琥珀と馬鹿
どうやら解熱剤の投与で最悪なシナリオだけは免れたようだ。
少女は今現在、体調が回復傾向に向かっている。
もしあそこで、サリチル酸を作る材料がなかったら危険な状況だっただろう。
やはり過去の俺に間違いはなかったようだ。
そうこうしているうちに、目が覚めたようだ。
少女は目覚めてすぐに上半身を起こし見慣れない場所にいることに困惑して、吾析の部屋を見渡す。
「うぅ..ここは?」
「宿泊施設だ。あと、安静にしろ。解熱剤は投与したがまだ本調子ではない。」
そう言うと吾析は少女を再びベッドに寝かせる。
「助けてくれたんですか?」
吾析は「ああ」とだけ言った。
「そうだったんですか...」
少女はうつむいたまま言った。
しばらくの沈黙があり、何が言わねばと思った吾析はとりあえず質問を知ることにした。
「そういえば。名前は?」
少女は言おうか言わまいか迷っている様子だった。
やっと決心がついたらしく少女が言う。
「私、家族がいないんです。物心がついた時にはつてられていたので名前も分からなくて...だから、とても助かりました。あのままだと私、死んでいたかもしれないから....いいえ。もしかしたらあのまま死んだほうが...」
........
しばらく暗い雰囲気が漂う。
どうにかして励ましてやりたいが俺の人生経験上、人を元気にさせる言葉など全く持って知らない。
だが、一つ分かった事がある。
こいつは、まだ世界を知らない。知らなさすぎるのだ。だからこそ、こいつには世界を見せてやりたい。世界は夢に満ちているとこいつに訴えたい。
そう思った俺は考えるより先に口が動いた。
こいつを傷つけないようにとか、分かるようにとかそんなのはどうでもいい。
大事なのはこいつに夢を見せることだ。
「俺はサンタクロースに会うことが夢だ!そして今はそのために旅をしている!」
そういった吾析に少女は唖然として答える。
「え!?サンタクロースって存在しないんj.....
彼女は何かを言おうとしたが、吾析はお構いなしに言う。
「ちょうどいい機会だお前も一緒にこい!」
「え....」
彼女は困惑し思考が停止しているようだ。だが立て続けに吾析は言った。
「お前はまだ若い。お前が自分の人生を決めるのは、俺と旅をしてからでもいんじゃないか?行くぞ。」
吾析は少女を持ち上げた。
「えっちょッ..」
「そういえば、名前がないんだったな。お前はこれから琥珀と名乗れ。俺は武藤吾析だ。」
「私、イギリス人なんですけど...てか、安静にしろと言ってませんでした?」
名前や吾析の行動にこそ文句を言ったが、琥珀と名付けられた少女の顔は何処か嬉しそうだった。