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ヒロインは電波

誤字がありましたら言ってください。

 

「僕の楽しい暇つぶしの為、先生の平穏の為にも協力しようじゃないか」


 目の前の男子生徒はそう言って楽しそうに目を細め、私に手を差し出した。


「そうだね、平穏は大切だ」


  私はそう言って彼の手を取った。


 内心は、もうこれ以上この乙女ゲームの世界に関わりたくなかったが仕方がない。


 平穏を脅かす人間関係の渦から抜け出し、安心した老後を送るため。


 彼から手を離し、机に置いてあるコーヒーに手をかける。


 ……あぁ、なんでこんなことになったんだろう。


 私、「石田 凛」はコーヒーを飲み、息を吐いた。



 ◆




 私は前世で死んだ。目を覚ましたら赤ちゃんだった。そこからまぁー、第2の人生を歩み始め、前世でなれなかった保健室の先生という役職に着きました。


 生きててちょいちょい違和感は感じてたけど、その違和感が確信に変わったのは入学式での生徒会会長の挨拶。

 最初は「あれ?これ前世で好きだった声優の声に似てるな」程度だったが、新入生挨拶の生徒の声もどこか聞いたことがある声。


 そして新しく来た先生の団体の前を通り過ぎた生徒会長を見て思い出した。あ、これ妹が好きだったゲームのキャラだよね。と。




 ここは『天野原学園』

 全国各地から社長の子供や、金持ちたちがこぞって来る名門校である。



 ここで重要なのが、この学園が乙女ゲームの舞台ということである。


 前世の妹の勧めで…いや、妹のやってるゲームにいちいち嫌味なコメントしてたら途中からやらされた。それで、攻略対象がヒロインに愛を囁くシーンで電源を切ったためあまり詳しくない…。ちなみにセーブしてなかったから妹にめっちゃ怒られた。ゲームの内容は覚えてないが只、あの時の気持ち悪さと吐き気は覚えている。


 あの時の自分を振り返ってら無理にでもやっとけば…とは絶対思わない。好きだの愛だの恋だの推しだの、そういうの気持ちが今世も前世も分からないからだ。


 ただ、乙女ゲームという世界観は小説で悪役がヒロインにざまぁしてる系とか乙女ゲームに転生しちゃった的なのを読んだことがあるので知りはしている。




 そんなわけで、ここは乙女ゲームの世界らしい。


 正直、異様に周りに美形が多かったりするのもゲームの世界だからと言われれば納得してしまう。



 ちなみに私も前世より美人だが、多分この世界では普通に属する。長い黒髪を後ろにまとめ、マスクをし、白衣を着る姿が異様に似合う。見た目に反して中身はめんどくさいことから逃げたがりな性格なので、自己評価は残念美人だ。




 そうなのだ、私は面倒いことは嫌なのだ。

 だからここがゲームの世界でもそうじゃなくても私はただの保健室の先生をしていればいいだけだ。

 周りでゲームと同じような出来事が起きてるだけで、私には何にも関係ない。

 よく転生したから、攻略対象に好きになってもらおうとか思って行動する小説とか見ることがあるけど、私は老後は動物と一緒に生涯を終えたいと思ってる人だし、前世から人間関係でめっちゃ悩まされたから、正直厄介事は御免こうむるって訳だ。人に恋したこともないからね。



 あれだ、よく小説であるヒロインちゃんとか悪役ちゃんとかに転生したから頑張ります的な子がいたとしたら暖かい目で見といてあげよう。




 ◇




 そんなこと考えてた時ありましたね。はい。


 ここは保健室。現在ゲームで見たヒロインちゃんと青目でイケメンの攻略対象らしき人が来ています。


 どうやらヒロインちゃんは足を怪我しているようだ。あれかな?よく友達が言ってた出会い系イベント。ヒロインちゃんがイケメンくんにぶつかってしまったか、ヒロインちゃんがイケメンくんの目の前で転けちゃった的な感じかな?


 いやーでもどっちにしてもイケメンくんに保健室まで送って貰うって度胸あるな。私は関心する。イケメンくんはどう見てもどっかのお偉いさんの息子さんだと思う。私なら怖くて逃げ出すな。


 それにしても青眼とは珍しい。確か紫外線から守るためのメラニン色素の量が関係しているとか…ヨーロッパ系が多いと聞くから、このイケメンくんは父が母がヨーロッパ系の人なのかな。


