君はストーカーだな
カナメが千歳の通う高校、月読高校に転入してから四日が経った。
四日間。それは自身の高い知能指数を考えれば、文化習得及び環境適応期間としては十分であるとカナメは考えている。事実今日は、クラスメートの爆笑や唖然とした表情を三回しか向けられていない。
そして今は放課後。カナメはここ四日間、放課後は毎日同じ行動をしている。
「わっふ。カナメ、知っているかい? 君のやっている行動は、地球ではストーキングと呼ばれるものだぜ。想いを寄せている異性に付きまとう迷惑行為さ」
肩口に乗っかっているイーヌが皮肉交じりに嘯く。
「……いや、これは調査なんだが……」
「わかっているけど、問題は男子高校生が女子校生に対して行っているということさ。しかも彼女はなかなかの美少女だし。わっふ。君はストーカーだな、カナメ」
「……」
光学迷彩スーツを纏って透明化したうえで千歳のあとをつけている現状、カナメはイーヌのからかいに対して押し黙ってしまった。
何故か罪悪感がある。銀河帝国の諜報員としてしかるべき軍務を全うしているだけなのだが。
「学校では仲良くやっているのかい?」
「その話はあとにしてくれ」
「はいはい。わかったよ」
イーヌをあしらい、前を行く千歳に視線を戻すカナメ。彼女は学校から自宅に戻る途中であった。
千歳の行動パターンはそう多くはない。学校が終わればほとんどは真っすぐに帰宅。その後、家族と夕食を取り、入浴や学習、家族との会話、テレビの視聴、友人との電話。SNSを利用していないこと以外は、ごく一般的な女子校生と変わらないものだ。
ときおり友人たちと一緒に下校して寄り道をする、一度帰宅したあと母親に頼まれて夕食の材料を買いに行く程度のことはあるが、どれも特筆すべき動きではない。
「それにしてもいい子じゃないか。今どき、お使いで葱を買いに行く娘さんは少ないそうだよ。隣人に対してハキハキと挨拶をするのも好ましいと僕は思うね」
イーヌはイーヌでここ数日の間にめっきり地球、日本の文化や俗世間に詳しくなっている。そんな彼は千歳がお気に入りのようであった。だがカナメには興味のないことである。
「……そんなことより、この監視も四日目だが、動きがないな。まさか察知されているということは……」
カナメがそう呟きかけたとき、腕に装着しているマルチデバイスがエネルギー反応の感知を伝えてきた。この近くで、特殊なエネルギーが突如発生している。それも、一般的な地球の動力とは異なる種のものだ。
「なんだこの表示は?」
「わっふ。サイキックエネルギーに近いようだけど、すこし違うようだね。それより見ろ、カナメ」
肩口に乗っていたイーヌは、前足で千歳を示す。見れば、彼女は急に立ち止まっており、ある方向に顔を向けていた。きゅっと唇を結んだその表情は、学校でみせるものとは異なる。
凛々しく美しい横顔だ、とイーヌは評した。
凛とした、という最近覚えた地球の言葉がカナメの脳裏をよぎる。
千歳が向き直した方角は、今まさに未知のエネルギー反応があった方角である。
千歳は、腕につけている細いリングを口元に近づけ、何事かを話した。と、思えば、エネルギー源の方角に駆け出していく。100メートルを11秒台で走るカナメから見ても、かなりの速度だ。
「きたか……! 追うぞ、イーヌ!」
「わっふ!」
地球降下初日に確認した千歳の姿。彼女は特異な衣装を纏い、高い身体能力と不可思議なエネルギー波で巨大怪獣の襲撃に対応していた。
高校生活のなかではそんなそぶりは微塵も見えなかった、ごく一般的な、あるいは平均よりもやや古風な少女かと思われたし、あの姿はなにかの勘違いかもしれないと思い始めていた。
だがやはり。




