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静寂の国  作者: 停止星
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第六章:政府の仮面

6月25日。

日本政府は記者会見を開いた。正式な発表は、以下のとおりだった。


「地球外知性の存在は、国連および科学的検証により一定の信頼性があると確認された。

わが国は、国際社会と連携し、国民の冷静な行動と社会の安定を第一に、引き続き情報の精査を進める」


そして、質疑応答に立った記者からの鋭い質問には、すべてこう返された。


「現在は、調整中の段階であり、コメントは差し控えます」

「わが国の立場として、国際的整合性を優先したうえで適切に対応いたします」


言葉は、あった。

意味は、なかった。


文部科学省は、「宇宙との接触に関する教育的配慮について」という通達を出した。

その中で教師に求められたのは、「生徒の不安を煽らず、日常生活の継続を促すこと」だった。

つまり、「語らないこと」を語るように、という指示だった。


山岸は、それを読んで無言で破り捨てた。

「語らない教育は、教えることを放棄することだ」

だが、そう思いながらも、教室で“何を”語るべきか、彼自身が答えを持っていなかった。

生徒たちはますます口数が減っていた。

杉本は物理の問題集を無言で解き続けていたが、その余白には「観測不能領域」という言葉が繰り返し書かれていた。

篠田結衣は、最近になって遅刻や欠席が増えていた。担任として声をかけても、スマホ画面を見つめたまま、「だいじょうぶ」とだけ返してくる。


同じ頃、防衛省では内部で極秘会議が開かれていた。


「彼らが軌道上に存在することは、すでに周知の事実となりつつある。

問題は、接触を図るべきか否かではない。

“接触を誰に許すか”だ」


米国との協調、中国の動向、ロシアの情報攪乱──

各国のAIによる予測では、「3ヶ月以内にいずれかの国が地表接触を試みる可能性」は78%とされた。

日本の官僚たちは、その数字を前に黙った。


「わが国としては、いかなる敵対行為にも関与しないという立場を崩さない。

ただし、“非関与”と“無関心”の境界線が曖昧であることには、警戒せねばならない」


一人の中堅幹部が呟いた。


「我々は……意思を持たないことを、戦略にしているのではないか?」


6月30日。

日本国内では新たな指針が密かに政府から各自治体に降ろされた。


•宗教的混乱に配慮し、学校教育や自治体広報では“宇宙”という単語の使用を控えること。

•地球外起源の話題について、行政職員は「個人的見解を述べない」こと。

•緊急事態に備えた備蓄の再点検(ただし“宇宙事案”とは言及しない)


国は、語らないことによって、語っていた。

「これまで通りに振る舞え」という命令は、「これまで通りではない」ことの裏返しだった。


市民の中には、それを察している者もいた。

「なにも変わっていないように見えて、なにもかもが変わっている気がする」

「たぶん、これが“静かに崩れる社会”ってやつだよ」

ある若者の声が、匿名掲示板に書き込まれた。

それに数百の「いいね」がついたが、誰も返信はしなかった。


山岸はその夜、書きかけの授業案を閉じ、ノートにこう書いた。

「政府は答えない。国民は問わない。

その間に、私たちの“現実”が書き換えられているのだ。

だが、書き換えているのは、彼らではない。

自分たち自身だ」


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