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死にゆく竜
満月の夜。
月光が、空を游ぐ一匹の竜を照らしている。
竜の肉体は腐り、骨まで顕わにしていた。
誰の目にも、竜の命は長くはないことは、明らかだった。
竜の肉体を腐らせたのは致命傷からではない。
竜は何人たりとも傷つけられない。
竜の肉体を腐らせたのは竜の寿命だった。
竜は、ただ己の死に場所にたどり着く為に懸命に游ぐ。
しばらくして、眼下に月光に照らされ濃い緑色を発光する森が見えてきた。
竜は、游ぐのを止め重力に逆らわず、森へと落ちてゆく。
崩れ落ちてゆく竜の肉体を森は優しく受け止めた。