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静寂の国  作者: 停止星
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第八章:来訪の日

7月20日午前4時44分。

北海道・知床岬上空において、地元の観測員が「光の柱」を確認した。

同日午前5時03分、内閣情報調査室が“特殊事象対応プロトコル”を発動。

だが、その情報が公開されたのは、その6時間後だった。

映像には、灰色の空に浮かぶ“非対称な球体”が映っていた。

反射ではなく発光。重力に逆らうような静止。

そして、その周囲に渦を巻くような微細な粒子の移動。

国連の宇宙連絡本部(UCO)は、**「地球軌道外知性体による初の“可視的存在提示”」**と声明を出した。

それは、接触の第一段階──"存在の告知"。


だが、日本政府は、その日午後2時の記者会見でこう述べた。

「現在のところ、わが国に対する直接的な危害の兆候は確認されておりません。

過度な反応は慎み、冷静な生活を続けていただきたい」

その直後、民放各社は芸能人の不倫報道に切り替えた。

SNSではトレンドが二分された。


•「#ついに来た」

•「#どうせCGでしょ」

•「#政府の茶番」


陰謀論者は「これはアメリカの兵器実験」と主張し、真面目な研究者は「粒子運動の解析から、人類の理解を超えている」と静かに述べた。

一方で、一般市民の多くはただ、反応をしなかった。


その日の夜。

仙台市内の山岸の自宅。テレビを消し、窓の外を眺める彼の視界の端に、微かな光が浮かんでいた。


「彼らは、何かを“求めている”のか、それとも“示している”のか……」


スマホが鳴った。

篠田結衣からだった。

メッセージは短い。

「見えました。先生。

でも、誰にも言えません。

私たち、もう“戻れない”んですよね?」


翌朝、彼女は姿を消していた。

学校には連絡がなく、家族も所在を把握していなかった。

山岸は警察に相談したが、手がかりはなかった。

その夜、教室の机の上にだけ、ノートが残されていた。

最後のページには、こう書かれていた。

[彼らは、観察者ではない。

彼らは、鏡だ。]


7月22日午前0時00分。

“彼ら”が、東京・大阪・名古屋・札幌・福岡の上空に同時に出現した。

音はなかった。

攻撃もなかった。

ただ、見ていた。

無音の空に浮かび、人々を「見る」という行為そのものによって、精神を侵食していくかのように。

その日以降、自殺者が微増した。

出生率が急落した。

企業の退職希望者が過去最大を記録した。

何かをされたわけではない。

ただ、“見られた”だけだった。


山岸は、かつての教え子たちの中に「声を失った者」が増えていることに気づき始めていた。

精神病理では説明できない“言語機能の断絶”──それは、言葉が無意味になった世界に適応するための自己防衛だったのかもしれなかった。


その月の終わり。

日本政府は声明を出した。


「わが国は、いかなる交信も行わず、あらゆる刺激的接触を避ける“完全非接触主義”に移行します。

政府としての対応は、今後、国民の冷静な協力により維持されます」


それは、沈黙を制度化する宣言だった。


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