好きだと伝えたい
俺とそはらの出会いは高校の入学式。そはらは黒髪ロングで、学校の制服がセーラー服なのだが、そのセーラー服がよく似合う清楚な美人という言葉がぴったりな容姿。また口数が少なくミステリアスな雰囲気を纏っていた。その何者も寄せ付けない雰囲気を纏う彼女になぜか心惹かれる俺。
話は飛ぶが、GWが過ぎてクラス内にある程度グループができ始めていた。だが、そはらはまだ一人で過ごしている。最初こそクラス中から引っ張りだこ状態だったのだが、その全てにそっけない態度をとり続けたために、そはらはクラスから浮いた存在となってしまったのだ。また彼女はクラブにも入らず、数少ない帰宅部だというのもクラス内で浮く要因を加速させた。彼女がクラスから浮いた存在になればなるほど、そはらの魅力は増していくと俺は思っていた。そこで俺はそはらへ告白することを決意したのだった。
とある週の金曜日、午後のHRが終わった直後に俺はそはらへ声をかける。
「清瀬、少しいいか……?」
「なに?」
「ちょっと……外に着いてきてくれ」
「……? いいけど」
教室から出て、そのまま校門も通過。そして高校からどんどん遠ざかる俺たち。……いや、どこまで行くんだよ、俺。
「ねえ、どこまで行くつもり? 私、帰り道逆方向なんだけど」
「……」
「はなしがあるんじゃないの?」
「……」
「もう……。私帰るね」
「……」
そはらは踵を返し、立ち去ろうとしている。周囲には数少ない帰宅部のやつらや、おばちゃんたちが歩いている。だが、ここでそはらを帰したらもう2度とチャンスはない、のかもしれない。俺はなんのためにそはらに声をかけたんだ!? どうした俺、何やってるんだ俺! ここまできて、玉なし野郎でいいのか!?
『清瀬!!』
俺の大絶叫にそはらを含め、周囲の人間すべてが俺に注目する。
『お前が好きだ! お前が欲しい! そはらああああああああぁぁぁぁぁ!』
……ヤッベ、すべった。親父が好きだと言っていたアニメを最近見ていて、思わず絶叫しちまった……! ギャラリーのごくごく一部から「おぉ、G○ンのあのシーン再現とは。やるなあ」という声が聞こえるが、他の人間は全員ポカーンという表情。そはらも俺の突然の告白と内容に、驚いた表情で固まっている。
「そは……、いや清瀬。えっと、俺はお前のことが……」
「2回も言わないでいいよ」
ちょっと気恥ずかしそうに、俺の方を向いて返事を返してくるそはら。
「ここまでストレートに好きだって言われるのは初めてだったから驚いちゃったけど……。あのね、私みんなが知らない秘密があるの。それを聞いても好きでいられる自信はある?」
ひ、秘密!? 突然なんだその怪しげなキーワード。俺の厨二心をくすぐるようなことを言われると、ますます好きになってしまうじゃあないか。俺がたじろぐ姿を楽しんでいるかのように、目の前の彼女は蠱惑的に微笑んでいる。なんか雰囲気変わったな……。
「お、おう。俺はたとえお前が男だったとしても、この気持ちが揺らぐことはない!」
俺のセリフにちょっと驚いた表情を見せるそはら。
「驚いた。ボクのこと見抜いてたんだ。ちょっと見直しちゃったゾ」
ぼく……? 俺に僕っ子属性はないが、そはらが僕っ子だとしても別に気にはならない。だが、僕のこと見抜いてたとは、はて?
「あれ? 気づいてなかったの? ボクは男なんだよ」
いやいや、そはらさん。君が男だったら世の女性と名乗っている人間すべて男なんですよ、という言葉が喉元まで迫り上がったわ!?
