表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いじめられっ子の僕が  作者: 西村
4/7

風の勇者③

 ーマーク王国王都南門ー


 腰まである赤い髪、意志の宿った凛々しい目、引き締まった体、だが、出るところは出ていて、街で見かけたらそのモデル顔負けの顔とスタイルに異性の目は釘付けになるだろう。

 そんな美女は、迫り来る3mの赤い鬼「オーガ」に向かって、軽鎧と同じデザインの赤と銀のロングソードを一閃。


 「斬空スラッシュ!」


 オーガを真っ二つに斬り伏せる。


 「ふぅ……」


 腰の鞘へと剣を収める。

その背後には、オーガ20体以上、ゴブリンは数えきれないほどの亡骸の山が出来上がっている。


 その近くでは、水色の長い髪をツインテールにし、ぱっちり二重の垂れ目と童顔、可愛らしい幼さの残る声、同世代よりも少し低い身長、上目遣いで見つめられたら思わず異性同性問わず、庇護欲をそそられる魅惑の美少女は、負けじと「水刃ウォータースラッシュ!」とオーガを水の刃により両断。


 そんな美少女は、ふん!と鼻息荒く「見たか!」と言いたげに赤い髪の美女を見る。


 「はぁ……エミは……」


 赤い髪の美女は、頭を抱える。


 「リナ様!」


 ちょうどそこに門の方から若い兵が1人、慌てて走ってくる。


 「どうした?」

 

 赤い髪の美女改め、名を「リナ・ブラントン」(16)は、すぐにいすまいを正し、威厳ある態度で要件を尋ねる。


 「はい!街に侵入を許した10体のゴブリンと1体のオーガですが、現在、南大通りを北上中とのこと!応援を頼んだ東門と西門、共にグールが1000体攻めてきていて対処できないと連絡がありました!」


 兵士は慌てた様子でリナに報告する。


 リナは戦況を見る。


 (残りのオーガは3体、ゴブリンは20体程か……エミなら残りのオーガは余裕で倒せる。兵士たちも負傷者が少なく済んで50はいるな……)


 リナは即座に戦場の兵たちに指示を飛ばす。


 「ここの指揮は私に変わりエミ王女に任せる!残っている前線兵50人の内、10人は私と共に来い!街に侵入したゴブリン共の殲滅に行く!時間との勝負だ!ついてこられないものはその場に置いていく!だが、日々、私の地獄のような訓練に耐えるお前たちならついてこられるはずだ!」


 皆、顔に疲労は見られるが、気合は十分。目指すは、街に侵入したゴブリン、オーガ。


 「行くぞ!!」


 リナは街へと駆け出す。


 「「「おおお!!!」」」と部下たちも答えて走り出す。


 (奴らはそこまで馬鹿じゃない。人の集まるところくらいはわかる。南大通りを北上したなら人の多い中央広場に向かうはず……)


