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極相色彩のケイオスライン  作者: 路崎舞
断章『エピローグ』
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断章4話『帝国を統べる者』

「妾が第三十八代ランゴルマージ皇帝ナフィリン・ランゴルマージその人である」


 帝都シャラド到着の翌日。皇城の豪勢な応接室、レティシア達が着席した瞬間の開口一番がそれだった。威風堂々とした佇まいの少女が、いかにも豪華な椅子に足を組んで座っている。


「久方ぶりだな、ナフィリン皇女殿下……いや、今は皇帝閣下か。息災か?」


「愚問。皇帝とは日夜衆生を見守る陰らぬ月だ。当然の事を聞いてどうする」


「はは、相変わらずのお方だ。お変わりなく何より」


「たわけ。三歳児とは別の魅力が今の妾にはあるわ」


「あぁ、誤解するな。その聡明で豪胆な所は変わらず成長されて安堵した、という意味だ」


 皇帝と王様が言葉の応酬をする中、レティシアは皇帝――ナフィリンの底知れなさに戦慄した。


 浅紫色の長髪を背に流し、左右色の違う瞳で王様を品定めしている。濃い紺色を基調とした華美なドレスを身に纏い、レティシアよりもちっちゃい。それに寝癖なのか元々なのか、頭の頂点から髪がピョンと跳ねている。触ってみたい。

 フォレオスとも旧知のようなので、恐らく年齢はレティシアよりも上。それを差し引いても、低身長をものともしない威風堂々とした振る舞いは、歳不相応に成熟しているように感じる。


「――――」


 だが、レティシアには彼女を『侵色』できる未来が浮かばない。全てを見透かすような右の淡い金眼と、全てを燃やし尽くすような左の濃い赤眼。それらがレティシアの一挙手一投足を補足し、ヴァインのように先手を取られ続ける。そう思えて他ならない。


 こんな感覚は初めてだった。戦ってみない事には分からないが、恐らくナフィリンはレティシアと同じくらい強い。背がちっちゃくても髪の毛がピョンとしていても、油断する理由にはならない。


「世辞はいい。それより、貴様がフォレオス王の妻か。聞いた話では、先妻は持病で早逝したらしいが」


「お初にお目にかかります、閣下。私はミネア・ソランデュー。一度は死に、そして再びこの世の生を受け入れた、フォレ君の永遠にして唯一の妻です」


「――はははっ! そうかそうか! さてはフォレオス、貴様世界を謀ったな? いやはや実に愉快ッ!」


 ミネアの名乗りを聞いて暫く目を丸くしていたナフィリンだったが、突如として破顔し豪快に大爆笑し始めた。初めて相対する互角と思しき相手の突然の変容に、無意識に柄に手を置いていたレティシアは呆気に取られる。


 彼女の抱腹絶倒は三十秒程続いた。


「はは、すまない。これ程痛快に感じたのはグアトライウスの急死以来故、少々取り乱してしまった。ともあれ、不条理な運命に抗い摂理を捻じ曲げた貴様らに、深い敬意を表する。それは、妾にさえ成せるか分からぬ偉業だ」


 先程の笑う姿は何処へやら、胸に手を当て瞑目するナフィリンの姿からは、正しく一国の主に相応しい気品が溢れていた。


「それにしても、まさか️ネルヴィス殿が帝位を放棄していたとはな」


「あぁ、言っていなかったか。五年前、母上は突然『めんどい。飽きた』などとのたまい皇帝の座を娘に押し付けたのだ。あの自由奔放を地で行く性格には、妾もほとほと困らされたものよ」


 それはあなたもじゃない? と思ってしまったが、余計な顰蹙を買うだろう事は流石のレティシアにも察せられたので、黙っておくことにした。


「してフォレオス王よ。イリスはいいとして、その者らは誰だ? ダリウスが見当たらない点を踏まえると世代交代したと見受けられるが……であればもう一人の存在が謎だ」


 一瞥。たった今、レティシアは初めてナフィリンの視界に入ったような錯覚を覚える。だがその視線に敵意は無く、怪訝そうな表情からも他意は無いと分かった。

 ヴァインから学んだ騎士団長としての振る舞いをなぞり、挨拶をする。


「初めまして、皇帝閣下。前団長ヴァインから責務を引き継ぎました、第四十七代王国騎士団団長レティシア・パレットです。隣の子は私の親友で、サンドラ・ミリエスタと言います」


