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生徒会には滝沢がいる  作者: 二等兵
滝沢、それとeスポーツ部
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第八話

「こんにちはー、日比谷さんいる?」


扉を開けて顔を見せたのは会長……ではなく、水沢だった。副会長に用があるらしい彼女は副会長の姿を見つけたあと、視線を移動させて俺を見る。



「あ、滝沢くん。生徒会の人だったんだ」


「ほんの数日前から生徒会になりました」


「そっかそっか」


「滝沢くん、知り合い?」


「クラスメイトです」


「そう」



 水沢に軽く会釈をされたので俺も会釈をし返した。彼女はどうやら副会長に用事があるようなので、俺はこの場を立ち去った方がいいのだろうか。



「副会長。席を外しておきましょうか?」


「いえ、あなたも同席しなさい。水沢さん、彼はつい先日生徒会のメンバーになったから仕事の流れを見せたいのだけどいいかしら?」


「あ、うん。大丈夫だよ」


「ご迷惑おかけします」



 俺は2人に軽く頭を下げて同席することになった。それから俺たちは応接用のソファーにテーブルを挟んだ状態で座った。テーブルを挟んだ片側に水沢、もう片方に俺と副会長が並んで座る。



「水沢さん、早速だけど今日の用件はなに?」


「前から話していたeスポーツ部の立ち上げのお願いに来たよ」



 そう言って、水沢は持っていたファイルに挟んであった資料を取り出した。資料の内容は立ち上げに必要となる……お、去年同じクラスだったやつの名前がある。じゃなくて、水沢を入れて5人の部員の名前と顧問となってくれる先生の氏名。そして、eスポーツ部の立ち上げの目的が書いてあった。


 曰く、Eスポーツを通してチームの重要性の学習やコミュニケーション能力の向上、設定した目標をクリアする方法を学ぶのが目的だそうだ。堅い書き方だが、ゲームを通して色んなことを学ぶということらしい。


 どうやら彼女が会長が言っていたPCゲームeスポーツ部を立ち上げようとしている猛者のようだ。水沢という名前を聞いた時点でなんとなく予感はあったが、まさか本当に彼女が水沢だとは思わなかった。


 もっともっさりとした男が来ると思っていたのだが……見る限りゲームと無縁そうな普通な女子だ。



「部活の立ち上げに必要な部員数と顧問の先生が確保してあることは前にも確認してる。だけど、前に却下したときの理由は覚えているわよね? 部活に使う高性能PCを人数分用意するのが難しい、という話は解決できたのかしら?」


「うん、PCを用意することはまだ出来そうにないの。だけど……」



 そう言って、水沢はポケットからスマホを取り出した。いくつかの操作をしてロックを外して、何かのアプリを起動する。


 ゲーム特有の起動音が聞こえたのち、水沢は俺たちに武装した男が映る画面を見せて来た。



「代わりにスマホゲームをするeスポーツ部を立ち上げようと思ってます!」



 学校でeスポーツ部を立ち上げようと考えた時、スマホゲームをやるのが一番現実的だ。ゲーム好きならそんなことすぐに分かるのにわざわざPCゲームを選んでいたから、よっぽどやりたいゲームがあるのだと思っていたのだがそうではないらしい。


 ともかく、これで会長から聞いていたeスポーツ部の立ち上げの障壁はなくなった。あとは、副会長がこれを了承するかどうかだが……



「そういうことならこの書類は受け取っておく。部の立ち上げに必要な部員数も顧問も確保できてるから間違いなく部は立ち上げができると思うわ」


「日比谷さん、ありがとう!!!」



 水沢は立ち上がって副会長の手を取ってぶんぶんと縦に振った。



「ただ決まった通りに仕事を処理しただけだから、感謝されるようなことわないわ」


「ううん、私がお礼を言いたいの! 本当にありがとう!!! 滝沢くんも!」



 そう言って、水沢は今度は俺の手を取ってぶんぶんと振り始める。



「俺こそ何もしていませんので感謝される謂れはありませんよ……それよりも。水沢さん、いくつか質問をしてもいいでしょうか?」


「うん、いいよいいよ。なんでもきいて!」



 なんでも……? いや、一瞬よこしまな考えが浮かんだが俺がしたいのは真面目な質問なので心のうちの邪念を振り払う。



「まず、部活でやるゲームのタイトルを教えてもらえますか?」



 水沢たちは競技性があるゲームを行うことで目的を達成するやり方やチームプレイを通じて協調性を培うという名目で部活を作っている。部費という形でお金が出るので、そういう建前が必要らしい。


