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極相色彩のケイオスライン  作者: 路崎舞
断章『エピローグ』
27/41

断章2話『最速の生物』

 しばらくイリスと他愛のない話をしてから、レティシア達は王室を訪れた。出発の前に寄って欲しいとフォレオスから頼まれていた為である。


「フォレオス、来たよ」


「おぉ、レーたんか。うむ、入るといい」


「失礼します」


「いつれーいあす!」


 入室の許可を得てから荘厳な扉を開け――た瞬間サンドラが勢いよく駆け出してしまった。が、椅子に衝突する寸前で咄嗟に身を乗り出した女性――ミネアが割り込むことで事なきを得、レティシアは安堵の息を漏らす。

 こうして危なっかしい入室を果たしたサンドラに続く形で、中へと足を踏み入れる。そこにいたのは、面白い程に破顔している王国の国家元首だった。


「おぉ、もう話せるようになったのか! ではサンたん、余の名前は覚えておるか?」


「んー……ふぉ?」


「うむ、余はフォである。過たず呼べた事、賞賛するぞ!」


「お戯れはそこまでにしてください、フォレオス国王陛下――顔、崩れていますよ」


「崩しておるのだ、イーたんよ。はは、ごきげんよう、レーたん、イーたん、サンたん」


「おはよう、レティちゃん、イリちゃん、サンちゃん。コーヒーの準備はできてるから、よかったら飲んでいってね!」


 一国王に対して慇懃無礼に接するイリスへのお咎めも無く、サンドラを愛で続けているミネアが三人の来訪を歓迎する。一応の反応は返しつつも、依然としてフォレオスの返答に苦虫を噛み潰したような表情のイリスの手を握ってあげる。温かい。



「――おや、あなたは「誰?」……ひ」

「レティシアさん!?」


 肉迫。イリスから手を離し、抜刀。声の発信源に刃を宛てがう。この場にはフォレオスとミネア、レティシアにイリス、サンドラしかいないはずだ。

 返答次第では『侵色』する。大切な人達を守る為に。もう二度と、大切な人を失わない為に。


「答えて。あなたは人間? それとも肉?」


「し、質問の意味が分かりません! 人間に決まっているでしょう!!」


 しかし、そうしたレティシアの覚悟は杞憂となる。大声で抗議する不審者――茶髪の男性が抱えていた紙束が宙を舞い、落下。そこに目を落とすと、難しい文章が書かれていた。「帝国」「統計」といった単語を見るに、政治関係の書類であるようだ。つまり――、


「じゃあ、関係者……?」


「何のことか分かりませんが、僕は秘書官です! ですから早くその剣を納めてください!」


 フォレオスの顔を見る。両目を瞑って頷いていた。


「――そう。早とちりした、ごめんね」


「ぅ、い、生きた心地がしなかった……」


 鞘に収め、周囲に散らばった書類を拾い始める。すぐにイリスも駆け寄って来て収集を始め、短時間で拾い切ることができた。


「はい、どうぞ」


「どうも。まったく、次からは気を付けてくださいね? こんな経験、二回で結構です。――数日ぶりですね、黒髪のお嬢さん」


「……私?」


 黒髪という時点で該当者は一人しかいない。レティシアから受け取った紙束を抱え直した茶髪の男性――初めて見る人間のはずだが、彼はレティシアを知っているようだ。

 騎士団長に任命されて日が浅く、かつ臨時部隊の暗部であったレティシアをレティシアと認知している者はそう多くない。そこに面識がある条件を加えると、候補は絞られてくるが――、


「おかえりなさい。――察するに、望むものは得られたのですね」


 そう口元を緩めて発された言葉と声に感じた既視感を手掛かりに、長い追憶の旅に出る。サンドラと就寝、イリスとキノコシチュー作り、王様の演説、お父様との決戦、イリスとの対話、出国して帝――あ。


