奥森くん②の肆
家から続く坂道を歩く。
坂道にそって家々が建っている。
山を削って建てられた住宅地にある急勾配の坂道は歩けば歩くほど道が細くなってゆく。
細道を歩いてゆくと、道が途切れていた。
(宝の森って言ってたから、森のほうだよね?)
途切れた道の右側に階段があり、その先には雑木林があった。
階段を登り薄暗い雑木林の道を抜けると、そこには、森はなく、辺り一面、雑草の生える広い場所だった。
×××
翌日。
学校の机の上で突っ伏す。
(…何もなかった)
宝の森どころか、森さえなかった。
宝の森は森ことを指しているのかと思ったけど、違うのかな?
道を間違えた?でも、奥森くんは一本道の坂道を歩いて行ってた。
(分かんないよ)
いくら考えても答えは出ない。
やっぱり、奥森くんに聞いたほうがいいよね?
顔を上げ、奥森くんを探す。
奥森くんは友達と机を囲み、お喋りをしていた。
(無理だ…声をかけるなんて絶対に無理)
奥森くんが、また家まで来るのを待ったほうがいい。
-でもそれは、いつまで続く?
奥森くんが毎回来てくれる、なんて保証はない。
特別なことが、ずっと続くわけない。
(よし!)
奥森くんが1人になった時に声をかけよう!
×××
ダメだった。
奥森くんは、いつも誰かと一緒で、声をかける隙が全くなかった…。
その日の夕方。奥森くんは、家には来なかった。
(もう、ここには来ないのかな?)
あきらめたくはないけど、誰かと一緒にいる時に声をかける勇気なんてない。
どうしたら、いいんだろう?
×××
「眼鏡イケメンとお姉ちゃん普通に話せるでしょ。」
「あれは、たまたまで。学校じゃあ無理無理!」
友達のいない私は、妹に相談してみることにした。
「面倒くさいなぁ。あ、私がお姉ちゃんの代わりに眼鏡イケメンに声をかければいいじゃん!学校一緒だし。」
「私の代わりをしてもらうのは、姉として恥ずかしいよ。」
声をかけられないから、妹にお願いするのは、自分のことなのに自分では何もしないみたいで、嫌だ。
「うーん、声をかけられないなら、手紙でも出してみたら?眼鏡イケメンの机に手紙を置いておくとか?」
なるほど!それなら私にも出来る!
「ありがとう。やってみる。」
茶の間から急いで自室へと向かった。
×××
「お姉ちゃん、リンゴ剥いたのに食べないの?」
お母さんがリンゴを盛った皿をちゃぶ台に置いた。
「お姉ちゃんは、ラブレターを出すのに忙しいみたい。」
「ラブレター!?」
皿に盛られたリンゴをひとくち齧る。
「お姉ちゃんが自分から動くなんて初めてだよね。」
いつも誰かに言われてから動く。
命令がないと何も出来ない犬みたいだったのに。
「眼鏡イケメン凄いな。」
×××
「できた。」
色々考えたけど、シンプルに『宝の森ことをもっと詳しく教えてください』と手紙に書いた。
朝一で奥森くんの机に手紙を出しに行こう。
ふと、机にある竜の石を手に取る。
奥森くんから貰った竜の石。
まだまだ私の知らないことがたくさんある。
『知らないことを知りたい』
未知のモノに出会った私は、好奇心でいっぱいだった。