表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショート×ショート 不動時計

作者: NATA

2025年 1月28日

 僕の町には不動時計という名物がある。

 その時計は動かないことで有名で公園の中央に鎮座しており、塔のように大きく建っている。

 動かない時計に僕は不便で邪魔だと思っている。だって門限とか分からない。代わりに小さな時計が公園のいたるところに配置されている。そんなことをするぐらいならこの時計を新しいものに変えればいいのにと小さい頃から思っていた。

 しかも、毎朝6時に「今日も不動時計は動きませんでした。皆さん今日も元気に過ごしましょう」と町内放送が鳴って起こされる。夜勤明けの人間にはこの声がたまらなく耳障りだ。お父さんもそれが理由で嫌っていた。

 しかし、おばあちゃんはその放送にニコニコしている。そして山を見ながら「今日もおとなしくていいね」と笑う。

 それから30年が経ち、町が変わった。色んな人が町に入り、今では外国人も見かけるようになった。

 彼らは、「朝の町内放送がうるさい! やめろ!」という要望が多数上がり、僕もそれに賛同した。夜勤の僕にとってはこの放送は正直つらい。しかし、町長は「絶対にやめない」の一点張りだった。

 ある時、夜勤明けから帰る時、僕は公園にある不動時計を見た。すると、針が動いていた。30年以上生きていて初めて見た僕は珍しさを感じたが、同時に胸騒ぎがした。

 すぐに家に帰り、起きていたおばあちゃんに伝えると、顔が青くなる。そして物凄い剣幕で「荷物をまとめて逃げるよ!」と寝ていていた父と母を叩き起こして荷造りを始めた。まるで夜逃げでもするのではないかという勢いだ。

 僕達家族は荷物をまとめて車を出す。そしておばあちゃんは山の方を見ながら「どうか怒らないでください」と嘆いていた。

 僕が何のことか聞こうとすると町内放送が流れる。

「不動時計が動きました。まもなくこの町は滅びます。今すぐ避難してください」

 すると、町は慌て始めた。

「ああ終わりじゃ」

 おばあちゃんは泣き始めた。

「いったいどういう事」

 するとおばあちゃんは。

「不動時計は別名災害時計と言うんじゃ。あれは私が小さい頃、大きな揺れがあった山が噴火して火山灰とマグマでこの町は滅んだんじゃ。信じなかった若者は死んでいた。今、生きているのは私のおじいちゃんとおばあちゃんのおかげじゃ」

 にわかには信じられなかった。

「じゃあ、なんであの時計は残っているのさ?」

「分からない。ただあの時計だけは無事だったんじゃ。復興した町はあの時計をシンボルにしたのと同時に災害の前兆を確認していたんじゃ」

 僕は信じられなかった。そして数時間後、大きな音と爆発音が響き、僕の町は滅んだ。町内放送があったおかけで助かった人も多かった。助かった人達は不動時計に感謝をし、神のように崇めていた。けれど町内放送をなくそうとした人達は助からなかったというニュースに助からなかった人の名前が文字で放送された。僕は心の中で冷や汗を掻いていた。もし、おばあちゃんがいなかったら僕もこの文字の一覧に加わっていたのだから。

 無意味だと思われた町内放送も意味があった事を僕は改めて知った。

語彙力と表現力の訓練です。

感想頂けると幸いです。


お題

金×時計

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