第四話 初日
ぜんぜん投稿していないのに、新しく見てくれる人がいらっしゃるので再び投稿です。
深夜12時を過ぎたあたり、俺はディスプレイの前でマウスを握りキーボードに指を置いて心躍る銃撃戦の世界へ旅立っていた……のは少し前の話。
ゲーム中盤でやられてしまった俺は、強い味方が俺を勝利に導いてくれることを願いながら、味方のプレイを観戦していた。
3人でパーティーを組んでプレイするゲームなのだが、既に俺を含む2人がやられてしまっている。さて、ここから勝つことができるのだろうか。
────YOU ARE THE CHAMPION────
俺はディスプレイの前で唖然としていた。なんと、生き残っていた俺の味方は最後に3vs3vs1を制して勝ってしまったのだ。
「いまのクリップにデキたね!!!」
「トッププロのスーパープレイ集みてる気分だったぞ」
興奮冷めやらぬテオに対して、俺は嘘偽りない言葉を返す。
前から思っていたのだが、やはりテオの腕前はトッププロと遜色ないように思う。実際、ネット上ではテオは有名人である。
プロからの勧誘もあるはずだが、どういうわけだがゲームを趣味におしとどめている。
「それで、セイトカイってどうなっタノ?」
俺がテオのプレイを見直していると、落ち着いたテオがそんなことを聞いてきた。
「何とか入れたよ。色々と問題はありそうだけど」
「それはヨカッタ」
「明日から生徒会に来て仕事をしてくれ、だって。今までみたいに長時間ゲーム出来ないかも」
具体的な仕事内容は聞いていないが、簡単なものだと考えない方がいい。思っていたより大変だった場合落差でモチベーションが無くなってしまう。
「それは残念ダネ」
俺のゲーム友達であり、学校では先生であるテオは本当に残念そうな声でつぶやいた。
まあ、今までみたいに毎日深夜までゲームができないというだけで、これからも遊べるとは思うが。
「セイトカイってどんな感じ?」
「どんな雰囲気かってこと?」
「そうそう」
「うーん、結構いい感じ」
会長はホンワカとしていて優しそうだし、副会長は厳しそうな人だが話を聞いてくれる。ついでに言えば2人とも美人であるので、男ならば誰もが羨む職場ではないだろうか。
「フランスって生徒会みたいな組織あるの?」
「あるよ。ボクはやったことナイけど」
「へーーー、もう一戦やる?」
「やろう」
★★★
「……はぁわ」
「滝沢くん、寝不足なの?」
「はい、ちょっと夜中までゲームを」
テオに「もう一戦ダケ」と何度も言われた結果、深夜3時ぐらいまでゲームをしてしまった。おかげで授業中眠ってしまい、青山先生にたたき起こされる羽目になった。
放課後になっても眠いままで、生徒会室に来てあくびをしてしまう。テオも今日学校に来ているはずだが大丈夫だろうか。
「初日からそんな調子で大丈夫かしら」
大丈夫?と気遣った様子で聞いてくる会長に対して、副会長は冷ややかな視線と言葉を向けてくる。
「今はまだ忙しくないからいいけど、体育祭や文化祭が近い時期に仕事の効率が落ちるようなことをされると困るわ」
「おっしゃる通りで。今日から気を付けます」
「当たり前よ」
そう言いながら副会長は書類を見ていた。1枚づつ確認していき、最後の1枚を見終わると紙の束を机に置いて立ち上がる。生徒会室の奥にある棚に近づき何かを探し始めた。何をしているんだろう。
「ねえねえ、滝沢くんってゲームに詳しい?」
俺が副会長を見ていると会長に話しかけられた。
「詳しいかと言われると答えにくいですが、ゲームは好きですよ」
俺がそう答えると会長は嬉しそうにパンッと手を叩く。
「ほんと?」
「本当ですよ。それがどうかしましたか?」
「うん、実はね……」
会長が話そうとしたとき、俺の前にパソコンが置かれた。
「えっと、これは……」
「アナタのパソコンよ。仕事をする時はこれを使いなさい。そして……」
続いて副会長は俺の前に書類をドドンと置いた。これさっき副会長が見てたやつじゃないか?
「これがアナタの仕事よ」
「……多いですね」
中身を確認する、どれどれ?
在校生に向けた広報誌の作成……なるほど。
自動販売機に搬入される商品の変更願い……これはなんだ?
「副会長、この自動販売機の商品変更願いとは何ですか?」
「あぁ、それね。生徒会の仕事の1つよ。職員室前に置かれた意見箱を見たことないかしら。あそこに投函された生徒からの要望をすい上げて、企画書にまとめて学校に提出するの。他にもネット経由で生徒からの要望が来るからそのチェックも必要よ」
「なるほど」
そう言えば、そんなものがあったな。青山先生に呼び出される度に見たのでよく覚えている。もう一度書類を確認したら、意見箱に投函された要望書なるものがいくつも出てきた。
どうやら商品の変更を希望した生徒が複数いるらしく、それが今回学校に伝えることになった理由のようだ。
ペラペラと書類を流し読みしていく。読み進めていくうちに「あれは生徒会がやっていたのか」と感心させられた。生徒会ってすごい組織だな、と感じると同時にこれらを俺がやらなければならないと思うと少し億劫だ。
「アナタはこういう仕事が初めてみたいだから、私がやり方を教えるわ。出来上がったものもしばらくは私がチェックする、いいわね?」
「問題ないです」
俺が答えると副会長はズイッと顔を近づけてきた。眼鏡の奥で鋭く光る眼が俺を射抜く。ほんと美人だな、この人。
「昨日アナタが言ったこと忘れないから。厳しくいくけど、なんとかしなさい」
「アハハ、頑張ります」
俺は笑ってごまかした。おそらく副会長は「これからの行動を見てください」という俺の発言のことを言っているのだろう。アレは勢い余って言ってしまったのだが、本当に頑張らなければならないらしい。
「滝沢くん、何のこと?」
「昨日会長が来る前に、俺の意気込みを副会長に伝えたんです。多分、そのことかと」
「そうなの?レンちゃん」
「はい。でも、本心で言ったかは怪しいところです」
副会長の視線は冷たかった。だが、期待してくれているだけ昨日よりは温かみがあると言えなくはない。
「もう深夜までゲームはしません」
「次、そんな理由で眠そうにしていたら、つねるわ。それが嫌だったら努力することね」
「滝沢くん、がんばって。困ったら手伝うから」
俺は2人から、それぞれの性格が表れた激励をもらい仕事に取り掛かった。