「……もしかして、門番?」


「まさかの忘れていらっしゃった!? ……いや、あんなに衝撃的な初対面を簡単に忘れられるはずは……」


 思い出した。このブツブツと考察を深めている男性は、かつてレティシアの出国を見逃してくれた門番だ。確か王様の演説の風向きを変えたのもこの人だった気がする。しかし彼は罷免されて王様の情けで生き長らえていると話していた。それが何故、王様の部屋で紙束を抱えているのか。


「紹介しよう。彼はフレディ・カスマン。かつては門番として貢献してくれていたが、今は余専属の秘書官として力を振るってもらっている」


「フレディ・カスマンと申します。フレディでもカスマンでも、お好きなように」


 国王直々に紹介され、恭しく青年――フレディが腰を折る。


「イリス・ミリネスです。よろしくお願いします、フレディさん」


「私はレティシア。この子はサンドラ」


「ふ、おはよう!」


「はい、おはようございます、サンドラさん。――陛下は職務怠慢で罷免された僕の生活を保障してくださっただけでなく、五日前にこの役職をお任せになったんです。訳を聞いたら、僕自身の潜在能力と内部推薦が決め手だったそうで……」


 と、誰も聞いていないのに身の上話を始めたフレディを改めて見る。

 ――目の下の隈が深く沈殿している。察するに、ここ数日で新たに獲得したのだろう。疲弊し切った目元からは想像を絶する苦労と困難が窺え、求められるでもなく自分語りをしているのも疲労が原因と考えられる。

 ――正直それ以外の印象はパッとしない。良くも悪くも特徴のない顔付きと、レティシアは判断した。


「――大変そうだね」


「えぇ、本当ですよまったく。玉座の間の扉修復を手配したり、国民の実態を分析したり、請願書に目を通したり、陛下と対外政策について話し合ったり、『侵色』と『純白の聖女』の叛逆を関係者に納得のいくように説明したり、それでいて関係者以外には漏れ出ないよう隠蔽工作を指揮したり……一兵士に過ぎなかった僕には荷が勝ちすぎてて参っちゃいますよ」


 はは、と力無く笑っているが、その過労の大半が、目的達成以外が頭から抜けていたレティシアとイリスの後始末だったので笑えない。

 せめて彼にはニックと同じように接しようとレティシアは心の内で決めた。


「フレディは良くやってくれている。公私混同もせず、民衆からの信頼も厚い。贔屓目抜きに適任だった」


「そんな……ありがたき幸せです」


「ところで、三人で来たってことは何か話したい事があるのよね?」


 そうした主従の応酬を後目に、サンドラを支えて立っているミネアが一石を投じた。片目を瞑ってこちらに笑いかける様子から見るに、助け舟を出してくれたのだろう。

 ミネアの善意に応じるべく、レティシアも片目を瞑ってみる。上手くできない。何度試みても両目を瞑ってしまう。物理的に潰せば何とかなりそうだが、自傷は誰からも学んで無いのでやめておく。それにお父様も悲しませちゃいそうだし。


「ええ。フォレオスさん、あなたに頼みたい事があります」


「フレディ、判子の準備を」


「はい、こちらに」


「いえ、まだ何も言っていないのですが……」


「イーたんの頼みを断るなど余にはできんからな。あ、勿論レーたんもサンたんも同様だ」


「では、その寒気のする呼び方を辞めて頂けませんか?」


「それは断る」


「話が違うじゃないですか……っ!」


 と絶叫するイリスに関してここ数日で分かったことがある。

 イリスとフォレオスが話すと大体イリスの調子が崩され、このように話の筋から脱線してしまうのだ。日常会話ならそれも頬が緩む光景だと眺めていられるが、大事な話をする場においてはすこぶる相性が悪い。


