VRMMOでただのんびり話して、満喫してるだけ。
「最近いろんなやつがVRMMO始めたよなぁ」
ここはとあるVRMMOゲーム内。そのワールドのとある平原でアイテム集めの小休憩にて、隣に座っている"カザモト"という名前のフレンドが、そう呟いた。
「なんか有名な配信者がこれを配信でやったのがきっかけって聞いたけど」
俺は自らにある知識をカザモトに言ってみる。
カザモトは大いに頷いた。
「オレさ、その"安藤ケイ"の配信観たんだけど、うわやってみてぇ! って思っちまうくらい面白かったからな。あのあとさらに他の配信者とかがやってたし」
観たのかよ。そんなツッコミはさておいて。
今まで過疎でしかなかったこのワールドが、クエストやアイテム収集、レベル上げに歩いていればよくプレイヤーとすれ違うようになった。とてもいいことなのだ。
でも、
「……厄介なやつ増えたよね」
俺はため息と共にそれを発した。
「母数が増えれば当然って感じなんだけどなぁ、厄介が本当に厄介だからな」
カザモトは俺の発言にそう返した。カザモトもいくらか厄介プレイヤーに会ったことがあったようだ。
「こういう、VRMMO系ゲームに慣れてないなら仕方ないけど、やらかしてるのがどう見ても他ゲームも荒らしてきただろう人間ばっかで面倒」
「まぁ、ここの運営行動早いしなんとかしてくれるだろ」
カザモトはそう言うと立ち上がり、自慢の武器を手に取った。
もう休みは要らないようだ。
もともと疲れていない俺も続いた。
「今日の"ルート"宅の夕飯は?」
カザモトは大きいカエルを2つに斬りながら、突っ立っているルート__俺に訊いてきた。
戦闘に集中しろと言いたいが、ここのモンスターが今のレベルに見合わず低いものばかりなので、一撃で倒せる余裕のカザモトに言えるはずもなかった。
「トリカブトの素揚げかなあ」
「死ぬじゃん」
俺は、カザモトが殺り逃しやがったモンスターを焼き殺した。
もちろん、俺の家の夕飯はトリカブトの素揚げではない。
__________...
______...
「あ!」
ここはとあるVRMMOゲーム内。そのワールドのとある街で買い物をしていると、フレンド兼パーティーメンバーのカザモトが声を上げた。
足を止めてまで一点を見つめるカザモトにつられて、俺もその方向を見る。
それほど近くない距離に結構な人の集団があった。
「何あれ」
比較的背が高く、あの集団が見えやすいだろうカザモトに尋ねると、目を輝かせて答えた。
「このゲームが流行ったきっかけを作った"あの"配信者だよ!」
あの配信者……いつだったか話の話題に上がった人か……?
俺は、集団に目線を戻した。
人が蠢いていて、中心が見えることはない。
よく見えたなこいつ。
「すげー……ほんとに同じゲームしてたのか」
嬉しそうにそわそわするカザモトは、正直気持ち悪い。というか、いつの間にこの男はあの配信者サンのファンに成り上がってしまったのか。
「今配信してんの、あの人」
そう訊くと、カザモトは空中に半透明なウィンドウを表示させ、少し操作すると、今はやっていないと答えた。
最近の、というかこのゲームは運営が優秀か何なのかヴァーチャル内でも外部サイトが開けるので結構便利だ。
あ、そういえば魔法書買い忘れてた。
魔法書は、職業魔法使いに必須なアイテムで、消費アイテムでもある。魔法を打つときいちいち1ページ使用されるのだ。
「カザモト、俺ちょっと魔法書買ってくる」
「あ、そうなん? 早く戻ってこいよー」
軽い足取りで、魔法書店に向かった。
俺は究極の局面に立たされている。魔法書をガシャで入手するか、堅実に最低限のものを買っておくか、だ。
ガシャだと、安い金で、低確率ですげえ性能がいい魔法書が手に入るが高確率で最低ランクの魔法書が出てくる。
買えば普通に欲しいものが手に入る。だが、今後の俺の懐は少しばかり寒くなるだろう。
「ボウズ、どっちにするんだ」
魔法書店の店主が、イラついたように再度問う。
「ぼうずじゃないです」
「ンなこと聞いてんじゃねェよ」
俺は震える手で、Cプラン__"十回連続魔法書ガシャポン"を指した。
耳元で金がチャリチャリと失われていく音がする。だがそれは短いものだ。
