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いじめられっ子の僕が  作者: 西村
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似顔絵

 「勇者殿。本日は、ゆっくりと休んでください。何が御用があれば、ベッド脇の棚の上にある鈴を鳴らせば、近くのメイドがやって参りますので遠慮せずに申しつけてください。それでは失礼します」

 「失礼します」


 国王と王妃は、医務室を退室する。

 2人でメイドを従えて、しばらく歩き、応接室へ。


 「メアリーよ。私の選択は合っていたのだろうか。滅びゆく世界を救うためとはいえ、この世界のことを何も知らない少年に、世界の命運を託してしまった。本来ならば、この世界の者達だけで解決しなければならないというのに……」


 国王は頭を抱える。

 マーク王国21代国王「プランプ・マーク」(35)

 彼は、1000年続く歴代国王の中で1番優しく、国民達から慕われている。それは、彼が身分など関係なく、相手の立場に立って真剣に考えて悩み行動するから。

 彼は、追い込まれて決断したとは言え、最後まで異世界勇者召喚という手段が正しいのか悩んでいた。


 「自分だったら、いきなり今まで過ごしてきた世界とは別の世界に呼び出されて、人類滅亡の危機で、「あなたはその人類の滅亡を救う勇者として選ばれました。どうか力を貸してください」と言われたら果たしてなんと決断する。多分逃げたい。「なんで俺なんだ」と。


 それでもあの少年は、力を貸してくれると言った。私の半分くらいのとしはもいかない少年が。それは、並大抵の決断ではない。


 「私は彼にとんでもない重積を負わせてしまった。しかし、勇者殿の力を頼らなければ、魔王は倒せない。亡くなった者達の分まで強く生きようとしている国民達に申し訳ない。必死に国を守っている兵達のことも思うと……」


 王妃は、ソファに座る国王の背中を優しく抱きしめる。


 「……彼は優しい。1人で全てを背負ってしまうだろう。だから、そんな彼が潰れてしまわぬように、私の持てる力。その全てを使って勇者殿を支える!」


 国王は勢いよく立ち上がり、力強い目で決意を固める。


 王妃は、そんな国王の姿を見て、「やっぱりこの人を選んだ私の目に狂いは無かった」と微笑む。


 「はい。全力でお支え致しましょう」

 「うむ!やるぞ!」


 国王はそのまま勢いよく応接室を出て行き、まずは、勇者殿に最高の装備を提供するために王国1番の技術者である王宮専属技術者の元へと向かう。


 王妃は、その後ろ姿が見えなくなるまで頭を下げ続け、いなくなったのを確認してから、鈴を鳴らす。


 「王妃様。御用向きは」


 紫髪のメイドが応接室へと静かに入ってくる。


 「リリア。あなた絵が得意だったわよね。さっきの勇者様の笑顔描ける?」


 王妃は、日向の笑顔を思い浮かべながら、鼻息荒く紫髪のメイド改め、リリアに詰め寄り尋ねる。

 欲しいオモチャを我慢できない子供のような王妃の姿に表情ひとつ動かさずに、淡々と「はい」と答える。


 「では、お願いできる?」

 

 王妃はさらに「はぁ……はぁ……」と鼻先が触れる距離まで近づき、圧力をかける。


 その姿からは、「あの笑顔の瞬間を絶対に手に入れる!」という背筋がゾッとするほどの執念を感じた。

 

 そう言われることはわかっていたリリアは、すでに出来上がっている絵を懐から取り出す。


 「そうおっしゃると思い、すでにご用意しております」


 1枚の白の画用紙に黒鉛筆で立体的に描かれて、現代人が見たら「写真!」と驚く出来栄えの絵を王妃に手渡す。


 「これよー♡はぁ……はぁ……ああ♡いい笑顔だわ♡何この笑顔は!反則だわ!母性本能をくすぐられ過ぎて爆発してしまいそうよ!」


 王妃は絵を見た瞬間に身をよじる。


 絵に夢中になっている王妃の時間を邪魔してはとリリアは部屋を後にし、隣の待機室へと戻る。


 「本当はこちらの方が良い出来栄えだったのですが……」


 リリアは1枚の絵を取り出す。


 「王妃様。すみません」


 リリアは大事そうに絵を胸に押し当てる。

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