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いじめられっ子の僕が  作者: 西村
3/7

風の勇者②

 「ギャッ!」


 日向の意思に応えるように発生した風は、緑の化物だけを10m以上に吹き飛ばし、化け物は建物に激突。


 「ギャァ……」


 弱々しい声をあげて動かなくなる。


 「おにいちゃん!」


 女の子は勢いよく日向の懐に飛び込んでくる。日向は少女を優しく抱き止める。


 「よかった……」


 手に伝わる温かな感触、呼吸、心音……それら全てが日向に少女が生きていることを伝える。


 「あ!おにいちゃん。いい顔で笑ってるね!」


 少女はおまんじゅうのように柔らかな頬をにっこりさせる。


 「「「ギャアアア!」」」


 日向と女の子が笑い合っていると日向が吹き飛ばした化け物と同じ声が遠くから響いてくる。


 (まだいるのか……勘弁してくれ。やっと体の震えが止まったのに……)


 安堵してほぐれた体は、再び緊張と恐怖で固まる。しかし、普段なら確実に動けなくなるほどの恐怖のはずなのに、なぜか心身共に軽く、頭が冷静に働くと不思議がる日向。


 (化け物の声がするのは広場に通じる4つある大きな通りの南か?の方から……でも、もしかしたら別の通りからも魔物が来るかもしれない……)


 日向の日課である最悪の想定をして動くという習慣がここで本領を発揮する。


 (広場が魔物によって取り囲まれる可能性もある……国王は兵士がいるとも言っていたな……)


 ぐるりと広場を見渡す。ほとんど平地で、囲まれたら剣で突かれて終わり……


 (化け物の体格は1mと少しくらいか……やっぱりあそこしかないか……)


 日向の目が広場の真ん中にある壇上型の献花台に止まる。


 (高さは…50cmくらいか?…10人は乗れるか……)


 日向の懐にいる少女、建物の中に逃げ遅れた大人達……日向を入れてちょうど10人……

 

(この街を守る兵士たちが駆けつけるまで献花台の上にみんなで避難……その前に建物にめり込んだ化け物から剣と盾、崩れた壁の瓦礫を集めて襲いくる化け物に投げつける……他は火のついたたくさんのろうそくと花束……これしかないか…)


 日向は、自身を見上げる女の子を見る。


 (化け物もこの子と同じくらいの身長だから、武器を持った手で登るのは容易じゃないはず……)


 日向は、「ごめんね」と断りを入れてから、少女を抱き上げ、献花台の上に少女を下ろす。


 「たぶんここなら安全だと思うから待ってて」


 女の子の頭を安心させるように優しく撫でる。


 「おにいちゃん。だいじょうぶ?」


 女の子は心配そうな顔で日向を見つめる。


 「大丈夫!」


 日向は、少女に笑いかける。どこかぎこちないが、それでも女の子を不安にさせないように必死に取り繕って笑う。それから、日向は少女に背を向け瓦礫に埋もれる緑の化け物を見る。


 (大丈夫……じゃない。本当は今すぐにでも逃げ出したい。でも……)


 ー現実はいつだって理不尽さ。こういうことも起こるー


 両親の血を全身に浴びて、僕に笑いながらそんなことを喋りかけてきた通り魔の顔が頭をよぎる。


 その通り魔の笑った顔と嬉々として少女に斬りかかった緑の化物の姿が重なる。


 (理不尽に奪われていい命なんてない!)


 震える体に、何とか力を込めて走り出す。


 「「「ギャアアア!」」」


 日向が走り出すと、緑の化け物たちが南大通りから現れ、それぞれ、近くの人に斬りかかる。


 (頼む!あの人達を助けてくれ!)


