奥森くん②の参
「こんにちは…」
奥森くんと、また会ってしまった。
私の側にいたまるが、てとてと、と。
奥森くんのほうへ歩いていく。
まるは、私と違って人見知りせず、人懐っこい。
奥森くんは、屈んで、まるの頭を優しく撫でた。
まるは、気持ちよさそうに目を細める。
「可愛い。名前は?」
「まるです。丸々してるから。」
「ふっ。まるっていうんだ。まる」
「にゃー」
まるが奥森くんに体を擦り付ける。
(まると奥森くんが、じゃれあってる…。
あ、そうだ。奥森くんに聞きたいことがあったんだ。)
「あの…奥森くんに聞きたいことがあって…。」
「うん。」
奥森くんは、手を止めて私を真っ直ぐ見てくれる。
「…えっと、前に奥森くんが宝の森って言ってたの、気になって。宝の森って何だろうなって。」
奥森くんは黙って数秒間、考えた後。
「宮田さん、こっち来て」
と、手招きする。
誘われるまま奥森くんのほうに行ってみる。
奥森くんがバックから何かを取り出した。
「これが取れるから宝の森って言われているんだ。」
奥森くんの骨ばった大きな手のひらの中に、青く輝く丸い石があった。
まるで夏空の色。
「綺麗…」
なんて魅力的な石だろう。
「持ってみる?」
「うん。」
石に触れると、とても硬い。
空に翳すと濃い青色が薄くなり光をあびてキラキラと輝いた。
「その石は、竜の石って呼ばれる宝石なんだ。」
「竜の石?」
「うん。竜の死体から出てくる竜の心臓なんだよ。それが竜の石。」
ちょっと待ってください。
「竜って存在するの!?」
奥森くんの顔を凝視してしまう。
奥森くんは笑って即答した。
「竜は、いるよ。宝の森に行けば必ず竜に会える。まあ、色々と大変だけど。」
奥森くんの瞳が輝いてみえる。
「大変な思いをしてまで、宝の森へ行くんだね。」
「うん。まだ見つけていない希少な竜の石があるから。必ず見つけたいんだ。」
なんだろう。奥森くんが羨ましい。
…私には何もない。
「宮田さん良かったら、その竜の石をもらってくれる?」
「えっ…いいの?」
「宮田さんに気に入ってもらえたみたいだし。宮田さんなら大切にしてくれると思うから。」
「ありがとう。大事にする。」
奥森くんから貰った竜の石を見つめる。
「そろそろ行くね。宮田さん、まる」
「にゃー」
「奥森くん、宝の森のこと教えてくれて、ありがとう。」
そして、奥森くんは坂道を登って行った。
「イケメンなひとだね?」
「うわっ!?」
後ろから声が聞こえて思わず叫んでしまった。
「お姉ちゃんの知り合い?なわけないか。イケメンの知り合いなんて、人見知りのお姉ちゃんには、あり得なさそう。」
ズバズバと傷つける言葉を放つ妹。
「余計なお世話。…奥森くんはクラスメイトだよ。それだけ。」
「そっか。でも楽しそうに話してたよ。お姉ちゃん。」
「…」
それは、そうかもしれない。
奥森くんと別れる時、もう少し話したいって思ったから。
奥森くんと、宝の森のことをもっと話したい。
「で、何か用があったんでしょう?」
振り向き、話題を変える。
「お母さんが心配してたよ。洗濯物を取り込みに行ってから、なかなか戻ってこないって。」
「ごめん。まるも一緒に行こうか。」
洗濯かごを持って家へと戻る。
…明日、学校から帰ったら行ってみようかな。
宝の森へ。