【短編小説】ねこバンバン
ぼんやりと見ていた朝のニュースを消して部屋を出ると、待ち構えていたかの様に寒風が吹きつけてくる。
たまったものじゃない。
元より少ない労働意欲を削られながら駐車場に降りて、車のボンネットをバンバンと叩いた。
何度か叩くと、中から「にぁあん」と鳴いて猫が出てきた。
風をしのぐ為とは言え、鉄なのに。余熱はそんなに暖かいんだろうか?
出てきた猫は寝起きだからか寒いからか、恨みがましい目を向ける。
「すまんな、おれも本当はこんな真似したくないんだ」
そう、労働さえなけりゃお前らももう少しここで寝ていられたのにな。
でもその労働が無かったら、お前らが寝てたこの車も無いんだ。だから許せ。
エンジンをかけて車内が暖まるのを待つあいだ車の傍で煙草を吸っていると、あちこちで同じ様にボンネットを叩いている男たちがいた。
マンションの最上階近くに住む金持ち連中は、ボンネットを叩くと野良ジャガーやら羽の生えた天使みたいなのやらが出てくる。
高級車ってのはそうなのか?
しかし近所の会社が持ってるバスは叩かれて全裸のバスガイドを出したし、やはり近所にある会社のワンボックスは叩かれて職人を出している。
法則性は無いのかも知れない。
ようやく暖まった車内に潜り込み駐車場を出ようとしたとき目にしたのは、トナカイを蹴る白人の男とトナカイから出てきた赤い服の老人であった。
あぁ、もうそんな季節なんだったか。
老人は本当に厭そうな顔でトナカイの引く橇に乗り込み、おれと同じ様なため息で駐車場を出て行った。
労働さえなけりゃ、あの爺さんもトナカイの中でぐっすりだったろうにな。
頑張って欲しい、子どもたちの心のために。
……ハハッ。