 日向は、走りながら手を伸ばし、強く願う。


 女の子を助けた時のように強くはないが、それでも「ビュウウウ!」と強風が発生し、20m先にいる緑の化物たちを数m転がす。


 「今のうちに!早く!あの女の子のいる献花台の方へ!」


 呆気に取られる人たちに叫ぶ。


 「おい。今の見たか……」

 「ああ。あれは、魔力による風だ」

 「ええ。それに黒髪、黒目……」

 「間違いない……」


 逃げ遅れた人たちの視線が日向に集まり、周りにいる人たちに確認するように喋り出し、全員で認識していることがあっていることを知ると、絶望に包まれていた目が一転し、希望に溢れ、輝く。


 「伝説は本当だったんだ!」

 「風の勇者様だ!」

 「俺たちを助けにきてくれたんだ!」


 住人たちは叫び、立ち上がる。


 その間に化物が立ち上がり、日向に剣を構えて向かっていく。


 (くそ!震えるな!)


 両手で震える足を思い切り叩く。

「ドゴン!」と丸太で叩かれたような衝撃が足に走る。


 「いった!」


 すると、視界の端に映るステータスのHPが100/100となっていたのが、95/100と変化していた。


 (ええ!自分で自分を叩いただけでもダメージになるの!)


 日向が驚愕していると……


 「勇者様!」「ゴブリン!」と住人達が叫ぶ。


 緑の化け物、改め、ゴブリン3体は日向に向けて同時に斬りかかる。


 (ああ!そうだった!……吹き飛べ!)


 ゴブリンに向かって右手を向けて構えて願う。


 「「「ギャッ!」」」


 再び風が発生し、今度は、ゴブリンたちを強く石の壁に叩きつけ絶命させる。


 (はぁ……助かった……)


 体から力の抜けた日向はその場に座り込む。


 「勇者様!全員。中央の台の上に乗りました!」


 そのタイミングで、住人の1人が日向に向かって叫ぶ。


 日向は、振り返り、献花台の上に逃げ遅れた人達が全員いることを確認する。


 「わかりました!あなたも早く台へ!」


 「はい!」と50代くらいの男性は台へ走っていく。


 日向は絶命したゴブリン4匹に恐る恐る近づき、


 (うわぁ……ごめんなさい!ごめんなさい!)


 壁に叩きつけられ無惨な姿になったゴブリンをなるべく見ないようにして、剣4本、盾3つと手頃なサイズの瓦礫を服のポケットや裾に入る分だけ入れて、自身も台座の上へと登る。


 「勇者様!ありがとうございます!」

 「勇者様のおかげで助かりました!」

 

 住人たちは日向を囲み、それぞれ感謝の言葉を口々に告げる。


 「み、みなしゃん!……」


 日向は大勢の人に囲まれて緊張のあまりに勢いよく噛んでしまい、頬を真っ赤に染め、目を閉じる。


 (か、噛んじゃった!恥ずかしい……せっかくみんな頼りにしてくれてるのに……幻滅されちゃう……)


 閉じた目を恐る恐る開く。


 「……」


 みんな笑っている人はおらず、日向の次の言葉を真剣な面持ちで待っていた。


 「キモッ」「変なとこで噛んでるよ!」「仕方ねえよ。馬鹿だもん!」「ギャハハ!」


 クラスメイトや施設で一緒に暮らしていた人や職員……


 (日本だったら馬鹿にされることが多かったのに……)


 「すぅ……はぁ……」


 日向は深呼吸して落ち着いてから、ゆっくりと喋り出す。


 「皆さん。おそらくあのゴブリンたちはこの高い台に登るのに身長的に手こずるはずです。なので、ここにある4本の剣を使って登ろうとするところを狙って突いてください!それと3つの盾で叩いて!それから!剣を持たない人は僕の持ってきたこの石を持って向かってくるゴブリンへ投げてください!通用するかわからないですが、よろしくお願いします!」


 日向は頭を下げる。


 「わかりました!剣は男共で!女子供は石を投げよう!」

 

 1人の中年男性が指揮をとってくれる。


 「おお!まかせろ!」

 「わかったわ!」


 みんなそれぞれ剣、石を手に持って構える。


 「よし!」

 

 みんなに勇気をもらった日向も気合いを入れ直し剣を構える。 

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