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ものがたりが始まらない  作者: あたま大盛り
1/2

ブラック社員

あらすじの通りです。

おじさんの狭い了見でこうなるんじゃねって思ったことを書いた短編です。


「ああ、勇者よ死んでしまうとは情けない。」


そんな言葉をかけられた気がする。

もちろんのこと私は勇者などではない。

だから、そんな言葉をかけられることはありえない。


その昔、ミームの元ネタのゲームをやったことはある。

当時、脳の足りていない小学生だった私がそれを言われて、どれほどイラついたことか。

なんて漫画やらアニメやらならば回想シーンが入りそうなことを思う。


でも、実際のところもう何年も昔であることや最近の忙しさによって具体的なあれそれはもう出てこない。


そんなことよりも、私は何をしているんだったか。

そうだ仕事をしなくてはいけない。


やらなければいけない作業が溜まっているはずだ。

ただでさえ日付が変わるほどに遅くまでの残業を当たり前のようにしなくてはいけないほどの仕事量だというのに半年前に上司が変わってからは、叱咤激励に擬態した暴言を吐かられるというタスクが日常に追加された。


最悪なことにこれが長いのだ。

なにしろ、通常の業務時間の全てをこれに消費されることすらあるほどだ。


「はぁぁあ」と陰鬱なため息を漏らしつつ、デスクに向かおうと思ったのに…


はて?ここはどこだろうか。

キョロキョロと周囲を見渡すが見覚えのない景色がそこにある。

オフィスではないし、通勤電車ても、自宅でもない。

こんなところに来た記憶はない。


「やっと気がついたかい?

最近のマイブームの小ボケをかましたというのに無反応とは悲しい限りだ。

それもネタを知っているひとだからさぞかし面白い反応があるかとにこにこしていたのに涙が止まらないね。」


そんな声をかけられた。

さっきと違って確かに自分に言われた。

目の前には何もないというのに私の意識はそう認識した。


「まだ、不反応か。

自分が死んだという現実を受け入れられないのかい?

それとも自分が死んだということを認識できていないのかい?

どちらかといえば、後者のようだね。

もうしなくていいことをしようとするほどに囚われているのだから。」


そんな声がまた響いてきて、

その内容を理解して、私は安堵した。心の底から。

明日のおまんまを食いっぱぐれないためにと耐えた日々がもう終わったのだと。


そんな安堵を打ち砕くが如く数瞬の間をおいて新しく響く声があった。


「不幸にも早逝した君に特別な新しいチャンスをあげよう。

そう、転生だ!

今世の記憶を持ったままの転生!!さらにさらにお決まりのチートのおまけ付きだ!!!

剣と魔法の世界でチートを持って地位も名誉もお金もハーレムも思いのままさ!!!!

使命も何もない。自由に!気ままに!幸せに!生きるといいさ」


殊更に明るく楽しげに響いた。


私はもう終わりでいいのに

気ままでなくていいのに

行きなくていいのに

まだ続きがあるのか


自由与えるというのなら、

気ままさを与えるというのなら、

幸せを与えるというのなら、

終わりにしてほしいのにまだ続けさせるのか。

と絶望を覚える。


「ま、そう言わずにさ。

生きてみれば何か見つかるさ。幸せというものが。

環境が変われば君も変わるよ。人間はそんなふうに作ったから。


伝えることは伝えたし、時間だね。

じゃ、行っておいで。」


そんな声がこともなげに響く。


意識が視界がぐにゃりを歪められるような気持ちの悪い感覚と共に一瞬途切れた。


と思ったら、森にいた。

太い幹の木が立ち並び、ところどころで生い茂る草が見える森だった。


それでもそんなことよりも一瞬の安堵の後の絶望の処理に苦しんでいる。

終わったと思った苦しみがまだ続くのかとそんな思いで立つことが出来ず、蹲って嗚咽を漏らす。




どれ程の時間をそうしていたかわからないがひとしきりの思いを吐き出して、落ち着いた頃にはあたりは暗くなっていた。


ふと顔を上げると闇の奥から光る2つの点を見つけた。

それは少しずつ音もなく近づいてくる。


ややあって光る点の正体が獣の眼であるとわかった。

わかったからと言って何をするでもなく何ができるわけでもなく。

一瞬のうちに首筋に噛みつかれ、ゴキっという弾けるような音を聴きながら死を遂げた。

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