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この俺がこんな初歩的なミスを

 光学迷彩によって透明化した状態でソニックボードを駆り、モゥと言う名の大男を追うカナメ。その耳にイーヌの含み笑いが聞こえてきた。イヤフォン越しでも、イーヌの特徴的な笑い方はよくわかる。


「わふふふふ」

「なにがおかしい」

「いやなに。君も案外、優しいところもあるじゃないかと思ってね」

「何の話だ」


 高速飛行中ではあるが、イーヌと会話するくらいは問題ない。カナメはさきほどから機嫌がよいイーヌの心情を尋ねた。


「なんの話って君、チトセちゃんたちを助けたじゃないか。クラスメートとしての情が芽生えたんだろう? 可愛い子たちだったしな。恥ずかしがらなくてもいいんだぜ」


 カナメにはイーヌの言っている意味がわからなかった。だがそれも一瞬のこと、すぐに考えが至る。なので溜息をついて応える。


「俺がやつらを助けたのは、合理的な判断によるものだ」

「合理的? どういうことさ。……もぐもぐ」


 こちらが戦闘を終えてからの追跡に移っているというのに、なにかを食べている様子のイーヌ。おそらくは気に入ったと言っていたコンビニのアンマンだろう。


カナメは呑気な相棒に多少腹を立てつつ答えた。


「思い出せ。『今日が貴様らの最後だぜティアキュート。我ら絶望妖魔の世界がやってくる』。モゥはこう言っていた」


「もぐもぐ……それが?」


「わからないか? 我『ら』と言ったんだぞ。つまり、絶望妖魔なる勢力はモゥ以外にも多数存在するが、対する勢力であるティアキュートはあの二人以外いないということだ」


「ふむ。まあそう取れるね」


「しかも、見たところ絶望妖魔のほうが戦力は上だろう。巨大蜘蛛のようなモンスターを製造する能力もあるようだしな。それもあのモンスターはライトニングブレードで突き刺したにもかかわらず絶命せず、ティアキュートの攻撃でしか倒せなかった」


「わっふ」


「銀河帝国はこの星の侵略を予定している。侵略地において原住民同士が争っている場合、侵略者が取るべき行動はなんだ?」


「ボクは博士であって戦術家や統治者じゃあないぜ? もぐもぐ」


 博士は今、アンマンの糖質で思考速度が遅いようだった。仕方がないので答えはカナメ自身が言うことにする。


「争いを煽るべきだ。互いにつぶし合ってくれれば戦力は消耗するからな。被征服対象の弱体化は望ましいことだろう。また、攻め込んだ際に原住民が一致団結して抵抗してくることを避けられる」


 これは軍人としては常識である。今まさに侵略中であるこの星、地球でも古代ローマなどの強国がこの戦法を取ったことは確認済みだ。


「わっふ。一理ある」


「あのままいけばティアキュートは倒されていた。だが絶望妖魔の戦力はまだ底が知れない。俺一人では対応できない可能性もある。ゆえに絶望妖魔の戦力をそぐうえでも、調査の意味でもティアキュートには利用価値がある」


「わっふ。僕はそういうドライな感覚はあいにく持ち合わせていないけど、言いたいことはわかるぜ」


「理想を言えば、あいつらが共倒れしてくれたほうがいい。戦力的に消耗しつつ勝ち残ったほうを叩くことになるだろう。ゆえに劣勢な方、つまりティアキュートに加担すべきと判断した」


 以上がティアキュートの一人、ティアブルーム、つまりは千歳を助けた理由だ。なにも間違えてはいないはずだ。ゆえに先ほどのイーヌの指摘は誤りだ。


「なるほどね。ところでいいのかい?」

「なにがだ」

「追跡対象をレーダーからロストしているようだぜ」

「……バカな!」

 

 イーヌの言葉に、バイザーに表示されているレーダーを確認する。たしかに、モゥの反応はすでになかった。自分としたことが、会話に気を取られ注意を怠っていたらしい。こんなことは、有能な自分には初めてのことだった。


「……くそ……この俺が、こんな初歩的なミスを……!」

「わふふふふ」


「何故笑う?」

「いや。合理的な判断、というのはわかったし、納得した。でも」

「なんだ」

「それだけかな?」

「……どういう意味だ」


 カナメには、イーヌの言っていることがわからなかった。今説明したこと以上に、千歳を助けた理由はない。蜘蛛の糸で拘束されていた千歳をみていたときのチリチリするような胸の感触は、合理的判断を急かす軍人の本能だったのだと理解している。アーマーギアを纏って蜘蛛の糸を斬るために飛んだ瞬間、サンドイッチの味を思い出したことにも、とくに意味はない。


「わふふふふ」

「……イーヌ、俺はこれから戻るが、今日はアンマンはもう買ってやらないことにした」

「な、何故だ!! この星では犬にしか見えない僕に自分で買い物をするのは無理なんだぜ!!」


 イーヌはまさに犬のようにぎゃんぎゃんと不満を吠えていたが、カナメは通信をきることにした。


 この日のことは、のちにカナメによって記述される侵略日誌インベーターズ・リポートには次の様に記載されている。


――以上の経緯による、敵対関係にある二勢力と接触。ティアキュート(甲)、絶望妖魔(乙)とし、今後は両者の闘争に武力介入を実施。原則的には甲の壊滅を防ぎ、乙の戦力を削ぐ方針とする。その完遂後、甲・乙ともに殲滅する――



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