「ボクが男でも、好きなんだよね?」
クスクスと悪女のように微笑し、艶かしい目線をこちらに投げてくるそはら。いや、正直脳の処理が追いついてないんだわ。他人が見たらものすごく羨ましがられるようなシチュエーションになってきていると思われるのだが、俺の理解が追いついてないので頭に「?」を掲げている状態。するとそはらは少し顔を伏せつつ声のトーンを落としてはなしを続ける。
「やっぱり、ボクが男だったら好きって言えないんだ。君に、ちょっとだけ期待しちゃったんだけどな……。ずっと他の人と距離とってきたから、君の真正面からの告白は嬉しかったんだけどね」
「あ、いや、その……。お、お前が男だから嫌いってはなしじゃなくて……。というか、おとこ、なの?」
「うん」
「えーと、その。あの、付いてる……?」
「うん。確かめる?」
スカートの端を持ち、少したくし上げるそはら。彼女(?)の肉付きがよく、程よく引き締まった脚が露わになる。うおぉぉぉぉぉ、太ももありがとうございまぁぁぁぁぁぁす!! 顔を真っ赤にしてガッツポーズをとる俺を下から見上げつつ……。
「確かめないんだ? そっか、残念」
「え、いや、だってお前、それは……」
言い淀む俺に対して舌をぺろっと出してひとこと。
「うん、触ってたらぶん殴ってた」
と茶目っ気たっぷりに微笑むそはら。からかわれているが、そはらの可愛さを目にしたら大半の男は許してしまうと思う。つか許す。許さない男がいるなら俺がぶん殴るわ。
「でも、君はそんなことしないだろうなって思ってたし。実際、そんなことしなかったから、ちょっと感心しちゃった」
「あー……、ありがとう?」
「うん。でね、もう一つの秘密なんだけど。どうやって説明したらいいかな」
と、思案顔になるそはら。実は男って言われただけでも本気でびっくりしたんだが、もうひとつの秘密ってのはなんだんだろうか。実は某国のスパイだとか、超人計画で改造された超戦士だとか、惑星べ○ータから送り込まれた侵略者とかか? あー、あとは「宇宙人や超能力者や未来人がいたら、私のところにきなさい!」っていうような神様だったとかかな。いやいや、ここが実はゲーム世界で、そはらがPCで俺らがNPCだったりするとかいうのも面白いかもしれないな。全部どこかで聞いたような設定だけど。あとはなんだろうなー……。
『きゃあああああああああああ!』
と、思い耽る俺が思わず我にかえるような、そはらの悲鳴が響きわたる。
「てめえ、調子に乗ってるんじゃねえぞ!? ちょっと可愛いからって下手に出てやりゃあ……」
テンプレのような展開だが、いつの間にかそはらが「俺たち不良です」と看板をかけているような典型的でどこか懐かしい不良連中に絡まれている。そはらは不良のリーゼント野郎に胸ぐらを捕まれ、息苦しそうに逃れようと抵抗している。
「お前は俺たちに付き合って、ちょっと人気のないところまで来ればいいんだよ。そのあとは大人のパーリィタイムで……げひぐひげひゃ」
まじでテンプレ展開だよな、これ。俺、助けに入らないといけない場面だよね。ケンカなんてしたことないんだけどなあ……。そはらを見つめているとこちらをちらっとみるが、たじろいでいる俺を見てすぐにリーゼントに対して「やめてよ!」と言葉とともに睨みつけるそはら。くそ、どうすりゃいいんだよ……。
「オラァ、見せ物じゃねえんだよ! 散れよてめぇら!!」
とイキリ散らすパンチパーマとスキンヘッドたち。そして俺の方を見て、
「てめえも早くどっかいけや」
とパンチパーマ近づいてきて、俺の頭をこずく。ちくしょう……、物語のヒーローならここでこんな奴らの言いなりになんかならないのに。俺は……。
「オラ、聞こえてないんですカァ? それとも言ってることがわからないんでちゅか~?」
と下卑た笑いを浮かべながら、俺のことを小突き続けるパンチ野郎。俺は……、俺は!! ギュッと拳を握り締め、そして……。
『てめえらの汚い手で、その子に触ってるんじゃねえぇぇぇぇっ』
俺は雄叫びをあげ、握り締めた拳を勢いよくパンチ野郎に叩きつけるように振りかぶる!