「な、おはよう!」


「これからよろしくお願いします、と言ってるの。ナフィ閣下が可憐で凛々しいから、きっとサンちゃんも心を開いてるんだわ」


「そうか。まぁ妾が世界一の愛らしさと凛々しさの持ち主である事は自明の理である故、納得だな」


 ナフィリンはそう結論付けた後、改めて理知的な双眸でレティシア達を見る。フォレオス、ミネア、レティシアと来て、サンドラに差し掛かったところで口を開いた。


「サンドラといったか――そなた、一度記憶を無くしたな?」


「……凄いです。どうして分かったんですか?」


 サンドラの過去については何一つ知らないはずだ。なのに、ナフィリンは的確に彼女の現状を言い当てた。その鋭い洞察力にレティシアはまたもや驚かされる。


「なに。年齢に不相応な語彙に発声、表情に幼稚さが滲み、歩くにも誰かの支援が必要となると、自ずと可能性は絞られてくる。その様子を見るに、抜け落ちたのは基礎的なそれか」


「思い出も、です」


「そうか――眩しいな」


「…………え?」


 独り言のように呟かれたナフィリンの感想に、レティシアは思わず声を漏らしてしまう。今のサンドラにのしかかっている困難とその印象とは、あまりにもかけ離れている。

 そうして関連性を読めず困惑するレティシアに、ナフィリンが「だってそうだろう?」と補足する。


「全てを失い、失ったという事実さえも忘却し、通常ならそのまま廃人となって然るべき境遇だ。しかし、サンドラ――そなたは再び、自分を形創ろうとしている。これを眩しいと言わずしてなんとする?」


「――――」


 そうしてナフィリンが自信に満ちた表情で笑いかけた瞬間、レティシアは自覚する。これまで、無意識にナフィリンを戦闘面で評価していたことを。


 これから和平を結ぶだろう相手とは認識しつつも、それでも『侵色』できるか否かの基準で品定めしていた。有事の際、サンドラとイリスをどうやって守るかに思考を巡らせ、警戒に体を強ばらせていた。

 でも、そうではない。ナフィリンは純粋に、サンドラに敬意を払い称賛している。そんな相手を『侵色』するなど、疑うなど、レティシアにはできなかった。


「な、うれしい?」


「ほう、もう感情の機微を聞き分けられるか! 良いぞ、サンドラ。その調子で励むといい――そうだ、レティシア。妾はサンドラの記憶回復を全面的に支援する事にした故、後程サンドラについて詳しく聞かせてくれぬか?」


「――いいの?」


 肩の力が抜け、思わず素が出てしまった。


「その口調でよい、その方がお前に合っているからな」


 だがそれを咎めるでもなく、むしろナフィリンは好意的に解釈した。


「なに、これも友好と敬意の証と思ってくれ。妾としても、同年代の友人に飢えていてな。以前は話し相手をイリスが務めてくれていたのだが、気兼ねなく話せる相手は何人いてもいい。故にレティシア、サンドラ。そなたらに妾の友人となる事を許す。定期的に文も(したた)める故、心に留めておいてくれ」