「投稿初日からすいません。この子がぶつかってコケてしまって」


 おぉー!前者だったか。ヒロインちゃんはなかなかのアタッカーだな。


「そうだったんですね。今消毒しますから。その前にここにクラスと番号、名前の記入をお願いします。」


「はぁーい」


 うわーめっちゃアニメ声だな!あぁ、ヒロインちゃんの名前『清原 桃』って言うだ。漢字からして”可愛い“をイメージさせてくるなー


「出来ました」


「はい、こちらも消毒できたから。そろそろ時間だよ、教室にもどったほうがいいね。気をつけるんだよ」


「「失礼しました」」



 ……………焦った


 まず、ほっと一息、コーヒーを飲もう。


 彼女たちが来たことで思い出したことを考えよう。


 では、この保健室がゲームで何度も出てくるという事実について考えよう。


 ゲームでは保健室という場所をタッチすればセーブか攻略対象についての良い情報が貰える仕組みになっている。


 現実ではタッチしても情報なんて貰えやしない。保健室にいる私に話しかけて情報を貰っていたことになる。私はいわゆるサポートキャラというわけだ。



 つまり、現実では情報のためにヒロインちゃんが何度もここに足を運ぶということだ。



「そういえば、友達が悪女に怪我させられたと言ってたな。」


  虐められて怪我をすればまたここに来る回数が増えるということだ。


「面倒いなぁ」


 面倒事は嫌いだ。あくまで生徒とは保健室にいる名前も知らない先生という位置にいたかった。


 私は残り僅かになったコーヒーを飲み干す。


「いいことを思いついた」


 サポートをしなければいいんだ。

 ヒロインは攻略対象を攻略出来ない。


 もうひとつ懸念がある。正直この世界の住人から言わせてみれば、ヒロインの行動は、攻略対象にかなり不敬な態度である。友達が「BADENDだー!断罪されたー!」と言っていた記憶もある。私が少しプレイしたところだけでもいくつか不敬に値する行動があるくらいだ。


 もしヒロインが不敬な行動のため罰せられた時、ヒロインが私に全て相談していたなどと言われたらどうしよう。


 ゲーム道理ならそんなことにはならないが、私にとってみればここは現実で生きていて、皆に意志がある。ゲームみたいなご都合主義な世界じゃない。


 不穏の目は摘んでおきたい。証拠があれば私は罪には問われない。……そうだ、相談されている声を録音すればいい。証拠としてはあまり役に立たないかもしれないが、気休め程度にはなるだろう。別にあのアニメ声を録音したいとかそんな犯罪じみた理由では断じてない。


「あぁ、もうこんな時間か」


 私は新教員挨拶の為、体育館に向かった。


 ◇


 予定というのは狂うものである。


「それでね!先生!私に青山晴也くんの情報教えて欲しいなぁー♡」


 現在、目の前にはピンク色のリボンでツインテールにした上目遣いのヒロ…清原さんがいる。ちなみにボイレコは起動中。


 しかしなんだろう、この違和感。もしかしてこの子も転生とか前世思い出したから推しとか逆ハー狙う感じの子か?


「何故青山という生徒のことを教えないといけないだ?」


 多分青山晴也というのは昨日見た生徒だろうか。あの坊っちゃんを“くん“呼びとはすごいな。


 名前に色が入って、それと同じ目の色か…


 妹曰く、乙女ゲームだと攻略キャラには必ず一人一人に色があるらしい。これはアイドルと一緒だ。「典型的な商売戦略だな」と妹に言ったらキレのいいチョップを食らった。


「えぇー聞いてなかったんですかぁー?私ぃ〜青山くんに恋しちゃったんですぅー」


「そうか、だが生徒の個人情報は教えられないな。」


 教えないだけで青山の情報は知っている。先程来た体調不良の生徒と話していた時に青山は堅物真面目だが甘党好きだと漏らしていた。多分清原はそういう情報が欲しいのだろう。


「……はぁー使えないわねー!あんたはサポートキャラなんだから!ケチ付けずに教えなさいよ!私に情報教えるためにいるのよ!せっかく私が可愛く聞いて上げてたのに!それにほかの攻略者もおかしいのよね!なんでかあの悪女にベッタリだし!私はヒロインよ!意味わからないわ!せっかく乙女ゲームの世界なのに!」


 …うわ、なんか急に話し出したし。こういうのを電波系って言うんだっけ?てか、やっぱり転生者だった。私も転生者であること知られないようにしなきゃ。


「えぇっと、言ってる意味がよく分からないんだが?」


 一瞬眉間にシワを寄せた清原たったが、直ぐに極上の笑顔に変わった。


「仕方ないわねー。あなたが私のサポートキャラだから特別に教えてあげるわ。ここわね乙女ゲームの世界でね。私は前世で『空の下の花』略して『空花』っていう乙女ゲームをプレイしてたんだけどぉー!それがこのせかいなのぉ!私は昨日入学した時に前世思い出してさぁー!


 それでね!昨日保健室に一緒に来た青山晴也くんも攻略対象なんだぁー!

 昨日のが出会いイベントでぇーこれから図書室デートとかあるのかなー楽しみだなー♪それにあの堅物顔で甘党好きっていうところがまたグッとくるよねー!親から病院長の立場を受け継ぐことになってて、親からすごい怒られて心ズタズタになってたところを私が助けるんだー!ゲームの中で一番ちょろかったしもう少しで堕ちるかな〜?