「あめえ」
ボソッと言われた言葉とともに、俺の顔に叩き込まれるパンチの拳。ほぼカウンターのような形で喰らってしまい、一瞬で頭の中が真っ白になる。そして意識がはっきりしたとき、俺は地面に倒れていた。そして腹部に鈍い痛み。あ、今腹を蹴られてるんだ……、と認識した瞬間に激しい嘔吐感と激痛が走る。
「オラァ! どうした、お姫様を救うナイトじゃないのかぁ!? ただの肉壁にすらなれないのは、情けないでちゅね~」
と怒鳴りつつ、笑いあげるパンチ野郎。そはらは……。まだリーゼントに胸ぐらを掴まれている。そして俺の姿を見てられないとばかりに顔を伏せている。
「……ごめ……。そは……」
声にならない声をあげ、そはらに謝る。なんの役にも立てない己の不甲斐なさを後悔しつつ、俺の意識は再び飛びそうになっていった。
「げひゅ」
突然、俺への攻撃が止み、再び意識が戻ってくる。薄く目を開くと、俺の横にパンチ野郎が白目を剥いて倒れていた。
「な……にが……」
とうめく俺の頭部が、何か柔らかいものの上に乗せられる。そのまま顔が真上に向けられると、そはらの顔が視界に入る。なんか、ちょっと泣いてる……?
「もう。最初っから、かっこいいところ見せてよ」
「え……?」
「ボクのために怒ってくれたこと嬉しかったよ。カッコ悪いけど、カッコよかった」
「ごめん……。何もできなかった」
謝る俺に、そはらの手がそっと触れる。少しひんやりしたそはらの手、気持ちいいな……。
「んーん、そんなことない。だからボク、君にちょっとドキッとしちゃったんだ」
ドキッとしたってことは、俺のことが好きとか……?
「あ、勘違いしないでよネ! 君のことが好きってことじゃないけど、ちょっといいなとは思っただけなんだから!」
は、はは……、それツンデレのテンプレだよ、そはらさん。声に出して言いたかったが、まだ軽口が言える状態ではないので思うだけにする。
「でも……、だからもうひとつの秘密もバレちゃったかな」
もうひとつの秘密……、そうだ秘密があるって言ってたっけ。それって……。
パンチ野郎の側に佇むリーゼントとスキンヘッド。あ、スキンヘッドも居たんだっけ。リーゼントの拳が握られており、パンチ野郎をのしたのはどうやらリーゼントのようだ。そしてふたりの視線は俺に注がれている。なんかちょっと頬を赤らめて、モジモジしてるんですけど。周囲を見ると、ギャラリーと化していたおばちゃんたちや帰宅部連中も俺の方を少し頬を赤らめ、モジモジしながら見ている。なに!? なにこの状況!?!?
「ボクの秘密は、ボクの感情が周囲に伝播しちゃうってことなんだ。だから、ボクが誰かを好きになると周りにいる人たち全員がその誰かを好きになっちゃう。ボクが誰かを殺したいって思ったら、みんながその誰かを殺しちゃう。だからボクは人と関わらないようにしてたんだ」
マジで? パードゥン? で、今周りにいる人間全員が俺のことを頬染めて見てるってことは? え?
「……ちょっとだけなんだからね! でも、だからボク、いや私に関わらない方がいいの。明日からはまたただのクラスメート、だよ」
「清瀬……」
「でも、今日はちょっとだけ恋するってことが理解できたかも。ありがとう、ね」
と俺の頭を地面にそっと置き、立ち去ろうとするそはら。俺、そはらにひざ枕されてたんだ……。
「バイバイ」
その一言とともに、少し駆け足で去っていくそはら。周囲のギャラリーたちは狐に包まれたような表情をしながら、俺に大丈夫かと聞いてくる。
「……なんだよ、バイバイって」
ボソッと呟く俺。そしてギャラリーが呼んだ救急車で病院へと運ばれていったのだった。
週明けの月曜日、俺は朝イチで学校へ向かう。なんで朝イチかって? それは決まってるだろ。
「俺はまた、そはらに告白する」
誰も聞いていないが、俺はひとり決意を口にする。どんなことがあっても、あいつに惚れたことは変わらない。障害があればあるほど、燃えるのが恋ってもんだ! だから俺はまたそはらに告白する。あいつが持ってる壁をぶち破って、幸せにしたいと思ったから。下足箱を見ると、そはらの上履きはもうない。そっか、あいつこんな早くに学校に来てるんだ。
俺はそはらがいる教室へと向かう。そしてこれから開始されるであろう、ドタバタな日々を思い教室のトビラを開く。
『清瀬そはらぁ! お前が好きだぁぁぁぁぁぁ!!』
お試しでいくつか投稿してみたいと思っています。
基本は短編投稿の予定です。
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