「まいどォ」
ニヤリと笑って、店主はガシャ台を出現させる。
「やり方は分かるな?」
「っす…」
____···
______···
「憐れだな」
丁度俺がガシャを終えた頃に、書店に来たカザモトが沈む俺を見て言う。
「お前運全然ないよな。前も十連で九個くらい最低ランク引いてたろ?」
「何言ってるんだ、今日は五つしか出てないんだが?」
俺はすぐに立ち直り、書店の魔法書達を漁る。
あともう一つくらいマシなものが欲しい。
こんなに苦労するならクエストの道中で少しずつでも書店で買っておけばよかった。
「そういえば、あの配信者は?」
「……あー、なんかすぐログアウトしてた」
「ほー……」
「興味ないくせに聞くなよお前」
そんな時、カランカランと店の扉が開いた音がした。
「いらっしゃい」
「ガシャをお願いします」
「まいどォ! どのプランだ?」
「__Cで」
現れたプレイヤーはなかなかの良い装備をした魔法使いだった。
「なにアイツ。課金プレイヤー?」
こそこそとカザモトと話す。
あんな良い装備は運が余程良いか、リアルの金を注ぎ込んでいるが、自称トップランカーしか身につけられない。
そもそも、そんな装備でなくても、普通に戦えるからな。
「……! あの女は、"駒割なすな"っていう、配信者だよ。このゲームを有名にしたもう一人の立役者」
「あの人も……」
彼女は、現れたガシャポンに手をかけ、十連ガシャを引く。
キュルルンキュルルンピコンピコン
「こ、こんな音、ガシャから聞いたことないんだが!?」
俺は多大なる衝撃を受けた。
これが、噂の最高ランク排出確定演出か……
「おめでとう、ネェちゃん、良いもん当てたな」
「……あなたの姉になった覚えはありません」
「あ、あぁ、そうだな……」
本棚の陰から見ていた俺たちは、大きく息を吐いた。感嘆だ。
「……これが、"配信者"か……」
俺は本物を見てしまった。
__________...
______...
「おいルート! レアドロップ!!」
だだっ広い草原__始まりの草原でザコモンを倒し悦に浸っていた時、カザモトがデカい声で俺を呼んだ。
駆け足でカザモトの元に向かうと、イノシシ型モンスター__プギィがデータの破片として消えたところだった。
カザモトの手には、"フラフラの宝珠"がある。
○○の宝珠シリーズは、モンスターの0.05%レアドロップでしか手に入らないまじレアアイテムだ。まるでガシャの最高レアだな。
何に使うのかというと、このゲームのワールドの端っこにあるダンジョンに、これをかざすと特別なダンジョンに変わる。
このダンジョンは、とてもレアなアイテムやらモンスターやらが湧く。収集家、生産職、戦闘狂には人気のダンジョンくんである。
○○に入る言葉によって、ダンジョンの雰囲気が変わるという仕様だ。
"フラフラ"という言葉がどんな作用をするのか、俺はさっぱり分からない。
何分、このレアアイテムを見るのも初めてなもので。
「うわ、すげぇモノホンだ。ダンジョン行くか?」
「……俺ら二人で行けんの、これ?」
俺たちのプレイヤーレベルはだいたい50。ダンジョンの適正レベルは20以上だ。
行けないこともない。
そう答えると、カザモトはうーん、と唸る。
どうした。
先程の喜びようからてっきり『よし行くか!』となると思っていたんだが。
「実は知り合いでこれ欲しがってるやつが居てさ……」
申し訳なさそうに、そしてどこからか照れ臭さのある表情を浮かべたカザモトは、そう言った。
「彼女?」
「!? な、なんで分かったお、おおおおおお前!!!」
適当に茶化すつもりで言ったことがマジだったとき、人間はとうするのだろうか。
俺はまず、
「は? ……リア充●ねぇぇぇぇえ"!!!!!!!!!!」
最高ランクの魔法書を惜しげもなく使い、豪炎魔法をカザモトに向けて打った。
____···
______···
一度結んでしまったフレンドの絆は簡単には切れない。
翌日にはケロッとした顔で俺は、カザモトとこのゲームをだらだらと続けた。
おわり
2022.2.9 数字やらいろいろ変更しました。ほとんど内容は変わってません