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極相色彩のケイオスライン  作者: 路崎舞
断章『エピローグ』
26/41

断章1話『暖』

「…………ふぁ」


 ゆっくりと、しかし着実に浮上する意識で黒髪の少女――レティシアは横になっている体を起こす。視界がぼやけていて、思考も散漫、欠伸をしつつ一伸び。

 そうしてベッドの対面に置いてある姿見に意識を向ける。


「――――」


 正面、見慣れた顔がある。見慣れた寝癖に、見慣れた黒瞳、見慣れた寝間着に見慣れた仕草。


 唯一異なるのが、そこに映っているのが一人でない事だ。


「おはよう、サンドラ」


 レティシアの隣、すやすやと寝息を立てているのは桃髪を解いた可憐な少女――サンドラだ。一度死に、そして生き返った彼女の発達段階は、産まれたての赤子と遜色ないところまで退行してしまった。


 二足歩行すら誰かの力がないとままならず、思い出どころか言葉や文字、身体単位での記憶消失である。そんな状況だったので、レティシアがお世話を希望したのは当然の成り行きだった。


「――――」

 

 自然と頬が緩み、見慣れた桃髪を優しく撫でる。この髪も治癒魔法によって再生されたものだ。一週間前のサンドラのものとは同一ではなく、しかしサンドラの髪であることに変わりはない。そのことに胸がちくりと痛みつつも、レティシアは新生サンドラの長髪を指で這うように掻き分ける。


 されるがままの彼女は、この激動の一週間が嘘のように穏やかな寝顔ですやすやと眠っている。――実際、彼女からしてみれば今日が人生四度目の朝なのだが。


「――ふふ」


 ――塔上の再会から三日が経過した。その間、レティシアはサンドラからほとんど離れなかった。


 一緒にご飯を食べたり、イリスと一緒に服屋さんに行ったり、ミネア達とコーヒー会したり、背中を流してあげたり、街中で心ここにあらずなニックを見かけたり、パレット孤児院の皆と遊んだり、二人でケーキを食べたり――。


 思い返せばきりが無く、充実した日々だったと感じている。もっと早く親友だと気付けていれば……そうした後悔の念はいつまでも絶えないが、もう会えないと諦めていたサンドラは今、ここにいる。それが、レティシアにとっての全てだった。


「今日で三日、ということは」


 ――サンドラの声を再び聞ける。それを強く認識すると、無垢な寝顔を見守る口元が自然と綻んだ。


 イリス曰く、継続的に治癒魔法をかけていれば声帯は三日で復元し、眼球の形は五日ほどで人前に出せる見た目に回復するらしい。

 最初は形ですら戻せないだろうと話していたが、その後何度か手立てを変えていく中で、見た目なら何とかなるという手応えが得られたという。


 形が戻ってからの経過は未知数だが、内部液が欠損しているとはいえ視力が戻る可能性もゼロではない、というのが今のイリスの見解だ。――しかし、これにはイリスの希望的観測も多分に含まれると補足が付け加えられたものだったが。



 今後社会復帰を目指すにあたり、当然復帰訓練も欠かすことはできない。各部位が回復するまで重くのしかかる眼帯装着、発声禁止という制約の中、この三日の合間合間にできる範囲内で行っていた。


 その中でも特に困難だったのが言語訓練である。イリスやニック、ミネアの助力があったものの、他人に物を教えたことの無いレティシアにはそもそも至難の業だった。とはいえ、放り投げる訳にはいかない。


 まずは簡単な意思表示を行えるジェスチャーを教え、次にそのジェスチャーを活用して文字の読み書きに取り組んでもらい、最後に日常生活でよく使う単語、それと人の名前を可能な限り実物の手触り、声、味と繋げて確認した。


 それが功を奏したかどうかは声帯が回復してから――つまり今日以降明らかになっていくだろう。仮に不備があっても、また一緒に覚え直せばいいだけである。何も不安に思う必要は無い。