 「まずは、中央広場を目指して進む!いいな!」


 リナは部下達に指示を出す。


 「おお!」


 ーその頃、マーク王国王都の中央広場ー


 「「「「「ギャアアア!」」」」」


 5体のゴブリンが日向達のいる献花台に向かって走っていく。


 「まだ……引きつけて……」


 日向の指示に慌てる事なくピンポン玉台の瓦礫を手に持ち、投げる構えを取る。


 「合わせて!……せー……の!」


 皆、一斉に瓦礫を投げる。


 綺麗に横回転しながら、6個の瓦礫が向かってくるゴブリンに飛んでいき、「ギャァ!」「ギャッ!」「ギャ!」と3体のゴブリンの目を捉え命中してめり込む。


 「やったぁ!」と、そんなふうに喜びたいが、残り2体のゴブリンが台に手をかけて登ってこようする。


 日向を含めた剣を持つ4人は、振り上げた剣を一斉にゴブリンめがけて振り下ろす。そのうち、2つの剣は、受け止められたが、残りの2振りの剣でゴブリンの頭をかち割る。


 「……」


 剣と投擲とうてきにより、倒れたゴブリン達が動かないか確認してから、みんなで顔を見合わせて頷きあう。


 「終わった……」


 そう誰かが口に出した瞬間……


 「グアアアア!!」という大気を揺らす程の声が鳴り響く。その声の主は叫び声と同時に、ドシン!ドシン!と地面を揺らし、ゆっくりと日向達の方に向かう。


 「おい。今の声って」

 「ああ、間違いない!」


 大気を震わす声、歩くたびに揺れる地面……それらから伝わる存在感、圧力、殺気が重くのしかかり、自分の体重が倍になったのではないかと感じられるほど重く、動かない。


 他の住人も同じようで、息をするのでさえ苦しそうにしていた。


 ドシンドシン……徐々にその姿が見えるようになってきた。


 「グアアアア!」


 家屋の2階部分にまで達するほどの屈強な体、一突きされれば鉄の鎧でも貫かれそうな鋭い角、2m弱はある丸太のような棍棒を持つ赤い鬼がゆっくりと向かってくる。


 「!」

 「グア!」


 日向と鬼の視線が交わる。


 「ひ!」

 「グアア」


 恐れる日向、喜ぶ鬼。


 ドシンドシン……とゆっくり歩いていた鬼は、獲物に向かって走り出す。鈍重そうな見た目からは想像もできない、短距離走の選手並みのスプリントとストライドを見せる。


 「死」がどんどん歩みを強めて日向達に近づく。


 「いやだ……」


 日向は恐怖のあまり一歩下がる。


 「な、なんでオーガ……」

 「ひ……」

 「やだ……」


 日向に合わせて住人たちも恐怖に屈する。

体に力が入らずに動けない者、その場に座り込んでしまう者、子供達はあまりのプレッシャーに気を失ってしまう。 


 ー現実はいつだって理不尽。こういう事起こるもんさー


 僕の両親を殺した通り魔の笑顔がちらつく。


 ーお前は惨めだな。何も守れない。ー


 (そう。僕はいつだって惨めさ。ずっと馬鹿にされて笑われてきた。そんな僕を唯一受け入れてくれた両親を守れなかった……そんな両親と一緒でここの人たちは僕のことを笑わなかった。暗い顔していたら、笑いかけてくれた……)


 ーあなたが笑うといつだって曇ってた人たちの顔がたちまち明るく眩しい笑顔を浮かべるの。それを見て、日向って名前にしたの。あなたは困ってる人がいると誰よりも早く駆けつけて助ける。私たちの自慢の息子よー


 いつもいじめられて帰ってくると母さんは胸を張って言ってくれた。


 (母さん。父さん……)


 日向は一歩、住人の前に出る。


 「グアア!」


 オーガは日向を狙って棍棒を振り上げる。


 (今度は絶対に守り抜く!……吹き飛べ!)


 日向の意思に応えるように竜巻のような爆風がオーガに向かって吹き荒ぶ。


 「グア!!」


 オーガは突然の風に驚愕する。しかし、それでも即座に体に力を入れて飛ばされないように踏ん張る。


 「ああああ!」

 「グアア!」


 その様子は土俵際で押し合いをする力士のよう。


 倒れた瞬間に即座に飛び乗り、胸に剣を突き立てようとしている日向。


 その狙いに気づき、なんとしても耐えて、限界を迎えた瞬間を狙って棍棒で仕留めようとしているオーガ。


 我慢の比べ合い。不利なのは日向。


 魔力操作の技術がおぼつかず、ゴブリンとの戦いでMPを消費しすぎて残りMPは40。それも風を発生させ続けているから1秒に1消費されて行っている。持って40秒。


 (ぐっ……)


 オーガの方は、風の強さに慣れて余裕が出てきたからかニヤリと笑う。


 (風を発生させることはできても操ることはできない。かと言ってこれ以上強い風を発生させることも感覚から言って無理……なら)


 日向は覚悟を決める。


 「グアア」


 「相手は限界が近い。後一歩耐え切れば目の前のゴミ共を全部殺せる。楽しみだ」という思いからオーガは歓喜の声を上げる。

 自然と体にも力が入り、前のめりになる。


 (……今!)


 その瞬間、日向は風を一気に消す。


 「グァ……」


 前のめりになっていたオーガは、風という支えが急になくなったことで、バランスを崩し、前のめりに倒れる。


 「グアア!」


 それでも右足で全体重を支え、なんとか持ち直す。その間3秒ほど。日向が剣を前に突き出してオーガの胸に向かって剣を突き立てるには十分な時間。


 「ああああ!」


 一瞬、鎧のように固い筋肉に阻まれたが、意地で突き破りオーガの心臓に剣を到達させる。


 「グ……」


 オーガの胸から血が流れ出る。「ウ?」と自身の胸を手で触り、血に汚れた掌を見る。


 「グフッ」


 吐血し、掌を眺めたまま、前のめりに倒れる。

その瞬間、王都の空を覆っていたド黒い雲は晴れ、青空が広がる。


 「やっぱり青空はいいなぁ」


 魔力欠乏症により日向は、その場に仰向けに倒れ込み、綺麗な空を眺める。だんだんまぶたが重くなってきて、視界がかすむ。


 「オーガを撃破……レベルが上がります」


 真っ暗闇の底に沈みゆく意識の中、その言葉だけがやけにはっきりと聞こえた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