ?」


 そうして軽口を言い合う間に、いつの間にか羞恥が無くなり、布団から顔を出して会話に興じていた。あまりの楽しさに心が高揚し、つい普段なら言わないことまでも言ってしまったりしたものの、それすらも楽しく、レティシア達も笑ってくれるので、心置き無く過ごすことができた。



 □ ■ □



 そうして楽しい時間を過ごしているうちに、サンドラが静かに眠りに落ちた。


「――ね、レティシアさん」


「ん。何?」


 横を向き、さらりと流れる艶やかな黒髪を目に映して薄く囁く。暗闇の中、布の擦れる音が聞こえると同時、こちらに振り向いたレティシアの澄んだ黒瞳が目と鼻の先に現れる。


「…………王都に戻ったら、レティシアさんのお部屋にお泊まりに行ってもいいですか?」


 今のイリスには、恥じらう心も躊躇う心も存在しない。思ったことを、感じたままに、伝える。


「もちろんだよ、イリス。サンドラも絶対喜ぶ」


「ふふっ、ですね!」


 そうして笑い合う中、サンドラで思い出した。「あ、そうです」と話題を切り込み――、


「サンドラさんの目ですが、そろそろ外しても大丈夫そうです」


「本当っ!?」


「しーーっ! 起きてしまいますよ……!」


 無意識に大声を出してしまったレティシアにそう諭すも、その反応は当然だと、イリスは考える。


「ニムレットさんもいますので、明日、どうでしょうか。もちろん、本人の希望も聞いての上にはなりますが……」


「――うん。お願い」


「任されました」


 短く応じ、ふふんと小さく鼻を鳴らす。


「ナフィリンとお茶会する前にする?」


「そうですね……あの人の習性を考えると朝でもいい気がします」


「あー…………」


 手短に応じたイリスに、レティシアがそう何とも言えない顔で同意してくれた。言葉にせずとも、経験者であるレティシアには伝わったようだ。――少々、複雑な気持ちだが。


「まぁそこは起きてから考えましょう。今は明日をめいっぱい楽しむために、身体を休ませるのが先決です」


「……だね」


「おやすみ、イリス」

「おやすみなさい、レティシアさん」



 至近距離で爽やかに微笑むレティシアに、イリスも心の赴くままの表情で応じ、ゆっくりと目を瞑る……。




 ――そして案の定、翌朝、夢から覚めたイリスの視界には、肉親の顔より見慣れた笑顔が映っていた。

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