 こうしてサンドラと共に新たな色を塗っていく時間が全体の半分より気持ち少ないぐらい。残りの時間で寝たり遊んだり入浴したりした形だ。

 今後の憂いや「訓戒」の縛めに苛まれない平穏な日々は、およそレティシアが訓練を受け始めてからの半生の中でこの三日間のみだった。


 そして一旦、この休息の日々とはお別れとなる。


「……支度しないと」


 名残惜しく思いつつも、さらさらな桃髪から静かに手を離す。ベッドから起き上がり、カーテンは閉めたままにし、机に飾った粘土人形に頬を緩め、寝間着から正装へと着替える。


「サンドラは……近くなってからでいっか」


 健やかに眠っているところを無理やり起こすのも忍びない。それに元よりサンドラの支度はレティシアの役目だ。彼女が寝ているうちに済ませておけば問題ない。

 ……というか、実は昨夜の内に済ませてあるのだ。自分のも、サンドラのも。



「あの胸騒ぎ、杞憂だといいな」


 昨夜、レティシアもサンドラと同じタイミングに目を瞑った。寝付きは良かったのだが、一時間もしない内に悪夢を見て――内容は忘れてしまったが、それで覚醒してしまった。

 再び寝ようにも出処不明の不安が思考を埋めつくしていき、横になるのに耐えられなくなる。どうせなら、ということで朝やる予定だった準備を全て終わらせておいたのだ。


 全てを終えて再び夢の世界を渡り歩いた今は、そうした不安も収まらない胸騒ぎも、痕跡を残さずに消え去っている。今にして思うと、あれは深夜特有の心理状態だったのだろう。そこに突発的な悪夢が重なり、心穏やかではいられなかった。きっとそのような事情だ。


 ――しかし。それとは別に日に日に増幅する懸念が一つあるが、それは何とかまだ胸にしまい込めている。






「――――」


 ――と、昨晩の事を述懐していた最中だった。


 不意に、周囲が静寂に包まれていなければ掻き消えてしまうほどのか細い吐息が、背後から聞こえた。


「……っ」


 思わず息を飲む。動悸が激しい。心臓の音がうるさい。


 努めて冷静に、暴走する胸を撫で付ける。早く、一刻も早く落ち着いて欲しい。次の音を、聞き逃さないために。





「――ぇ……え……れ? れ、おあお」

「……っ!」


 反射だった。反射で振り返った。


 何度か発音を確認するような仕草をし、指を口元に当て、虚空に月のような優しい笑顔を向けている。それも当然だ。現状、彼女は目が見えない。自然、ベッドから離れた誰かの存在に無垢な少女は気付かない。