 なので、そういう場でイリスがフォレオス節に翻弄された時は、レティシアがイリスの役割を引き継ぐ事にしている。


「サンドラも連れて行っていい?」


「フレディ、御者へ連絡を」


「既にお伝えしました」


「重畳だ」


 だが結果はイリスとさほど変わらなかった。


「え……あの……こんなにあっさり決めちゃっていいんですか?」


「イーたんに同行してもらうと思い立った瞬間から既に決めていたのだ。無論、サンたんの容態と相談する必要はあったがな」


「一人で留守番は寂しいじゃない? だから、サンちゃんにも一緒に来てもらったらってフォレ君に提案してみたの」


「はは、あの時は心の繋がりを実感して歓喜に酔いしれていたな。自明の理であるのに年甲斐も無くはしゃぐとは……我ながら思う所がある」


「まだそんな歳と見た目じゃないでしょ。心配しなくても、私の目にはいつも煌びやかに映っているわ。あなたの在り方に惚れたんだもの。フォレ君が本当にお爺さんになっちゃっても、私は変わらずあなたと共に在るよ」


「……ミネア、抱き締めてもいいかな?」


「今はダメ。ほら、教育に悪いでしょ?」


「うっ……なら余は大人として、国王として耐え凌ぐとする」


 苦渋の決断といった苦渋な顔でフォレオスが拳を握る。それを隣で目尻を下げて微笑むミネアの頬が、僅かに変色していた。サンドラはポカーンとしている。


「幸せそうだね」


 隣で複雑な表情をしているイリスにそう声をかける。レティシアには二人の共有している感情は未知のもので分からないが、二人とも幸せであることは容易に察せられた。


 これはレティシアが悲願を『侵色』し、イリスが捨て身で死力を尽くさなければ実現し得なかった光景だ。立役者と言うには大袈裟だが、その一人として感じ入るものがある。


「……はい。人前では為政者に相応しい威厳を、と言いたいところですが、その気も失せました」


 そうため息を吐くイリスだったが、レティシアには言う程悪く思っているようには見えなかった。



「――そろそろ時間だな」


 そうした中、前触れなく発せられた国王の独り言が、私語を消失させる。帝都に向けて出国する時がすぐそこまで迫っていた。


「では、ついてきてくれ。はは、きっとそなたらも驚愕することだろう」


 フォレオスのドヤ顔が唯一の心配要素だったが、流石のイリスも空気を読んだのか口にしなかった。



  □■□          □■□



「おはようございます。国王陛下、王妃殿下並びに付き人様。本日はよろしくお願いいたします」


 フォレオスに連れられ庭に出ると、丁寧な低い声と共に️髭を生やした紳士が出迎えた。


「ごきげんよう。こちらこそ、よろしく頼む」


「おはよう! わぁ、これがお馬さんなのね? 今から楽しみだわ!」


 感情が身振り手振りに反映されているミネアと同様、レティシアもその未知に目を向ける。


 初めて見る肉だ。毛があり、茶色。四足歩行で、首は人間より長く太い。後ろには用途不明の毛の集合体があり、ピョンピョン跳ねている。

 更に特徴的なのは顔だ。あれほど細長くシュッとなっている肉は見たことがない。なるほど確かに、これには驚愕した。


「イリス、この肉は何?」


「馬と言います。……肉ではないです」


「……もしかして、人間以外の肉も肉じゃないの?」


「えーっと、まぁ確かに肉ではあるんですが……彼らも私達と同じく生きています。命があるんですよ」


「――そうなんだね」


 頷き、以前は跳ね除けていただろうその真実をゆっくりと咀嚼する。


 ――肉にも「命」がある。それは「訓戒」で示されていた、単なる生命維持装置としてではなく、人間と同様、時を紡ぐもの。受け入れ難く、レティシアには納得できない事象だったが、「訓戒」が全てでは無いと既に学んでいるので何とか飲み込んだ。


 そうしてこの新事実を踏まえてみると、肉にも「サンドラ」がいる可能性が生まれた。更にその肉も誰かにとっての「サンドラ」かもしれない。これからは、たとえ肉相手でもその点を考慮しなくては……。