 堂々と、敵国の騎士との友達宣言を行ったナフィリン。彼女の発言を聞き、すかさずミネアが挙手して皇帝に話しかけた。


「ナフィ閣下。その友人、私も立候補していいですか?」


「ん? 既にお前は了承しているものと思っていたが」


「で、では……ナフィちゃんと、そうお呼びしても?」


「そ、それは少々気恥ずかしいが……認めよう。自然体で構わぬぞ、ミネア」


「わぁ、ありがとうナフィちゃん! じゃあ早速明日お茶会でもしましょう?」


「急だな! ――ザレン、明日は特に公務は無かったな?」


「はい。ですが目を通さなければならない資料が新たに二百件程増えましたので、そちらの処理もお忘れなく」


 ぐいぐいとくるミネア節にたじろぎつつも、寛大に受け入れたナフィリンが、聞き慣れない名前を口にする。



 ――刹那。背後、前触れもなく現れた気配に背筋が凍る。


 レティシアは、お父様の訓練の成果により人の気配をある程度察知できる。そのレティシアをして、声が聞こえるまでその存在に気が付かなかった。


 顔だけ振り返り、黒服の偉丈夫の動向を注視する。


「――あなた、何者?」


 紫がかった短い黒髪に、縦長の瞳孔が特徴的な男だった。武器の類は持っておらず、品定めするように鋭い黄眼を細めている。不気味なほど洗練された所作、存在感を消す卓越した実力。

 そうしたことが所以なのか、親しみやすい皇帝とは異なり、彼からは抗い難い圧を感じる。理屈的なものとは違う。本能で、そう感じる。


 そうして観察の目を向けるレティシアに、彼は表情一つ変えず優雅に一礼し、


「ザレンと申します。閣下の右腕と思ってくだされば結構」


 どこか無機質な――それこそ、イリスと会う前のレティシアのような声質だった。その事が気になりつつも、まずは返事の内容がズレていると伝えようとする。


「うむ。なら問題ないな。今日やっておこう」


 が、そう会話を閉じてしまったナフィリンにより、レティシアは口を挟む機会を失ってしまった。


「場所の指定はあるか? なければこちらで手配しておくが」


「特にないよ。ナフィちゃんのオススメでお願い!」


「あぁ、分かった。決して後悔させん。至上の幸福を約束しよう」


 ミネアの言葉に得意気に顔を歪めるナフィリンを見て、今朝のフォレオスのドヤ顔がレティシアの脳裏を過ぎった。サンドラ越しにイリスの顔を見る。口元が柔らかった。


「……なんだ、イリス。妾のはしゃぐ姿が滑稽か?」


「あ、いえ。ただ、閣下が純粋に笑い浮かれている様子を見て、本当に全てが終わったんだなと。重い肩の荷が少し降りたようで、ほっとしています」


「――そうだな。今回はその件で交渉があるのだったな。妾とした事が失念していた」


 レティシアも忘れていた。


「ともあれ、そなたの顔つきと妾の態度を見るに、向かう先は決まっておろうが」


「そう言っていただけて光栄だ。――ソランデュー王国は正式に、ランゴルマージ帝国との終戦を申し出たい」


 表情を演説の時のように引き締め、フォレオスが決定的な話題を切り出す。一瞬ナフィリンは目を見開き驚愕を露にするも、すぐに真面目な顔に戻し、フォレオスを鋭く射抜く。


「――二十年前、母上が発した言葉を忘れてはいるまい?」


「うむ、きちんと覚えている。賠償金の準備に抜かりは無い――ネヘランドミルが後ろ盾となり、ソランデュー名義で支払うことを約束しよう」


「……聞き間違えか? よもや守銭奴共に縋るまで落ちたか、フォレオスよ」


「物は言いようだな。ただ必要なものを必要としている相手に適切に譲渡し、等価値の恩恵を享受するに過ぎない。故にこれは、王国による貴国――いや、貴国民に対する正当な償いだ」


「……妾の認識が正しければ、貴国は莫大な賠償金に見合った対価をネへランドミルに支払ったという事になるが?」


「その通りだ、ナフィリンよ。――余は、ネヘランドミルに賠償金を工面してもらう代わりに、兼ねてより持ち掛けられていた自動無線機の共同研究の提案を呑み、関連する研究記録の共有を申し出た」