 なので、ゲームのタイトルを確認するのは必須事項だ。頼むから「動物を育てたりしてゆるふわライフを送るゲームをやります」なんて答えは止めてくれよ。家でやれ、と言わなければならなくなってしまう。



「ゴッド・オブ・ギルティ―っていう銃を撃ち合うゲームをやろうと思ってるよ」


「へぇ……Gogですか」


「……あ、君も知ってるの!?」


「……? スマホ版はやったことはありませんけど」


「そうなんだ! よかったら滝沢くんも入ってみない!?」


「……俺は生徒会に既に入っているので遠慮しておきます」



 Godは世界中で人気なFPS系ゲームである。相手を倒した数で競うチームデスマッチ、特定エリアに侵入してポイントを稼ぐハードポイントなど様々なモードのあるとても競技性の高いゲームだ。もともとはPCのみでできるゲームだったが、いまでは家庭用ゲーム機でもプレイが出来るようになっており、スマホ版のリリースもされていて、大小さまざまな大会が開かれているらしい。


 海外では億を超える賞金が用意されている大会もあるぐらい有名なゲームだ。



「では最後に回線はどうするのですか?」



 当たり前だがオンラインゲームをするにはネットにつなぐ回線を用意する必要がある。できるなら速度の速いものが好ましい。ひどい回線でやると手元の操作がゲームに反映されるまでの時間、いわゆるラグがひどくなりゲームがまともに動かなくなってしまうことだってあるからだ。


 そういうわけで、競技としてゲームをやるならいい回線を用意しなければならないのだが、学校でいい回線そのものを用意するのは場合によってはゲーム機を揃える以上に難しいかもしれない。


 そもそも学校に「ゲームをやりたいので回線を使わせてください!!!」と土下座して使わせてもらえるものなのか俺には分からない。その上学校の回線が要求スペックに足りないときは「新しく回線を契約してください!!!」とお願いすることになるだろう。



「それはね、もう解決してるの! 先生に頼んで学校の回線を使わせてもらえるようになってるんだ!」



 そう言って、水沢はファイルからまた違う資料を取り出した。それを副会長が確認したあと、俺に渡してくる。学校側からの回線使用許可と回線のスペックが書かれている……え?



「この学校、なんでこんないい回線を使ってるんだ……?」


「滝沢くん、そんなにいいものなの?」


「はい、プロ―ゲーマーも使ってるようなやつですよ……Eスポーツ部入ってみようかなぁ」


「え、ほんとう!? 私は歓迎するよ!」


「生徒会の仕事をこなしつつ部活ができるなら文句はないけど……滝沢くん?」


「やっぱり遠慮しておきます」



 隣にいた副会長からギロッと恐ろしい目で睨まれたので、俺は前言撤回をした。ともかく、この学校の回線をゲームに使う許可は降りているしスペックも問題ない。


 これ以上俺が言うことはないだろう。



「俺が聞きたいことはこれぐらいです。答えてくださりありがとうございます」


「いえいえ! これぐらいお安い御用だよ!」


「じゃあ部活設立の受理はこれにて完了ね」



 そう言って、副会長は俺から資料を全て受け取りトントンと机で角を揃えた。



「日比谷さん、ありがとう!」


「さっきも言ったけどただ仕事をしただけだからお礼を言われることではないわ。それよりも、水沢さん。もう用が無いのなら教室へ戻って昼食を食べたら? 午後の授業に集中できなくなっても知らないわよ」


「うん、分かった。水沢さん、滝沢くん。今日は本当にありがとうございました!」



 水沢は頭を下げて教室から足早に出て行った。その後ろ姿を見送ったあと、副会長がソファーから立ち上がる。水沢から受け取った書類を棚の中へ補完している姿を見ながら、俺は話しかけた。