 故にレティシアは自らベッドに戻り、不器用な頬の緩め方をする親友を抱き締める。


 言葉は必要ない。心が通じ合っている。だが、そうだ。以心伝心の間柄でも交わすべき単語がある。



「――おはよう、サンドラ」


「おあよ……? お、あ、ふぁ、は――は! おは、よ!」


 そうして一音ずつ手探りで正解へと辿り着いた、屈託のない挨拶が、盲目の少女の口から紡がれる。

 元気溌剌無邪気に笑うその口元は、かつての太陽と似た輝きを放っていた。



 □ ■ □



「――『正解』だよ。じゃあ、この字は『分かる』?」


「うー…………わ、かる。さ、ん、ど、ら」


「『正解』だよ。もう一回『言う』してみて」


「さ、ん、ど、ら……さんどら!」


「良いね。じゃあ、あなたの『名前』は?」


「さ!」


「……サンドラ。でも、『名前』を『言う』する時じゃなければそれでいいよ」


「れ、やさしい」


「ふふ、その調子。ご褒美に、『お土産』沢山『買う』してあげる」


「うれしい! れ、ありあとう!」


「どういたしまして。じゃあ、もう一回発音してみようか。『ありがとう』」


「うん! ありあ……ちがう、ありが、とう! ――〜〜っ! さ、できたっ!」


「うん、偉いよ。じゃあ次は……」



 そのままの流れでサンドラと一緒にお勉強を始めたレティシアだったが、所々何度も涙を零しそうになりながらも、なんとか踏みとどまっていた。


 そうして和気藹々と、夢にまで見た時間を堪能していると、不意にコンコンと扉を叩く音が鳴り響き、レティシアもようやく冷静さを取り戻す。



「――私です。レティシアさん、今いいですか?」


「うん。入っ――あ、待って。まだサンドラが寝間着だった」


「分かりました。では支度が済みましたら教えてください」


「い、おはよ!」


「はい、おはようご――――レティシアさん……まさか!」


 意識の外からの応答に、扉越しに言葉を交わした親友――イリスの声が上擦る。そのままにしておくのも悪いし、かといって言葉で事実を述べるのもイリスの貢献を考えれば味気ないので、ささっと、かつ丁寧にサンドラの着替えを済ませて戸を開けた。


 小刻みに足踏みして心ここにあらずな聖女がそこにいた。


「わひゃぅ!? あ、開けるなら先に言ってくださいよ……!」


「ごめんごめん。……それでね、今お勉強してたんだ。サンドラの飲み込みが早くて、これまで勉強した単語の六割ぐらいは使えるようになったの! ――おはよう、イリス!」


「え? あ、おはようございます……あの、すみません。何がそれでなのか読み取れないです。そしてその前段階での喜びが今来てるので、まずはそこに浸っても良いですか?」


「…………そっか、これが『はしゃぐ』って事なんだね。じゃあ、三人ではしゃご?」


「あのー、レティシアさん? どこか絶妙に話が噛み合ってない気が……ひゃ!?」


 何かモゴモゴ言っていたイリスの手を引き、強引に部屋に招き入れる。




「イリス、教えて――気持ちが『はしゃぐ』感覚は分かったけど、身体を使って『はしゃぐ』にはどうすればいい?」

「その前に――っ、私の理解度にもっと配慮してくださいっ!!」


 憤慨からか羞恥からか、顔を真っ赤にしたイリスの爆発が、静寂に包まれた騎士団寮の廊下を響き渡った。



 □ ■ □



「――だから、イリスなら知ってるんじゃないかって聞いてみたんだ。……腕を引っ張ったのはごめんね。私も冷静じゃなかったから――こんなこと、三日前の再会以来だよ」


「…………」


 一通りの成り行きを説明され、イリスは押し黙る。


 量こそ少ないものの、一つ一つの衝撃と感動が大きく、処理にそれなりの時間がかかってしまった。それこそ、「い、ねる?」とサンドラに気を使われてしまうぐらいには。


「――ひとまず、事情は分かりました。サンドラさんの声帯が回復し、いても立ってもいられず言葉の練習を開始し、時間を忘れて没頭。しかし心の跳ねようは収まることを知らず、かといって外に解放する術も分からない。だから私に尋ねた、そういう認識で合ってますか?」


「そうそう。ほら見て、サンドラ。これが『賢い』だよ」


「い、あしこい!」


「ふふっ、褒めてもお菓子しか出ませんよ。――私からも、言わせてください。おはようございます、サンドラさん」


 祝福が込められた挨拶が柔和な声音で紡がれる。それを聞いたサンドラが、降ろした桃髪をさらりと揺らし、満面の笑みで、


「い、おはよ!!」「うひゃぃ!?」


 と発声した勢いのままイリスへと飛び付く。前触れのない衝撃に一度は驚くも、すぐに目尻を下げて眼下の少女を見つめた。


「わっ、……もうっ、次から少しは躊躇してくださいよ? 変なところに頭でもぶつけたら大変なんですから」


 体勢を崩しかけたイリスが小さく微笑み、サンドラの背中に手を回し、優しく撫でる。それが嬉しかったようで、イリスの右肩に首を倒して頬擦りを始めた。


「あははっ、もうっ、くすぐったいですよ……! それに、目に悪いですから、眼帯は擦り付けないでくださいね」


 笑いながらそう注意するイリスの言葉を受け、サンドラは一度動きを止めて口元に手をやった。


「……こうりつけない…………。い。がんたい、すりすり、だめ?」


「…………驚きました。『正解』です。知らない言葉も『考える』できて『偉い』ですよ、サンドラさん」


 そう素直に伝え、イリスは未知の単語の意味を推測して正解を掴んだ要領のいい少女の頭を撫でる。喉を軽く鳴らし口角を上げる様子を見るに、サンドラも喜んでいるようだ。


「正直、レティシアさんの親友にこういう接し方をするのは慣れませんが……少しの辛抱ですよね」


 イリスは自我の確立した人間に何かを教えたり触れたりする経験に乏しい。職業柄相手を「導く」事はあっても、赤子のように接する機会は無かった。しかも友達の親友に対してそうするのだから、無視できない抵抗がある。

