第五話 お仕事
「ここと、ここ。フォントを別にして見やすくして」
「一目見て、意味が分かる文章を心掛けなさい。複数の解釈ができるものはダメよ」
「企画書なのよ? もう少し色を使いなさい」
「……あなた極端ね、それは使いすぎ。あと眩しいわ、暗い色を使って」
「滝沢くん、この画像どこから取ってきたの?」
「……イラスト屋って、こんなものまであるのね」
ダメだしを何度もくらい、その度に修正する。慣れない仕事に苦労しつつも、下校時間ギリギリまでやって、まともな形になったのは2つだけだった。副会長のパソコンに出来上がった資料を送り、現在チェックしてもらっている。
「まあ、及第点ね」
それを聞いて、俺は安堵した。まあ、あれだけやって2つしか終わらなかったという事実は悲しくなるが、進捗がないよりは遥かにましだ。
「滝沢くん、お疲れ様」
俺が別の案件を見ていると後ろから話しかけられた。振り向くと、会長がニコニコと笑っていた。俺は椅子に座っているので、会長の頭が俺よりも高い位置にある。
「ありがとうございます。会長もお疲れ様です」
俺と副会長が色々とやっている間、会長も仕事をしていた。横目で見たタイピングスピードから察するに、俺よりもずっと早く、そして多くの仕事を片付けたみたいだ……俺も頑張ろう。
「滝沢くんが作った資料見てもいい?」
「いいですよ。これです」
俺が作った資料を表示すると、会長が横から入ってきた。
「あっ、すごく見やすい。初めてやったとは思えないよ」
「本当ですか? そう言ってもらえてよかったです」
まあ、実際は副会長に何度も直しを入れられているので、この資料は副会長が作ったようなものだ。一発オーケーになる日はいつになるのだろうか。
明日は副会長に何回ダメ出しされるかな、と考えていると会長が何か聞きたそうな様子であることに気付いた。
「ところで。滝沢くんお昼ごはんってどうしてるの?」
「うん? ああ、弁当ですよ」
その回答を聞いた会長は嬉しそうに手を合わせ、期待をこめた視線を俺に向けてくる。
「じゃあ、一緒に食べる人っている?」
「……いませんけど」
「ほんと!? よかったぁ」
今の回答のどこに喜ばれる要素があるのだろうか。ただのボッチ宣言に他ならないと思うのだが。
「あのね、もしよかったら明日、一緒にお昼ご飯食べない?」
「会長とですか?」
会長は頷いた。
「会長は一緒に食べる人とかいないんですか?」
「いるけど、滝沢くんともっと話してみたいんだ。ダメ?」
会長は首をかしげ上目遣いでこちらを見つめてくる。発言内容も相まって男殺しというかなんというか。グッとくる。
「全然。嬉しい提案です。ぜひお願いします」
「じゃあ決まりだね。それで、場所は……生徒会室でどう?」
「生徒会室って昼に使ってもいいんですか?」
「うん、レンちゃんなんか毎日ここでお昼ごはん食べてるよ」
先生が副会長のことを不愛想だと言っていたのを思い出した。もしかして、副会長は友達がいないのだろうか。そんなことを考えながら副会長を見ていると鋭い視線を向けられた。
「別に一緒に食べるような人がいないわけじゃないわ。食事の合間に仕事をしているだけよ」
「……俺は何も言っていませんが」
「あなたの顔に書いてあるもの」
「本当ですか?一人で食べるのが好きなんだろう、と書いてあるはずです」
「あら、それはごめんなさい。でも、私にはあなたが嘘をつく人の顔をしているようにしか見えないわ」
「……はい、すみません」
副会長の謎の詰め寄りに対し、俺は謝った。どうやら友達の話を好まないらしい。いないことを気にしているのかな?
