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いじめられっ子の僕が  作者: 西村
2/7

風の勇者①

 「今日も天気がいいねぇ」 

 「そうだね。洗濯物も乾いて助かるね」

 「いっけー!」

 「あ!お兄ちゃんまって!」


 黒髪の少年は気持ちの良い日差しの中、道ゆく人々を見ながら、赤い瓦屋根、コンクリートではない石造りの建物が並ぶ街並みを眺める。


 「本当に異世界に召喚されたんだ……」


 ビルが一切ない景色を見てつぶやく。


 

 ー1時間前ー



 「勇者殿。私、このマーク王国第21代目国王「プランプ・マーク」と申します。いきなりのことで混乱されていることと存じます。しかし、過給のことゆえ単刀直入に申します」


 それから国王は、正座となり頭を下げる。


 「どうか!どうか!魔王により滅びゆく、この世界を勇者殿のお力でお救いください!」


 なんの説明もなくお願いされた黒髪の少年は「……へ?」と間抜けな返事をしてしまう。


 さっきまで工事現場から落ちてきた鉄骨で死ぬ事を覚悟していたのに、いきなり目を開けたらテレビでしか見たことがない高そうな部屋にいて、目の前には10数人の人が僕に向かって頭を下げていて、国王と名乗る人は僕のことを勇者と呼び、魔王から世界を救ってくれという。


 少年の頭の中は混乱の極み……全く思考が落ち着かない。


 そんな少年の様子を見た国王は、


「すみませぬ。つい気が焦ってしまい。もう少し落ち着ける場所で順を追って説明させていただきます。こちらへ」


 と手を差し出してくる。


 金で装飾された部屋、頭を下げる10数人の大人……


 とりあえず落ち着かないこの部屋から移動したかった少年は、国王の手を取り、案内の元、隣の応接室へと通された。


 応接室も豪華な装飾はされていたが、先程の部屋ほどあからさまではなかったので、部屋を見た瞬間に少し表情が柔らかくなる。


 「さあ、こちらへ」


 促されるままにソファへと腰掛ける。

その向かいに国王が腰掛ける。


 「失礼します」


 脇から、メイド服を着た紫の髪のキリッとした綺麗なお姉さんが紅茶を出してくれる。あまりの綺麗な所作にビビりの僕でも驚くことなくスッと紅茶をテーブルに置く。


 「では、早速説明させていただきます」


 紅茶を一口飲んだ国王は話し出す。

 

 長い説明だったので、要点をまとめると、この世界は「アーク」という世界。魔法が存在する世界で人族同士争わずに平和を保ってきたそう。しかし、500年前に突如として魔王が出現するようになった。


 それでも人類が団結して何とか倒してきたが、今回の魔王はこれまでの魔王と段違いに強く、残忍で、笑いながら人を殺す。


 人族国家は次々と滅ぼされ、現在はこのマーク王国王都を残すのみとなってしまった。


 そこで、伝承にある世界の危機に瀕した際に使用できるようになる異世界勇者召喚を使用し、僕が召喚されたらしい。


 異世界から召喚されるのは、500年前に世界が滅びかけた時以来らしく、「風」は他の火、水、土属性と違い異世界の勇者しか使えない特別な魔力だという。


 他にも火、水、土に関しては、「アーク」に住む人達から勇者が選ばれるが、すでに敗北してしまっている。


 魔王に傷を負わせられるのは勇者のみ、どうしても僕の力が必要だという事。

 

 説明を全て聞き終えた僕は、それでも理解ができずに「少しだけ時間をください」といい、城の外に出た。




 ー現在ー



 「……」


 無言でレンガによって整備された地面を見つめてとりあえず歩く。

 

 足に伝わる感覚、暖かい日差し、人の声……どれもが夢ではなく現実であることを感じさせる。


 (本当に異世界に召喚されたんだ……)


 少年は地面の1つの石ころに目が止まる。他の小石と違って歪な変わった形をした石……


 「おにいちゃん。むずかしいかおして、どうしたの?」


 3歳くらいの女の子が、トコトコ走って来て少年に話しかける。


 「ははは。ちょっとね」


 少年女の子に苦笑いを浮かべる。


 「そうなんだね……」


 女の子は手に持った白い花をしばらく見つめた後、少年に差し出す。


 「パパが言ってたの。この花を持ってると自然と笑顔になれるって。だから、お兄ちゃんが笑顔になれるようにこれあげる」

 「…ありがとう」


 女の子が差し出して来た花を受け取る。


 「おにいちゃん!またね!」


 女の子は、僕に花を渡すときびすを返して走っていった。


 「いい匂い……」


 渡された花の匂いを嗅ぐ。不思議と心が落ち着いて、笑みがこぼれた。


 (いつ以来だろうか。こんなに人に優しくされたのは……)