 しかし、今の彼女は基礎的な記憶も抜け落ちており、比喩でなく産まれたての赤子と同義だ。健全な発達のためには、幼児教育から始める必要がある。


 幸い、脳の性能は成人女性のそれであるため習得は格段に早い。現に今では二足歩行も支障なく行える。まだ視覚的な問題で付き人は必須だが、治療が上手くいけばそれも不要となるだろう。


「ところでイリス、何か用事があったんじゃないの?」


 と、無表情――ではなく、これは先が気になっている時の顔だと思う――その表情でレティシアが尋ねる。情報の奔流に翻弄され、無垢な少女に接しているうちに忘れていた要件が、今の一言を合図に再度意識上に浮上した。


「あ、そうでした! ……レティシアさん、今日が何の日かは覚えていますよね?」


 サンドラを撫でる手は止めないまま、しかし表情を引き締めて問いかける。


「うん。明日の帝国との和平交渉、その為に帝国に向けて出発する日」


「はい、そうです。国王やミネアさんの護衛として、新騎士団長であるレティシアさんも同行するそれです」


 国王の改心により、王国は三十年にも渡る侵略の手を遂に止めた。帝国とのやり取りの末、帝国との終戦・協調に向けて首脳会談の場を翌日に取り付けたフォレオスは、その前日である今日帝都に赴くことになっている。その護衛として、レティシアも同行するという手筈だ。


「ニムレットさんへの伝言? 場所は覚えてるし、伝えておくよ」


「いえ、それはいいんです。――私も、同行することになりましたから」


 ――「お気持ちは嬉しいですよ」と付け加えるイリスだったが、彼女が発した情報にレティシアは然程驚かなかった。むしろとうとうその日が来てしまった、という心境だ。


 イリスは帝国人で、帝国に居場所があり、王国滞在は一時的なもの。そうである以上、あの心優しい親友がいつか帝国へ帰ってしまう事は避けられない。

 唯一不確定なのは制限時間だけ。イリスと充実した時間を過ごす度に、いつか訪れる別れを強く意識してしまう。帰国の話題が切り出されなかった一日一日を積み重ねる度に、今日じゃなかったと安堵する気持ちよりも、明日かもしれないという恐怖が増幅していった。


 ――そして今日、遂に恐れていたその瞬間が来てしまった。


「イ……リス……私は……」


 この日が来ることは分かっていたはずなのに、上手く言葉を繋げられない。


「レティシアさん? どうしました……?」


「っ………………」


 その様子を案じてかけられる言葉に胸がキュッとなる。まだ、この感覚が何なのかをレティシアは知らない。ただ、これも「感情」の一種なのだろうことは、何となく分かった。


「心配せずとも大丈夫ですよ。用事というのは、その件ですし」


 何が大丈夫なのか、と喉を通りかけた言葉もすぐ引っ込む。そもそも、口を動かせない。喉を震わせられない。声を出せない。この後に来る必然の結果を知りたくない。また、親友と離れ離れになってしまうと思うと顔が冷たくなる。


