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静寂の国  作者: 停止星
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第四章:信じる者、信じない者

6月15日、日本政府はついに国会で「地球外知性とのコンタクトに関する特別質疑」を実施した。

だが内容は、まるで過去の予算委員会の焼き直しのようだった。

「国民の生命と財産を守る観点から、政府として万全の体制を──」

「具体的にどのような接触がなされたのか?」

「現時点では国連を通じた情報共有の段階であり──」

結局、“何も言わない”ことを美徳とする議論が続き、翌日の新聞には「答弁に拍手を送る与党議員の姿」が小さく掲載された。

だが、街では、言葉なき分裂が始まっていた。


秋葉原の路上で、「彼らは我々を救いに来た」と説く若者が、段ボールに描いた奇妙な文字を掲げていた。

「脳波を合わせれば、彼らと通信できる。これは次の進化だ」と、彼は叫んでいた。

その周囲に集まる者の中には、共鳴する者も、嘲笑する者もいた。

名古屋では、「彼らは偽りの神であり、地上の終末をもたらす」と語る新興宗教団体が、千人規模の屋外集会を開いていた。

その多くは高齢者だったが、中には家族を連れて参加する若者の姿もあった。

京都大学の研究室では、物理学者たちが軌道観測データを元に「“彼ら”は3月以前から太陽系内に存在していた可能性」を論じていた。

一方、文学部の学生たちは哲学的な観点から「宇宙人の到来は、近代主体の崩壊である」と議論していた。


山岸の教室にも、微細なヒビが入っていた。

「先生は……あれ、信じてるんですか?」

そう聞いてきたのは、理系志望の男子生徒・杉本だった。

「うん、信じてる。信じてない。でも、それ以上に……“知ってしまった”って感じだね」

「でも、自分は、見てないです。聞いてもないし。実感がないんです。

だから、“いる”って思うのは、……なんていうか、思考停止な気がして」

「逆もまた、思考停止かもしれないね。

“実感がない”から否定するのも、“自分の外側を信じない”ってことだし」

その会話を、結衣はノートに何も書かずに聞いていた。

そのまま、視線を窓の外へ投げた。空は雲が低く、重く、じっとしていた。


インターネットは、もはや「宇宙人」の話題で分断されていた。


•「彼らは未来の人類である」「彼らは量子生命体だ」

•「実はもう政府と交信していて、一部の人類は選別されている」

•「全部、フェイクニュースであり、バチカンが作った神話だ」


信じる者は語り、信じない者は笑った。

そして、多くの人は黙った。

信じる理由がなく、信じない理由もなく、ただ沈黙する者たち。

だが、その沈黙こそが社会を断絶させていた。


6月18日。国立天文台が「低軌道における非自然的動作体の継続的観測」を発表。

それは実質的に「上空に“彼ら”がいる」ことの確認だった。

けれど、電車は走り、レジは開き、テレビはお笑いを流し続けていた。

篠田結衣は、その日の日記にこう書いた。

「誰も信じていない。

でも、誰も信じてないってことを、みんな信じてる。

それって、たぶん、いちばんこわいことだと思う」


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