「その顔は何を考えているのかしら」
「晩御飯なんにしようかな、と考えてます」
「……あなたが夕食をつくるの?」
「親が共働きなので。いつも作ってるわけじゃないですが」
「そう……人は見かけによらないのね」
「ええ、こんなんでも料理します。お二人は料理したり……会長?」
話を振ろうと思い、会長を見ると。会長は満面の笑みを浮かべていた。
「どうされました?」
「これから生徒会が楽しくなりそうだなって」
「そうですか。よかったですね」
俺がそう答えると会長は不満げな顔をした。
「なんで他人事みたいに言うの? 滝沢くんも生徒会が楽しい方がいいでしょ?」
「それはもちろん」
「だよね? というわけで、レンちゃんも明日一緒に食べよう?」
俺を見上げていた会長はクルッと回って副会長を昼食に誘う。その誘いに対して、副会長は首をかしげた。
「何が、というわけ、なんですか?」
「もっと生徒会役員同士で仲良くなれるように、みんなでお昼ご飯を食べようってことだよ」
「はぁ、私は大抵ここにいるので明日の昼食は一緒に食べることになると思いますよ」
「じゃあ決まり!滝沢くんもそれでいい?」
「全然オッケーです」
明日の昼食の予定が決まったところで、俺はふと時間を確認した。すると、時刻は下校時間に迫っていた。会長と副会長もそのことに気付いたらしい。
「あ、もうこんな時間。滝沢くん、晩ご飯作らなきゃダメなんだっけ?時間、だいじょうぶ?」
「気にしないでください。どうとでもなります」
「ほんとに?あれだったら早めに帰ってもいいんだよ?」
「大丈夫です。俺が作らなかったとしても、代わりに弟がやってくれるので」
俺がそう言うと、会長は驚いた表情を見せた。
「もしかして、滝沢くんの弟くんって。中等部で生徒会長をやってる滝沢徹くん?」
「そうですよ。ご存じなんですか?」
「やっぱり!!!」
会長は副会長の方を向いた。
「レンちゃんレンちゃん、滝沢くんの弟くんって徹くんだって。知ってた?」
「知っていたわけではないですけど。もしかしたら、とは思ってました」
「私、全然気がづかなかった」
「あいつは母親似で俺は父親似ですからね。似てないとは昔から言われます」
俺がそう言うと会長はまじまじと俺の顔を見た。
「滝沢くんのお父さんとお母さん、どっちも美形なんだね」
「どうなんですかね」
それを言ってしまえば、二人の両親もきっとすごい美形である。
「会長、そろそろ下校時刻です。生徒会室を出ないと」
「そうだね。じゃあ、みんなで忘れ物ないか確認しよう」
室内を一通りチェックしたあと、俺たちは生徒会室を出た。会長は鍵を閉めると俺と副会長を見上げる。
「よし、今日の生徒会活動はこれにて終了。二人とも、特に滝沢くん。今日はお疲れさま。また明日からよろしくね」
「はい、明日からもお願いします」
会長からねぎらいの言葉をもらい、感謝しつつ返事をする。すると、副会長が感心した様子で俺を見ていた。
「あなた、初日から夜更かしするし、変な画像ばかり使って資料を作るから不真面目なのかと思ったけど。意外と律儀よね」
「本当ですか? それはよかったです。部活とか入ったことないので、ちゃんとできているのか不安でした」
「初日の時点では、あなたの行動に問題はないわ。だから、明日もしっかりやりなさい」
「了解です」
なんとも上から目線の誉め言葉だが、不思議と嫌いではない。
俺と副会長のやり取りを見ていた会長が嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ私が鍵を職員室に返してくるから二人は帰っていいよ」
「あ、俺も職員室に用事があります」
「なら、一緒にいこう!」
会長の提案に俺は頷く。
「では私はここでお別れですね。また明日」
「レンちゃん、また明日ね」
「明日もよろしくお願いします」
俺と会長は副会長に別れを告げて、職員室に向かった。