 花を手にして、再び歩く。その足取りはどこか軽い。


 それからしばらく歩くと広場に出た。


 「広い……」


 宿、時計店、宝飾店などが並ぶおそらく以前は多くの人で賑わい、笑顔に包まれていただろう広場。


 「広場の真ん中にあるの……献花台?」


 大きな石碑があり、その周りを大勢の人が並び、1人1人白い花を置いて、手を合わせていた。中には、涙を流している人も……



 石碑を取り囲む人たちの中には、僕に花をくれた女の子の姿もあった。


 「国王の話では魔王が本気を出せばあっという間にこの王都なんて落とせるのに痛ぶるように魔物を差し向けたり、人をグールに変えて楽しんでるって話してたっけ……」


 大切な人が突然奪われる苦しみ、悲しみ……石碑の周りにいる人たちの姿は、11年前の僕と重なった。


 「……」


 そんな時、急に空に積雷雲よりも真っ黒な雲が空を覆う。


 「き、きゃああ!」

 「奴らが来たぞ!」


 石碑の周りにいた人たちは慌てて建物の中へと入っていった。


 その瞬間……


 「カンカンカン!」


 という甲高い音が鳴り響く。


 「な……」


 状況が掴めずに少年はその場で固まる。


 ドォン!ドカン!バアアアン!


 警報が鳴り止むと今度は、何かが破壊される音……そして……


 「「「ギャアアア!」」」


 黒板を爪で引っ掻いた時のような耳を押さえたくなる大きな声がこだまする。その声を聞いていると、自然と恐怖が心を支配していった。


 「ひっ!」


 少年は思わずその場にうずくまる。


 「おにいちゃん!だめだよ!にげて!」


 さっきの女の子の声が聞こえた。


 (怖い……)


 しかし、女の子の声もやまびこのように聞こえて、何を叫んでいるのかはっきりとはわからない。だけど、女の子の声で少しだけ恐怖が和らぎ、亀のようにうずくまっていた少年は、顔を上げる。


 「おにいちゃん!」


 少年に向かって必死に女の子が走っていく。


 しかし、女の子の後ろにいるものを見て顔が青ざめる。


 緑色の肌、長い牙、細長い手……


 おぞましい顔の化け物が、女の子の首を狙って剣を振り下ろしていた。


 「や、やめ……」


 思わず叫び手を伸ばす。


 ズキン、ズキン……いきなり頭を襲う激しい痛み


 それと共にいまわしい記憶がよみがえる。


 「日向!逃げて!」

 「日向!逃げろ!」


 11年前、僕の身代わりとなって刺されて死んだ両親の記憶。


 流れる血……どんどん冷たくなっていく体温……


 「やめろ!」


 少年は女の子に向かって、駆け出す。


 それでも女の子までの距離は10m以上……

 少年よりも先に化け物の剣が女の子の首に迫る。


 ー現実はいつだって理不尽だ。

          予期しないことが起こるもんさー


 少年の両親を殺した通り魔が笑いながら発した言葉。


 (ふざけるな……ふざけるな!クソ喰らえだ!)


 そんな少年の感情に呼応するように、

 視界にゲームのステータスウィンドが表示される。



   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 有沢日向(16)職業:勇者 Lv.1 /99


 HP 100/100 身長:160cm 体重:50kg

 MP 150/150


 筋力  20/50

 俊敏性 30/50

 知力  30/50


 〈スキル〉

 風魔法 Ⅴ 回避 Ⅱ 魔力操作 I 体術 I

 経験値倍 成長促進 


 〈耐性〉

 身体的苦痛耐性 Ⅲ 精神的苦痛耐性 Ⅳ


 〈称号〉

 優しき者


 〈状態〉

 勇気を振り絞り立ち向かう

 

   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 

 (なんでもいい!あの女の子を助けたい!)


 少年は願う。


 そんな願いに応えるように、必死で女の子に伸ばす手から風が発生し、女の子に斬りかかる緑色の化物を吹き飛ばした。

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