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静寂の国  作者: 停止星
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第二章:静かなる朝

6月10日、午前7時30分。

新橋駅前。サラリーマンたちがいつものようにスーツを整え、コーヒー片手に改札を抜けてゆく。

一部の新聞は1面で「地球外知性、国連が認定」と報じたが、スポーツ紙の多くは依然としてプロ野球の交流戦をトップに掲げていた。

政府の動きは鈍かった。

総理官邸は翌朝になってようやく記者会見を開き、「冷静な対応」「国連との連携」「事実関係の精査」という、意味を希釈した語彙を並べた。

記者が「日本としての立場は?」と問うと、官房長官はこう答えた。

「現時点では、わが国としての独自見解を述べる段階ではないと認識しております」

つまり、何も言わない。

言えないのではなく、言わない。

その日の午後、NHKの街頭インタビューで、年配の女性がこう言った。

「地球に来たって、何するんだか分からないけど、まあ、災害と同じよ。備えるだけじゃない?」

隣にいた若い男性は苦笑いを浮かべた。

「どうせ政府は隠してたんでしょ?昔からずっとそうじゃん。別に驚かないですよ」

そして女子高生のグループは、スマホで新しいAIボイスの“宇宙人風フィルター”を試しながら笑っていた。


日本では、反応しないことが最も早い“反応”だった。

SNSでは、トレンドは既に「#新種ラーメン発売」や「#推しが結婚」で上書きされていた。

陰謀論コミュニティは急速に拡大し、ニコニコ風の配信プラットフォームで「政府の背後にいるのは宇宙人」という“演説型VTuber”が10万人を超えるフォロワーを集めていた。

政府は、国立大学の研究者に「冷静な解説」を依頼したが、メディアはそれを“難しすぎてつまらない”として、視聴率を取れず打ち切った。

一方、民間テレビは、UFO芸人や元自衛隊員を集めて「緊急!人類は滅びるのかSP」をゴールデン枠で放送した。

奇妙なバランスのうえに、日常は継続していた。


仙台。山岸の教室では、前回の問いがまだ黒板に残っていた。

[人類は、自分の位置をどう考え直すべきか?]

「誰か、考えた人はいるかな?」

教室には静寂があった。

だが、一人の生徒――篠田結衣しのだ・ゆいが手を挙げた。

「……先生、私、昨日から眠れません。怖いとかじゃなくて、“じゃあ、これから何を信じて生きていけばいいのか”が、分からなくて」

その言葉に、数人が顔を上げた。

そしてまた、沈黙が訪れた。

山岸は微笑み、ゆっくりと答えた。

「ゆいさん、それはとても正しい感覚です。

怖がらなくていい。でも、黙っていてはいけない。

我々の静けさが“思考停止”なのか、“耐える力”なのか――それを見極めなければなりません」

だが、彼自身、その違いがどこにあるのか、まだ答えを持ってはいなかった。

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