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転職師リグレットは後悔させない  作者: 常に移動する点P
第1章・運命の車輪

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【第2話】七匹の龍の呪いとドラゴンスレイヤー

リグレットはネックレスをラニに渡した。「これを持ってろ」

「ダンケルクの石か。なるほどな」

 ガルフは小さくかがみ、その小さな手で印を結び深呼吸した。その皮膚はみるみるうちに硬質化していった。


 リグレットは溶け歪んだ剣を構え、簡易詠唱を始めていた。

「ブエン!!」


 リグレットの詠唱がまばたきの間ほどの一瞬で終わったと同時に、今度は剣先ではなく剣全体が炎に包まれていた。


 階上にあったはずの無数の殺気は、大きな一塊となり、階上の床をぶち抜いて、リグレットたちの前にあらわれた。ラニはリグレットから預かったネックレスを利き手に巻き付け、折れたレイピアを構えた。


「敵さん、くるぜ」


 リグレットは火炎で包まれた剣をガルフに振りかざした。

「えぇええええ!」

 ラニは驚きのあまりレイピアを落とした。


「これでいいんだよ」

 リグレットはラニを抱きかかえて、宿の外に出た。ガルフは炎に包まれ、燃えている。

「ガルフさんが!なんてこと、リグレットさん、なにしてるのよ!」

 炎に包まれたガルフ、宿にも炎が燃え移るのは速かった。宿からは燃え尽きたガルフとリグレットの倍ほどの大きさのブラックオークが立ちはだかっていた。


「早く、もう一度詠唱して、火球でも火炎でもいいから攻撃してよ!」

「いや、もう魔力はとっくに切れてる。それに、そのペンダントで、お嬢ちゃんの体力を魔力に変換して、ちょいと拝借させてもらった」

「あ、あんた!アホなの!!!」


ガルフを包んでいた炎が消え、硬質化していた殻が割れる。

 精悍(せいかん)な顔立ちの青年があらわれた。七匹の龍の刻印(こくいん)がされた装備に身を包み、ブラックオークほどの大きさの大剣を軽々と抜刀していた。


「ガルフ!たぶん二分ぐらいしかもたないぞ。俺も魔力切れてっから、とっととよろしくな」

「あぁ、わかってるって」

「えぇ?あれ、ガルフさんなの」


ラニは残った体力を振り絞って、立ち上がった。


「そうだ、ガルフはドラゴンスレイヤーに転職ミスってさ、まぁ俺のせいでもあるんだけど、七匹の龍の呪いがかかっちまった。で、かわいいミニドラゴンちゃんになっちまったってわけ」

「ミス?」

「そう、転職にはリスクがつきもんだぜ。詳しいことは後で教えてやるよ。滅多に見れないからな、ドラゴンスレイヤーが闘うところなんてよ」


 ブラックオークは雄たけびをあげた。背中の肉が割れる。割れた背中からもう二本腕が生えてきた。


「やっぱりな、ここに親玉がいたってことかぁ。お嬢ちゃん下がっとけよ」


 ガルフは大剣を軽々と空にかざした。姿勢を低くし、大剣を横に構える。そのまま間髪入れず地面スレスレの平行に振り抜いた。

 衝撃波が地を伝う。ブラックオークは二本の腕で全身をガードする。同時に、背中から生えた二本の腕が詠唱印を結ぶ。


「いけねぇ、ありゃ、雷撃系か」

「雷撃系は確か、龍には致命を与えるのでは?」

「まぁ、あいつ今、龍じゃねぇし、どっちかつーと、龍を倒す方のドラゴンスレイヤーだから、ダイジョウブだと思うぜ。なぁ、ガルフ!」


 空を覆う大きな黒雲があらわれ、その中心の渦から巨大な雷がガルフめがけて落ちた。

「レジストしやがった。流石ガルフ!」


 ガルフは全身帯電している。そのまま大剣をタテに構え、前に押し付けるように振り抜く。勢いよく、ブラックオークの両足を切断した。ブラックオークは断末魔(だんまつま)の叫びをあげ、戦闘不能の意思を表した。


 ガルフは光に包まれ、再び小さなドラゴンに戻っていた。ブラックオークも同時に光に包まれた。


「オヤジさん。やっと、元の姿に戻れたな」

ブラックオークは、かっぷくのいい宿屋のオヤジの姿に戻っていた。


「どういうこと?」

ラニは何が何だかわからなかった。

「俺たちは、転職失敗したこの宿屋のオヤジを家族に頼まれて探してたんだ」

「そうそう、まさか、ブラックオークになってたとは思わなかったけど」

ガルフはリグレットの肩に乗って、羽を伸ばしている。


「それじゃぁ、このブルーワの宿にそのオヤジさんがいたのってわかったの?」

「いや、それはたまたまだな。今日はもう、休もうって決めて、転移してきただけだしな。魔力スッカスカで、やばかったよ」

「リグレットてさ、転職失敗したヒトに引き寄せられるんだよね」


「私はまだ、失敗してないけどね」

「このままじゃぁ、失敗するさ」


リグレットは炎で完全にゆがんだ剣を投げ捨てた。


「この、オヤジはおそらく僧侶系の転職、たぶん解毒師げどくしになろうとしたんだな。趣味で薬草なんかも調合してたって家族も言ってたみたいだし」

「それで?」

「で、その辺のニセ転職師に金払って、ジョブテン(転職の意)したんだろうな。」

「ボクとは種類が違うと思うけど、転職には呪いのリスクがつきものなんだよ。上位職になればなるほど、各種パラメータだけじゃなくて、これまでの行いだとか、職種適性だとかそういう見えないところなんかも判定されるんだよね」


 ガルフは疲れた表情でラニに話した。


「あのー、よろしいでしょうか。この近くに私の知人の宿がありますので、そちらで休まれてはどうでしょうか?」

「オヤジさん、ほったらかしにしてたな。すまんすまん」


宿屋のオヤジに連れられ、リグレットたちは別の宿屋に向かった。


(第三話につづく!)

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