 ――もう、何も失いたくない。


 それが、あの一件を経て、レティシアに初めて芽生えた無自覚の願いだった。







「サンドラさん、私達と一緒に来ませんか?」


「…………ぇ?」


「――くるっ! さ、くるっ!」


 だからこそ、それが杞憂であると分かった時、レティシアは呆気にとられてしまった。この感覚も、正しく未知だった。

 そんなレティシアの関与しない所で、イリスから離れたサンドラが満面の笑みで跳ねている。


「『行く』、ですよ、サンドラさん。たとえば……ここに私が『来る』。私があそこに『行く』。ですので、サンドラさんは帝国に――」


「い、く……?」


「完璧です。では、フォレオスさんにはそのように話しましょう。レティシアさんもそれで――レティシアさん?」


 と、イリスがまたしても心配そうな顔でレティシアを見る。




「……っ。わがままだって、分かってる。引き止めちゃいけないことも、理解してるの。イリスが望んだことを応援する気持ちも、送り出す気持ちも、ちゃんとある……んだと思う」


「でもね」と、短い周期で鼓動する左胸に手を当て、先を続ける。


「心が、ぎゅってなるんだ。それが消えてくれない。サンドラの時に似た痛みが、ずっとあるの」


「あ、あの、とりあえず落ち着きましょう? ゆっくり、ゆっくりでいいですから! ほら、深呼吸です」


 そう促すイリスに従いひとまず深呼吸。鼻から吸って、口から吐く。それを三回ほど行ったものの、内部で渦巻く何かは荒ぶるばかり。


 縋るようにイリスの裾をつかみ、引き止める。自分でも何をしているのか分からない。顔も見れない。下に沈む。



「もう会えないなんて、やだよ…………イリス…………」




 ――レティシアから発せられた、あの日の再会を彷彿とさせるようなか細い弱音を、イリスは受け止める。感情の籠った懇願で一時は意表を突かれたものの、彼女の不安の大元が分かり心の中で胸を撫で下ろす。


 俯くレティシアの肩が震えている。服を握る手は強く握り締められていて、力加減に配慮できないほど取り乱している――この場合、感情を持て余しているという方が適切だろう――ことが窺える。これはいい兆候だと思う。兵器として育てられた彼女が「人」として歩み直せている証拠だ。


 ともあれ、今のイリスには悲痛な声で訴えるレティシアにかけるべき言葉がある。




「顔、上げてください」


「……」


 恐る恐る、といった感じにゆっくりとレティシアが顔を上げる。その顔は見てて痛ましかったが、それでもレティシアの無自覚な可憐さは上塗りされていなかった。


「何か勘違いされているようですが、まだその時じゃないですよ」


「…………イリス?」


 振り絞るような掠れた声が返ってくる。そこから理解不能を見取り、少し声の調子を高くして、抑揚をつけながら話を続ける。


「『癒し手』は帝国にしかいませんからね。私が王国を離れたら、継続的な治療が必要なサンドラさんを誰が癒すんですか?」


「そ、れは……」


「それに目論見通りに事が運べば、戦争も終わるんです。休日にここを訪れるのに、誰にも文句は言わせません。――それか、あなたがこちらに遊びに来てくれますか? レティシアさんの足なら、半日もかかりませんし」


 ふふ、と冗談めかして伝える。そして今の彼女が一番喜ぶであろう情報を、一息ついてから提供した。


「心配なさらずとも、お別れするにはまだ早いですよ。今回同行するのはフォレオスさんの要望ですし、帰る時も一緒のつもりです」


「………………」


「ですので、この件が終わってからもよろしくお願いしますね、レティシアさん」


 彼女の不安を取り払うように、親愛を込めた手を差し伸べる。握り返してくれたレティシアの目からは暗い雲が消え始めていた。


「イリス……」


「あはは、なんて、少々大袈裟過ぎましたよね。とにかく、私の帰国はまだ先なのでご心配なさらず」


「……私の勘違いでよかったよ」


「あの情報だけではそう思うのも無理はないですよ。私だって、同じ立場でしたらそう感じていたでしょうし」


「――ありがとう、イリス」


「ふふ、何の感謝なんですか? どういたしましてですよ、レティシアさん」




 和やかに笑い合い、王国の死神と帝国の聖女が話に花を咲かせる。その二人の会話を、盲目の少女だけが頬を緩めて静かに聴いていた。


本日もお読みいただきありがとうございます!

本日より、断章『エピローグ』開幕です!

ご覧の通り、しばらくほのぼのが続きますので、存分に癒されてください!


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