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俺の趣味はアダルト動画の観賞だ


 カナメの眼前には、自分と同世代と思しき地球人がずらりと並んで座っていた。

 誰も彼も、緊張感とは無縁の表情をしている。カナメ自身遺伝子的には地球人のはずだが、こうしてみる彼らと自分が同族とはとても思えなかった。


「えっと、じゃあ、今日からクラスメートになる転校生を紹介します」


 教室。前時代的なカリキュラムを実施する教育機関の現場だ。隣にいるのは、20代中盤と思しき女性、この教育機関の教官である。彼女がカナメに合図をした。どうやら、名乗れということらしい。



「星乃カナメだ」


 地球における日本の学校現場というものは予習してある。クラスという集団単位には軍隊の様に明確な上下関係があるわけでもないのだから、名乗りはこれで十分だ。


 カナメはよく通る声で、堂々と端的に名乗った。なにも間違ってはいないはずだ。


「………」


 しかし、クラスメートたちは無反応だった。隣の席の者とこっちを見てはヒソヒソ話したりしている程度である。


「え、えーっと、星乃くん? それだけ、かな?」


 女性教師が慌てた様子で問いかけてきた。


「それだけ、とは?」

「ほらあの、そうだ! 特技とか趣味とか、そういうこと言おうか?」


 なるほど。カナメは理解した。名乗るときにどこまで自分の情報を開示するか、という細かい慣習までは事前情報では知ることが出来なかったが、そういうものなのだろう。


「了解だ」


 特に友人を作るつもりなどないが、あまりに特異な行動をするのも良くない。カナメが高校に潜入したのは、現地で怪しまれない仮の身分を手に入れ、今後の調査活動を円滑に行うためなのだから。目立たぬよう、あたりさわりのないことを言うべきであろう。


 ならば、と考える。もちろん、本当の情報を口にすることはできない。実際のカナメには趣味といった概念はないが、特技は近接格闘、射撃、爆発物処理、宇宙戦闘機操縦などである。だが、それがこの星では一般的でないことはわかる。


ここは事前に調べておいた、同年代の地球人男子の一般的な回答をしておこう。ただし、怪しまれないような堂々たる声で、端的かつ的確に。


「俺の趣味はアダルト動画の観賞だ」


 なにも間違えていない。なにも間違えていないはずなのだが、教室は一瞬静まり返った。

 遅れて、男子学生の爆笑と女子学生の困惑の声が響き渡る。


「だははははっ!! やべぇヤツきた!!」

「ちょ……なにそれ。ひくんですけど……イケメンだと思ったのに……」


 クラスメートたちはそれぞれの反応を見せる。予想外の反応だった。


「……?」


「ちょ、ちょっと星乃くん!? いきなりなに言ってるの!?」

「……教官。俺の回答に何か問題があっただろうか? 同年代の一般的な趣味だと認識しているのだが」


 困惑を伝えたカナメだったが、またしてもクラスにどよめきが走る。

 それにしてもよく笑う種族だ。銀河帝国は多星系国家であるため、帝国軍人のなかでも人型タイプの異星人はいる。しかし地球人は独特の精神性を持っているのかもしれない。


「あー! もう! いいです!! ほら! あそこ! 星乃くんの席だから座って! あのね!? 皆! 星乃くんは外国から来たばかりでまだ色々慣れていないこともあると思うから! 今のは気にしないで仲良くしてあげてね!?」


 女性教官は慌てふためき、カナメが着席すべき位置を指さす。状況はわからないが、それでいいというのならばあえて追及することでもないであろう。


「了解だ」


 あらかじめ用意されていたと思われる空席に向かって移動するカナメ。偶然というか、都合のいいことに、隣の席には調査対象が座っていた。怪獣災害の現場で奇妙な戦闘服を纏い手からビームを放っていた女である。彼女は、着席したカナメに視線を向けていた。


「えっと、星乃くん」


 向こうから接触してくるとは思わなかったが、それならそれで好都合だ。カナメは極力円滑なコミュニケーションを図るべく慎重に答えた。


「なんだ」


「わたし、一ノ瀬千歳。よろしくね!」


 調査対象、千歳はそう言って微笑んだ。明朗かつ柔らかい声質の持ち主であることがわかる。また、他の生徒に率先して声をかけてきたことから、率直で礼節を重んじる人柄と推測できる。


「ああ」

「困っていることとかあったらなんでも聞いていーよ」


さらに千歳は近くで見ると思ったより小柄であり、童顔。そのため他の学生より幼く見えるが、声質や言動は活発な様子である。また、帝国軍人であるカナメから見れば筋量が不足した柔らかく細い体形をしている。大きな瞳は無警戒で純粋そうであり、肌質はきめ細かく、ほのかに柑橘類のような香りがある。


およそ兵士とは思えない人間性だが、油断は禁物だ。


「そうか。了解だ」


 カナメがそう答えると、千歳は少し驚いたそぶりを見せたが、それでもカナメの目を見てこくんと頷いた。周囲の他の生徒は失笑していることから、彼女のパーソナリティは他とは少し違うのかもしれない。カナメはそう推測した。



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