 と、基本方針の更新に没頭するレティシアの傍ら、馬車の前で頭を下げる紳士にフォレオスとミネアが引き続き応じていた。


「モーハルラントと申します。御者、で結構です」


「流石に呼べんよ、モーハルラント殿。なにせ、皇帝閣下直々の使いだ。無下にできん」


「固い理由なんてなくても御者だなんて呼べないわ。だって、そんな呼び方、冷たいじゃない」


「……左様ですか。であれば、お好きなように」


 再び腰を折りモーハルラントが一礼。

 こうして顔合わせを済ませた国王夫妻とフレディは、モーハルラントと共に出立の準備を始めた。人手は足りてそうなので、レティシア達は近くのベンチに腰を下ろして待つことにした。




「考えてみれば当然でしたが、馬車が手配されているとは驚きました。道理で、午後からで間に合うわけですね」


 あれこれと話しつつ支度を進めている大人を眺めつつ、イリスがそうこぼす。 


 因みにレティシアの左手はサンドラと繋がっている。歩くこと自体は問題なく行えるようになったものの、視力が無い状態で一人歩かせるのは酷だ。あと、レティシアが手を繋いでいたいというのもある。

 ベンチに座り、安全上問題無く過ごせる今も手を離していないのは後者が理由だった。サンドラもサンドラで、優しく握り返してくれているので嫌がってはいない。


 なお、イリスにも提案してみたが、意味もなく手を繋ぐのは恥ずかしいらしく、右手は空席のままだ。


「馬って、そんなに速いの?」


「速い、だけでは不十分なくらいには。そうですね――帝都から王都まで、レティシアさんが私を抱えて疾走して十二時間くらいでしたよね?」


「確か。でもあの時はそんなに急いでなかったから。もう少し早く走れるよ」


「……まさか、七時間とか言い出しませんよね?」


「うーん……休憩時間も含めると、五時間くらいかな」


「…………失礼を承知でお聞きします。人間ですよね?」


「そのはず」


「…………すみません、動揺のあまり変な事を聞いちゃいましたね。ともあれ、レティシアさんがレティシアさんで安心しました……」


 当然の事に胸を撫で下ろしているのが謎だったが、話の腰を折らないよう口には出さなかった。


「話を戻しますと、馬車に乗ればここから約七時間で帝都へ行けます。レティシアさんの障害にはならなかった断崖絶壁も、蹄のトゲで難無く突破できるんですよ。生身で行こうとすると普通は一日かかる距離ですから、馬の凄さを伝えられると思ったのですが……」


 そこで止め、イリスが肩をすくめる。だがそれは杞憂だ。今の話のおかげで、レティシアも馬の凄さを理解できたのだから。


「大丈夫、ちゃんと伝わったよ。私には、持ち運べるのは一人が限度だから」


「ふふっ、確かに。そこは棲み分けできていますね。因みに快適度はレティシアさんも引けを取っていませんでしたよ。――思い返すと、少々恥ずかしいですが」


 そう頬を赤らめるイリスが話題に挙げたのは、帝都から王都へイリスを抱えて走った時のことだ。確かにあの時、苦情は「な、何でお姫様抱っこなんですか!? は、恥ずかしいので他の持ち方にしてくれません!?」だけだった。


 全力疾走していたらどうだったか分からないが、あのぐらいの速度であれば、揺れを最小限に抑えるのは容易い。イリスの不満が無かったのも、レティシアの調整が適切だった証拠だろう。


 だがそれは対象が一人であるのが条件だ。一人であれば両腕で背中と膝裏を支えられるが、二人以上となるとそうはいかない。両脇に抱えての疾走となるため、舌を噛み切ってしまう恐れも大いにある。