 あとあと、貴島橙空っていう子も攻略キャラでねー!今日話してきたんだけどぉー!やっぱり超可愛い♡

 でもぉー本当はカッコイイ姿になりたいんだけど、母親から可愛いものばかり押し付けられる可哀想な人なんだよねー!そんな時に私がやってきてー助言してーイケメン男子に変わるんだぁ〜!可愛い姿も好きだけど、かっこいい姿はもっと好きだなぁ〜


 ああ!やっぱり私の一番の推しは西条朱凰くん!攻略者の中で一番私の趣味にどストライクなんだぁー!全部自分の思い通りになる世界に退屈してた時に自分の思った通りの返答をしない私に興味をもって好きになっていくのぉー!私があの冷たい心を溶かしてあげるー!待っててねー!」



 一気に色んな情報が入ってくる。普通に疲れた。後でボイレコ聞きながらめもらなくてわ…



「はぁ〜、喋りすぎて疲れちゃったわ〜一旦休憩!ねぇーあんた〜飲み物持ってきなさいよー!」


「私は先生だ、“あんた“じゃないよ。はい、これ水。」


「えぇー水なのぉー?紅茶が良かったなー」


 無視かい。

 ちょっとイラッとする。

 私は人を嫌うことは避けるタイプだ。嫌ったら先入観で対応してしまうし、面倒い争い事に付き合わされるきっかけにもなりかねないからだ。嫌いに近い苦手という評価を下そう。普通にウザイ。

 あぁ、そうだ。そんなに紅茶が良かったなら次は紅茶を化学反応を利用して色を変えたやつをだしてやろうか。見た目で紅茶を判断させた後、清原の舌がどれほど凡人か知らしめてやるのもいいかもしれない。


「ねぇー聞いてる?」


「あーすまん聞いてなかった」


「ここがゲームの世界だって説明したでしょ!ね?協力して?」


「うーん、私にはいまいちまだ納得がいかないとこがあるが、もしここが君の言う乙女ゲームとやらなら、お前は未来を知っているということだな?なら、それを全て紙に書いて見せてくれるなら信じよう。」



 あくまで信じる、協力するとは言ってない。




「そうよ!ここは乙女ゲームなの!書くから協力してね!」



 ちっ、引っかからなかったか。



「だが、お前は既に未来がわかるなら私の協力はいらないのではないのか?」


「そうなのよ!本当はここなんか来る予定なんてなかったの!


 なんかね、あの悪女攻略対象、侍らせてるとよ!私がヒロインなのになんなのよアイツ!でね、もしかしたら私と同じ前世とか転生とかかもしれないと思ったの!なら負けられないの!それで昨日アイツの周りににいる松山翠くんに話しかけたんだけど、あの性悪悪女見た瞬間どっか行っちゃったんだよ!?あれ出会いイベントだったのに!」


 あぁ、なるほど

 悪女ちゃんもゲームの世界だってしってたってことか。だが、まずいな、ヒロインだからと言っていゲームじゃない清原は多分悪女に喧嘩を売りそうだ。周りで人間関係がごたつくのは面倒だ。


「清原は悪女もこのゲームを知っていると思ってるんだな。」


「ええそうよ!そうじゃなきゃ攻略キャラ達があんな性悪女慕うはずないじゃない!」


「私は違うと考えるな。多分ゲームの悪女とやらが性格が違うのは清原が関係していると思うぞ」


「は?意味わかんないだけど」


「いいか、あくまでこれは希望論の話だが、清原は前世でゲームでの記憶を持ってしまっている。お前らの言う恋愛とは山あり谷ありがいいんだろ?だが今の清原にはゲームの清原と違って既に知識があり山も谷もない。だからゲームとは違う山と谷を用意されたんじゃないのか?」


 人というのは良い方と悪い方の考えがあるとき楽な方に進みたがるものだ。このまま悪女にゲームのことで突っつかれて余計な争いが起きれば私が止めようもないからな。


「そっかー!そっかそっかー!私はやっぱりヒロインなのね!そうよ!愛は壁を乗り越えてこそあるのよ!」


 面白いくらいに引っかかってくれる。


「あーそれと、あんまり外でそのゲームに関する言葉を言うなよ。あとな、ここに長居は禁物だ。ここは病人やけが人の来るところだ。」


「はいはい、じゃぁ先生帰りますねー!なにか情報得たら教えてねぇー、♡」


「明日そのゲームとやらの概要の書いた紙を持ってくるようにな。」


 ドアが閉まる。

 私はコーヒーを片手にため息をついた。

 ため息は副交感神経が働くためストレス解消にいいらしい。ため息を着くと幸せが逃げると聞くが、ストレス解消の方が優先だ。


 私はこれから先の巻き込まれるかもしれない未来を想像し胃を痛めた。

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