「なんというか、嵐みたいな人でしたね。情熱とパッションに溢れているというか」


「それ同じ意味じゃない。でも、あなたの言う通りね。水沢さんは昔からあんな人よ」


「へぇ、そうなんですか。副会長はあの水沢さんと付き合いは長いんですか?」


「前に同じクラスだったことがあるだけ」



 友達じゃないのか、と俺が考えていると副会長は「それで」と言って俺を見る。



「滝沢くん、いまみたいにこの学校では部活設立の申請がよくあるわ。過去には特撮アクション部とかコスプレ部とか変わった部活ができたこともある。部活動が盛んなのは結構なことだけど、水沢さんのようにしっかりとした目的と準備をしてくる人もいれば、よくわからない部活を作ろうとする人もいる。本当によく分からないものを、ね」



 副会長の目が鋭くなった。相当苦労しているようだ。目に怒りが満ちている。



「そういう人に限ってよくここに来るから、私と会長がいない時の対応をよろしくね」


「あ、だからいま俺に仕事を見せたんですか?」


「せっかく人が増えたのだからしっかりと働いてもらいたいだけよ」


「面倒ごと押し付けようとしてません?」


「まさか、そんなわけないでしょう?」



 めちゃくちゃわざとらしい言い方だった。明らかに面倒ごとを押し付けようとしているが分かったが、俺としてはどんなやつが来るのか楽しみだ。



「そう言えば、まだ会長が来ませんね」


「きっと忙しいのよ。あの人はもう3年生だし」



 あの小さなフォルムと天真爛漫な様子から忘れがちになるが、会長は進路について考えなければならない3年生なのだ。いまは好き勝手にやっている俺だが、3年生になれば進路について真剣に考えなければならなくなるのだろうか。


 そんなことを考えていると、廊下の方からトタトタと小動物が走るような音が聞こえてくる。なんとなく会長がやって来たのかと思ってしまった俺はけっこう失礼な人間なのかもしれない。



「待たせちゃってごめん!!!」



 ガラッと生徒会室の扉を開けて入って来たのはやはり会長だった。走ってきたようで肩で息をしている。



「ついさっきまで水沢さんが来ていたので、私も滝沢くんもまだ昼食を取っていません。なので、気にしないでください」


「そうなの? よかったぁ」


「まだ時間はありますし、会長も席に座って一緒に食べましょう」


「うん! せっかくだからみんな同じ机で食べようよ!!!」


「俺は構わないです」


「私も」


「じゃあ決まり!!!」



 この部屋の中で3人で使える机と言ったら先ほど水沢の話を聞くときに使った長机だ。そこに会長・副会長が2人で座り机を挟んだ向かい側に俺が座る。



「そう言えば、水沢さんが来てたって言ってたけど用件はやっぱりeスポーツ部のこと?」



 椅子に座るなり、会長がそんなことを聞いてきた。その質問に答えたのは副会長だった。



「はい、要項をしっかりと満たされていたので部活の立ち上げを認めることになりました。あとで、会長にも彼女が用意した書類を見ていただけますか?」


「もちろんだよ! それにしても、水沢さんはようやく部活ができるようになるんだね。よかったなぁ」



 弁当を開けて玉子焼きを口に入れた俺は、会長と副会長の会話を聞いてあることを疑問に思った。



「水沢さんっていつから部活を作ろうとしていたんですか?」


「うん? たしか1月くらいからだったはずだよ」


「1月って去年の1月からですか?」


「そうだよ。それがどうかしたの?」


「ちょっと気になっただけです」



 俺は副会長の視線を気にしながら後ろの棚をちらりと見る。先ほど副会長が書類を入れたのはあそこだったなと思っていると机からドンッと重いものが乗ったような音がした。


 何事か、と顔を前に戻すと長机の上にめちゃくちゃ大きな3段の重箱が乗せられており、その漆塗りの高級そうな重箱の前で会長が目を輝かせていた。



「会長、それはなんですか?」


「私のお弁当だよ」


「……1日分の弁当ですか?」


「いや、1食分だけど」



 男の俺でも胸焼けしそうな風景だった。というか、こんなに食べているのにどうしてこの人はこうも小さいのだろうか。


 そんなことを思いながら、俺は会長たちとの昼食を楽しんだ。

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