 総じて、やはり複数人相手では快適度も運搬人数も馬に軍配が上がるだろう。レティシアが馬と張り合えるのは、レティシア単独の場合と運搬対象が一人である場合のみだ。


「――『侵色』様、『純白の聖女』様、『紅光』様。準備が整いましたので、御三方もお乗りください」


 とそこで馬車の方からモーハルラントの声がかかる。目を向けると、フォレオス達も声こそ出さないものの、こちらを柔和な顔で見守っているのが窺えた。


「分かりました。今向かいます」


「……そろそろ立とうか。サンドラ、手を離さないでね」


「うん!」



 □ ■「――いや待ってください。自然な形で爆弾発言が聞こえたような気がしたのですが……『侵色』とか『純白の聖女』とか、僕の聞き間違いですよね?」


 ――合流した矢先に、おずおずと右手を挙げるフレディが恐る恐る確認する。口の辺りが引き攣っていて、顔色も悪い。余程重要なことなのだろう。


 しかし、そんなレティシアの予想に反して国王夫妻の反応はあっさりとしたものだった。


「ふむ、言ってなかったか?」


「『侵色』のレティちゃん、『純白の聖女』イリちゃんに、『紅光』サンちゃんよ。サンちゃんについては、フレ君なら既に知ってるでしょうけど」


 といったミネアの紹介を聞いた瞬間、フレディの血の気が引いた顔が、より急激に青白くなっていった。


「…………では、あの時僕が会話したのは――」


「首、切られなくて良かったね」


「ひぃぃぃぃ!?」


 そう微笑みかけると何故かフレディが飛び退いて、あわあわとしだした。レティシアとしては、あの一件で彼の危惧していた死を回避できたことを祝ったつもりだったのだが……。


「こ、これまでのご無礼をお許しください『侵色』様! い、命だけはどうか……どうかお見逃しを……!」


「落ち着くのだフレディよ。冗談だ。レーたんに殺意は無い。それにそなたは余の秘書官だ。そなたの安全は余が保証する」


「へ、陛下…………!」


「冗談って何?」


「えっと、ややこしくなるのでレティシアさんは口を閉じていましょうか……!」


 気になった事をそのまま口に出したらイリスに口を塞がれた。くすぐったい。


「それに、実の所内部推薦はレーたんによるものだ。前々からそなたには文官の才を感じていた。それも考慮して、あの一件を機に重用することにしたというわけだ」


 フォレオスは続けて「付言すると、それまでの生活保障と就職活動支援は余の独断だ。職務放棄は確かに罰せられるに足るが、それでこれまでの貢献が無くなる訳では無い。元より新たな職場での再出発を見届けるまでは面倒を見るつもりでいた」と語っていたが、当の本人は心ここに在らずといった様子で涙ぐんでいた。


 そうして眦に涙を溜めたままレティシアを見ると、堪えきれなくなったのか目を腕で覆った。


「あ、あなた……あの冗談混じりの言葉を覚えてくれて――!」


「……どうして覚えていられたんだろ。あなたの顔は記憶に無かったのに」


「分かってましたけど面と向かって言葉にされると辛い!」


 門番――フレディを脅した時のレティシアは、サンドラと白――イリスのことしか頭に無かった。錯乱、してたのだと思う。「訓戒」のことを忘れて反射で人を斬ってしまうなんて、明らかに異常だ。そんな状態でサンドラとイリスに関係の無い内容を記憶していたという事実を、今更ながら不思議に思う。




「――ご歓談は済みましたか?」


 フレディの絶叫が収まった辺りで、馬車の傍らで直立していたモーハルラントが乗車を促す。各々会話をやめ、モーハルラントの方に顔を向ける中、彼に応答したのはミネアだった。


「ええ。ありがとう、モーさん。さ、皆、そろそろ乗るわよ!」



 モーハルラントの誘導に従い順繰りに馬車に乗り、腰を下ろした。


 座席は左右に分かれていて、進行方向を向いて右側の椅子に前からイリス、レティシア、サンドラ。左側の椅子にフォレオス、ミネア、フレディが着席している。壁にはカーテンと窓が付いていて、外が一望できる。椅子にもクッションがついていて、座り心地がいい。


「うむ、全員乗ったな。ではモーハルラント殿、よろしく頼むぞ」


「かしこまりました。では皆様、帝都シャラドへの旅路をごゆるりとご堪能ください」



 モーハルラントの挨拶を合図に肉――ではなく馬がいななきを上げる。かたかたと車輪が回る音が段々と大きくなっていく。少しずつ離れていく王城、街並みを眺めながら、レティシアは揺れに身を任せた。

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