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静寂の国  作者: 停止星
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第七章:非接触都市

7月6日、日本政府は新たな方針を打ち出した。

その名は「非接触中立維持宣言」。


内容は、こうだった。

「わが国は、地球外知性体との直接的なコミュニケーションに関して、いかなる形でも先行的関与を行わない。

わが国の基本方針は“観測”“記録”“中立”の3原則とし、他国の接触行為に関しても、干渉・批判を控えるものとする」


「非接触」という選択。

それは、安全かつ責任を回避するための日本らしい処世術だった。

だが、この宣言は、世界から見て明確な「孤立」と受け取られた。

アメリカは「国際的合意形成を妨げるもの」として遺憾を表明し、EU諸国も「責任放棄である」と批判した。

中国は沈黙したが、独自に打ち上げた軌道ステーションでの「通信実験成功」を報道で流し、日本の立場を事実上無視した。


国内は、奇妙な平衡にあった。

都心では、駅構内のモニターに「非接触中立維持にご理解を」の広告が流れ始めた。

コンビニでは“宇宙風味”と銘打ったスナック菓子が発売され、小さな流行となった。

だが、地方では違った。

鹿児島のある漁村では、若者たちが夜な夜な海岸に集まり、光る空を見上げていた。

「音がする」と言う者、「夢に出る」と語る者、「呼ばれている気がする」とつぶやく者。

彼らは学校を辞め、家に戻らなくなり、地域は“気のせい”として処理していた。

仙台市のある自治体では、「地球外接触に関する住民説明会」の開催を巡って激しい意見対立が起きた。

「言及すること自体が不安を煽る」という反対意見と、「語らないことこそ危機だ」という主張。

結局、説明会は中止となり、地域の掲示板には「宇宙の話はやめましょう」の貼り紙が残された。


山岸は、授業で「文明の終わり方」について話していた。

「歴史を見れば、文明は外からの衝撃で滅びることは少ない。

たいていは、自分たちの“言葉”が内側から腐っていったときに終わる」

生徒たちは黙って聞いていた。

「今、私たちは“見ないふり”をしてるかもしれない。

でも、それは正しい防衛か? それとも、ただの崩壊か?」

その問いに答えたのは、久しぶりに手を挙げた篠田結衣だった。

「……崩壊しても、誰も叫ばなければ、崩壊じゃないと思うのが日本です」

山岸は言葉を失った。

だが、それは正しかった。


夜、山岸は夢を見た。

誰もいない教室、黒板には「この星の沈黙は意図的だ」と書かれていた。

窓の外には、見たこともない三角形の光が浮かび、空は無音のまま回転していた。

目覚めると、窓の外に誰かが立っていた気がした。

だがそこには、何もなかった。


その翌日、全国ニュースの片隅で、短い記事が報じられた。

「長野県の山中で、中学生3人が失踪。遺留品の周囲に不自然な磁場変化あり」

「政府は“特殊な自然現象によるもの”と発表」

誰も騒がなかった。

すでに「異常」が、日常の中に溶けていた。


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