 静謐に語られるフォレオスの決断に、再びナフィリンの顔が驚きに満ちる。口を僅かに空けながら、理解できないものを見る目でソランデュー国王を凝視した。


「…………正気か?」


「至って。そもそも、あれは余人には決して解明できない難題が幾層にも積み重なった、人の手に余る代物だ。動力源が魔力であると判明したのもつい最近のこと。たとえソランデューとネヘランドミル、それにランゴルマージの集合知を以てしても、三百年は仕組みを解明できないだろうな」


「――ほう?」


「これは実験済みなのだが、複製は王国内でしか行えない。無論、原因は不明だ。この百年間、我々は部品の意味も分からぬまま遺された製法に則り複製を継続してきた。その間天才科学者の命題に取り組んでは無惨に散っていった名だたる科学者の数が、自動無線機の機密性を証明していよう」


 サンドラの顔を見る。耳を立て、口を結び、二人の難しい会話に真剣に聞き入っていた。

 レティシアも内容はある程度理解できるものの、進んで聞きたいとは思わない。

 「退屈」、だったか。前にサンドラがヴァインの愚痴を零した時にそんな事を言っていた。


『そりゃ事務連絡だしアタシだってちゃんと最後まで聞くよ? でも、あのバカ真面目な隊長、ユーモアの概念がないからホンっっト退屈っ! この前なんて、笑い一つない空間に三十分も拘束されたんだよ?』


 流石にサンドラまでは言わないし、局所局所面白い話もあるが、今の現状に対してレティシアも同意だった。可能であれば、イリスやサンドラ、あとミネアとお話していたい。


 しかし、今のレティシアは王国騎士団団長としてここに立っている。『責務は全うしなければならない』とは「訓戒」の一つだったが、「訓戒」以外の大切を知った今でも、イリスと検討し、お互いが納得のいくものについては引き続き従うことにしている。

 故に、内容の小難しさに「退屈」を感じつつも、一言も聞き漏らさないよう傾聴している。


 要するに、外交の形式を変えたということらしい。

 借金は刹那の解決しかもたらさない。その時は良くても、ネヘランドミルに握られる致命的な弱みは半永続的に王国を蝕む。膨大な借金は王国の未来に大きな影を残し、財政を圧迫してしまう。それは、フォレオスの信念から最も遠い結果だろう。

 だからあくまで対等な交渉として、貿易として商業大国の協力を漕ぎ着ける道を選んだ。貸し借りはなく、王国の先行きが危うくなることも無い。


 合理的な判断だとレティシアも思う。恐らく、お父様も同じ手段を講じる。


「あくまでネヘランドミルには『機会』を提供したに過ぎない。その意味、分かるだろう?」


 それに、フォレオスの話を踏まえると、交渉材料として用いた自動無線機が王国外で量産・普及・使用されるのは数百年単位で先だ。それまでには自動無線機に替わる新たな技術が開発されていよう。

 自然、王国側が被る損はほとんど無いと言っても過言ではない。


「……あぁ、理解した。――流石の妾も、守銭奴共に同情してしまったよ」


 額に手をやり、フォレオスの策略に呆れ果てるナフィリン。レティシアもやってみる。おでこが温かい。



「で、あれば。条件を二つ程付け加えよう」


 ――と、そこで話が終わるかと思いきや、ナフィリンの付言に雲行きが怪しくなる。二十年前には「多額の賠償金を支払う」ことが条件として提示された。順調な流れを斬り裂いたナフィリンの要求は、フォレオスの眉間に皺を生んだ。


