ありがとう
(やはり、みんな疲れが溜まっていてついてこられるものは少ないか……)
街に侵入したゴブリン達を討伐するために、王都南大通りを北上するリナとその部下達。
はじめは、10名居たが、レベル60にして、人類でも指折りの実力者である隊長のリナと隊士達ではステータスに差があり、ついて行ける兵士は元々少なく、そこに連日に及ぶ戦闘の疲労も溜まっており、次々に脱落していく。
(だが、魔物が街に侵入して相当な時間が経つ。早く見つけ出して、殲滅しなければ……)
リナは部下達に気を使わず、さらに移動速度を上げる。
(魔物によって殺された人間はグールとなってしまう。それだけはなんとしても阻止しなければ……)
魔物によって滅ぼされた故郷「フレバンス」
王都のように、金などの名産品はないが、のどかで人々がゆったりと過ごす平和な田舎町。だが、僅か30体の魔物を侵入させてしまった。その結果、3000人の住人の内、2000人がグールとなった。
優しかった人々は「亡者」となり、平和だった街は亡者の地獄と化した。
(フレバンスの二の舞にはさせない!)
再び後ろを振り返り、部下達を確認する。
「やはりお前だけになったか……アルス」
リナにそっくりな赤髪の男だけがついてきていた。
「はい。姉さん」
彼の名は「アルス・ブレントン」(15)リナの弟
アルスもまたレベル50台後半とリナに次ぐ実力者。
「武器屋の看板が見えました。あと少しで広場です」
「ああ。急ごう」
広場を目指して進む2人に風が吹く。
「!アルス!」
「今の風は……魔力によるもの」
リナとアルスの頭には、玉座の間で見た黒髪の少年の姿が浮かんでいた。
2人は確認するように頷き合い、火魔法による身体強化でさらに移動速度を上げる。
(勇者様。どうかご無事で)
****************
「姉さん」
「ええ!間違いない。あの赤い肌に角は、オーガだ」
(それにしてもこれが伝説の風魔法……魔法は使用者の性格がそのまま現れるけど、この風はなんて優しいんだ。それにオーガの様子を見るからに相当強い風が吹いているはずなのに、風下にいる私達には優しい微風に感じられるーー不思議だ)
「アルス!オーガは私が!お前は住人の保護を!」
「わかりました」
私は真っ直ぐとオーガへと向かい、アルスは左から回り込む。
(オーガまで残り300m……)
リナが愛刀を抜こうとした時に、オーガの動きを止めていた風が急に止む。
(ーーまずい!魔力切れ!)
リナは焦る。オーガまで残り200mくらいある。どんなに頑張っても距離を縮めるのに10秒、そこから剣での突きによる攻撃に1秒かかってしまう。
対して、オーガは振り上げている巨大な棍棒を振り下ろすだけ。どうしても間に合わない。
(何か打開策は……)
限られた時間の中で思考を巡らせるが何も浮かばない。
(神様……)
リナが諦めかけたその時、突然オーガが地面に倒れた。
倒れたオーガの胸には、刺さった剣。その近くには仰向けに倒れる黒髪の少年がいた。
(ま、まさか倒したというのか!勇者とはいえレベル1の者が!……信じられない。未だかつてそんな話すら聞いたこともない。オーガはレベル50台の強敵だぞ!レベル60の私でも気を抜けばやられかねない相手だ。それを…)
倒れる日向に駆け寄る。
*****************
あれから3日……
王城にある医務室のベッドで日向は、あの日から目を開けぬまま穏やかに眠り続けている。医者の診察では魔力切れによる魔力欠乏症くらいで他には異常はないと言っていた。
それでも国王は心配のあまりに公務をほっぽって看病。片時も離れなかった。雨が降って寒くとも、メイドを愛でる時も、王妃を愛でる時も、片時も離れなかった。
そして、国王の看病の甲斐もあり、日向は目を覚ます。
「う……んん……」
意識が戻り、目を開けると数日目を閉じていた影響で視界が曇りガラスのようにぼやけはっきりと見えない。
(なんだ?何かが目の前にあるような……)
日向は徐々に顔を近づけていく。
(白い…髪?それとわたあめのような髭……て、)
「国王様!」
後もう少しで触れるか触れないかという距離に国王の顔があり驚いた日向は国王の額に頭突きをしてしまう。
「勇者殿。ご無事でよかっ……だあぁぁ!」
頭突きを喰らった国王は勇者の膂力に耐えられず、そのまま上へと飛んでいき、天井を突き破り頭がめり込む。
「……え……ええ!」
「……」
日向は驚き、王妃は日向を見て驚愕して固まる。
(どうしよ!国王様死んじゃったかな!)
力なくぶら下がる国王
(うわぁ。どうしよ……勇者なのに、国王にとどめ刺しちゃった!)
それからしばらく、なんとも言えない時間が続き、国王は音を聞きつけた兵士によって無事に救出された。
「心配ご無用!わしはダメージなど受けておりません!なんせわしは岩頭ですからな!寝ている時もベッドから落ちて朝起きたら、床に頭が減り込んでいることなんてしょっちゅうですよ!あっはっはっは!」
国王は頭突きを喰らう前よりも元気よく話し出す。
(ああ。本当によかった)
安心した日向は、笑う国王に向かって意を決っして話す。
「あの!勇者をやってくれないかという話なのですが、僕でどこまでお力になれるか分かりませんが、力の限り頑張りますのでよろしくお願いします!」
その言葉を聞いた国王と王妃は日向に頭を下げる。
「申し訳ない。勇者様にとっては巻き込まれたようなものなのに……ありがとうございます。こちらもできること全てでサポートいたします」
「はい!よろしくお願いします!」
日向は笑顔で頭を下げる。
ーほーら!そんな難しい顔しない!大丈夫だから!笑って。今は作り笑いでも、そのうち気がついたら自然と笑える場所にいるから
(母さんの言った事は本当だったよ。ここには僕が難しい顔をしても、緊張して変な声で喋っても、馬鹿にする人なんていない。みんな笑いかけてくれる。真剣に聞いてくれるよ)
どこかぎこちなかった笑いは、王妃やメイドが頰を染めるほど魅力的な自然と笑顔にさせていた子供の頃のような自然な笑顔を取り戻していた。
(嫌だわ。私には、夫がいるのに……でも、素敵な笑顔……)
頬を染め高鳴る胸の鼓動を抑える王妃。
(勇者様……)
同じく頬を染め胸を抑える美女メイド




