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ある特定のフィクションな例

アイドルに取り憑かれた男

作者: 藤村 託時

 その男はただアイドルに心を奪われていた。


  その男の名は田折 振回たおる しんかい、35歳のお菓子メーカーで働く会社員だ。


  パートナーはおらず、過去に彼女と別れた際にハマったアイドルを未だに追っかけている。


  アイドルは振回がハマった時点では16歳だったが、気づけば25歳になり、アイドルとしても正念場の年齢になっていた。


  そのアイドルは目立ったスキャンダルは無かったが、世間的な知名度もそれほど無かった。


  振回がアイドルの存在を知ったきっかけは友人Aによるものだった。




 友人A「最近'スカイスーパースターズ'ってグループの子にハマっててさ、その子達のCD余ってるからあげるよ」




  そう言われ、断るほどの理由もなかったため受け取った。


  振回は先週彼女に振られてしまったので、余った時間を持て余していたので興味もなかったアイドルのCDを聞くことにした。


  どこにでもあるような恋愛ソングだった。


  今の恋愛が上手くいかなくても次があるというような応援メッセージ、以前であれば心に入らなかった歌詞がその時の振回には染みたのだった。




「次も頑張れる君が好きだから」




  この部分の歌詞を担当している子が振回の推しである。


  振回は会社が休みの日にライブやイベントがあれば必ず参加する。


  時には会社に休みを取ってでも彼女を優先する。


  そんな生活をしているので、彼女が新しくできることもなく、ひたすら推しに対してのめり込んでいった。


  振回は彼女に恋をしていた。


  アイドルに恋をするなんてどうかしている、そんな風に考えていた振回だったが、月日が経つにつれ感情は止まらなくなっていた。


  しかし、アイドルとファンが結びつくことはそう滅多にあることでは無い。


  いつものように推しのためにライブに行ったある日、事件は突然に起こった。




「私は(男アイドルB)さんと結婚します!このライブを最後にアイドルは卒業します!」




  急な宣言に振回はここが現実であることが信じられなくなってしまった。


  グループの中でも目立った存在ではなかった彼女はそのライブにより名前が広まっていった。


  ライブでは受け入れるファンもいれば昂って大声を出すファンもいた。


  ものを投げたファンは警備員によって外へと連れ出された。


  振回はただただ呆然とし、棒のように立っていた。


  わかっていたのだ・・・・・・


  アイドルにのめり込むことで失恋から立ち直れたのではなく、失恋から目を逸らしていただけだ・・・・・・




  それから2年が経ち、振回は結婚をした。


  推しの結婚により、逸らしていた目が現実に向いた。


  自分はただの独身男性だった、別に独身が恥ずかしいことだとはあまり思っていなかった振回だが、ただただ孤独が怖かった。


  推しに費やしていた時間を結婚相談所にあてることにした。


  仕事はそこそこ安定していたため、高望みをせず自分に合った人と交際をし、そのまま入籍をした。


  振回は妻のことを愛していた。


  ただ、過去の推しの愛に比べるとどこか熱の温度は低いことを自覚していた。


  その後、妻とは一人の子を授かり振回は満足していた。


  しかし、なぜかいつまでもチラつくのである。


  過去に推していたアイドルのへの想いが、振回の人生で最も濃いものとなって残り続けている。


  失恋からの逃避のはずが、逃避先が亡霊となって今も付きまとっているのだ。




  ただ、振回は亡霊が消えるように願いながらこれからも日々過ごしていく。

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