「お言葉だがナフィリン、それは横暴というものではないか?」


「それは聞いてから判断すれば良かろう。――共同研究の件、妾にも一枚噛ませろ」


 ――しかし、実際に放たれた要求は一行の想像を遥かに下回るものだった。思わぬ提案に、皇帝以外の――ザレンを除いた皆が呆気にとられる。

 そうした反応を見取ってか、ナフィリンが口端を吊り上げて愉快そうに解説を始める。


「帝国の力を以てしても数百年の時を要するなどと挑発されて見逃せるものか。それに、なんだその聞くに面白い状況は。仲間外れは寂しいぞ、フォレオス。妾も混ぜろ」


 鼻を鳴らし、傲岸不遜にちんまりとふんぞり返る皇帝。嬉々として語るその様子が、レティシアには駄々をこねる孤児院の弟妹のように見えた。


「……そんなことで良いのか?」


「そんなことが良いのだ。当然、了承するだろう?」


「――うむ。特に断る理由もないからな。帰国後、『八守銭』に文を送るとしよう」


「助かる」


 条件と言うから身構えたものの、二人は端的なやり取りですんなりと事を進めた。

 ――だが、それすら皇帝の策略である可能性も捨て切れない。簡単な条件を呑ませて引くに引けない状況を構築した後、本命を切り出す。そうした交渉術があると三百八十七――レティシアの血の繋がりは無い兄から聞いたことがある。だからこそ、次にくる二つ目の条件が山場だと息を飲んで――、



「二つ、イリスの王都滞在を許可してくれ」


「……閣下?」


 呆気にとられた。

 イリスのきょとんとした呟きに、レティシアも深く共感する。


「イリスにも、妾とマリー以外の友人ができたのだろう? ならばその者を大切にせよ。なに、ニムレットなら心配いらない。ザレンの監視の下、特別に妾の寝顔を拝ませてやっているからな」


「閣下っ!?」


 イリスの絶叫が室内を木霊した。


「そも、奴に好色の兆しはない。猫を愛でるとか、犬を撫でるとか、そういう感覚なのだろう。それに、友達の日常を体験してみたいと思うのは、それほど不思議な事か?」


「そ、れは…………」


 予期せぬ切り返しにイリスが言い淀む。ナフィリンの言葉にはレティシアも同意だった。


「不思議じゃないと思う。私も、よくサンドラの真似をしてたから」


 あの時は無意識だったが、思い返してみれば、サンドラの真似をよくしていたのはレティシアなりの親愛の証だったのだろう。サンドラへ向ける友愛の気持ちを自覚できなくとも、結果としてそれが行動に表れていた。


 ――『侵色』時代にも、感情はあった。それに気付けなかっただけで、確かに存在はしていた。でもそれはきっと、サンドラがいなかったら照らし出されることも無く、イリスと出会っていなかったら「黒」で塗り潰していただろう、弱く脆い無駄だった。

 しかし、それが必要な無駄だと今は分かっている。人の為の、友達の為の無駄は、無駄では無い。


「そういうことであればこちらからも提案が。ナフィリンよ、両国の関係修復に向けて交換留学を行わんか?」


 そうレティシアがナフィリンの言い分に頷く傍ら、待ってましたと言わんばかりに自信に満ちた表情で、フォレオスが手段――もとい『純白の聖女』の王都滞在の口実を提言した。


「おぉ! それは名案だなフォレオス! 皆も、異存ないな?」


 フォレオスの提案に目を輝かせたナフィリンが、身を乗り出しそれぞれの顔を見る。首を横に振る者はいない。


「――決まりだな」


「あぁ。正直、未だに実感がないぞ」


「余も同じだ。……『暗愚王』が始めた三十年にも及ぶ戦争は今、この瞬間を持って終結した。ナフィリン・ランゴルマージ皇帝閣下、これからよろしく頼む」


「は。妾の言葉を奪った罪は重いぞ? フォレオス・ソランデュー国王陛下?」


「はは、では責任を取り、王国が帝国に対し末永く友好的であることをここに誓うとするよ」


「調子のいいことを。ミネアという良妻がいながら妾をも口説こうというのか? ――良いだろう。帝国も、王国に対する遺恨を解消するよう努めよう。その為に、妾は尽くす手を惜しまない」





 関係者の見守る中、両国の主はどちらからともなく握手を交わし、交渉の締結――戦争の終結を象徴した。身長差のある二人は、けれど対等な立場で相手への尊敬の念を送り合う。二人の晴れやかな顔と澄み切った瞳が全てを物語っていた。



 こうして後の世に「『暗愚王』三十年侵攻」と呼称される不当な侵略戦争は幕を閉じた。

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