お前がアレでいいと思うんならいいんじゃないか……?
本日は日曜日であり、高校は休みだ。だが、カナメは忙しい。
まず、早朝に起床して兵士としてのトレーニングに励む。帰ってきたら各地に飛ばしているスパイデバイスからフィードバックされた情報の確認。
その後、各種兵装のチェック。その途中で絶望妖魔が出現したため現地へ。絶望妖魔アーカンとティアキュートの戦いを見守る。
アーカンは月読高校の教員であるである鈴木を捕縛し、そこから妖魔を生み出し『おで……てぃあきゅーと、たおす。たおす!!』と主張。ティアキュートは一時追い詰められる。
だが現場に現れた鈴木の婚約者の男性が、囚われた鈴木を助けるために奮闘する姿に触発されてティアキュートたちは奮起。アイがどうだコイがどうだと口上を垂れ、不可思議なパワーアップを果たしたティアキュートたちは、いつもの光の攻撃『ティア・ホーリー・ストーム』にてアーカンを撃破。一件落着。
なおこの間、カナメは鈴木の婚約者が死なないように援護していた。ティアキュートたちが憂いなく戦えるようにするためである。
戦力を持たない民間人が戦場に顔を出すなど正気か、帝国軍人の戦場ならば即見捨てられているぞと思いつつもサポートに徹することで勝利に寄与した。
戦闘後、先生がうらやましいなー、いつかは私たちも! でもそれよりお腹すいちゃった! そういえばクラスの星乃くんって子に告白されたって? 告白はされてないよ!!……などと言いつつ帰宅する千歳と百花を尾行後、カナメ自身も基地である自宅に帰還。
一息つくか、と思った矢先にブラック・ダガーン総帥のアレクサンドラから連絡が入り、戦略会議とやらに参加することに。
アレクサンドラが所有する船舶にある会議室まで移動し、例の黒衣と三角頭巾を被って参加することを強制されたのである。イーヌが参加したがっていることをアレクサンドラに伝えると、なんとイーヌ用サイズの黒頭巾も用意されていた。被るとやっぱり暑い。
そして参加。ブラック・ダガーンの幹部会議とのことだが、全員がその場にいるわけではなく、立体映像を用いたリモート参加者もいた。そして全員例の黒頭巾である。
ブランデーを飲むもの、高級な猫を膝に抱えるものがやたら多かった。ブラック・ダガーンではブランデーが流行っているのかもしれない。
また、会議の内容は不明瞭だった。まず誰も彼も『くくく』『ふふふ』と笑いがちである。さらに発言内容も会議として不適切に思えた。
『ヤツは我ら四天王のなかでは最弱』
だからどうした。それがこの組織で周知の事実なら言う必要はないだろう。
『ねーねー。ぼくがアイツ殺しちゃっていい?』
ダメに決まってるだろう、というか無理だ。
『手をだすんじゃねぇ! ヤツは俺様の獲物だ!!』
論拠を示せ。
『………』
なにか話せ。
『俺は好きにやらせてもらう』
なら会議に出るな。あと組織にも入るな。
『おで……おで……腹、へった』
なにか食べてから参加しろ。こんな知的水準のものを参加させるな。
あとお前、絶望妖魔のアーカンに似てるな。
そして勿論そんな会議ではほぼ何も決まらなかった。にも関わらず総帥たるアレクサンドラは会議終了後、満足そうに『むふーっ』と声を漏らした。
『ふふ、いささか勝手が過ぎるが……、最強の幹部たちよ』じゃないだろう。部下を制御できないのは上官の能力不足の証明である。しかもここに集合する時間や、ホログラム装置にかかる費用などのコストをまるで考えていない。
「どうだった!? ジョーカー!」
「いや……。まあ、……お前がアレでいいと思うんならいいんじゃないか……?」
そう答えるのが精一杯である。なお、この会議で唯一決まったことは、ジョーカー、すなわちカナメのブラック・ダガーン一員としての初仕事である。
初仕事。すなわち敵対勢力から金を強奪することだ。悪の組織の運営には金がかかるらしい。
組織からの信頼を得るために一定の成果を示す必要があると考えたカナメはこれを了承した。近日中に決行予定となっている。
ただカナメはこうも思う。あれほどの科学力があるのなら、合法的にビジネスをしたほうが儲かるのでは。
そのような疑問を持ちつつアレクサンドラと別れ、自宅に戻ったのは深夜4時。4時間後には高校の授業が始まる。いかに鍛え抜かれたカナメとはいえ、クタクタである。
※※
そんなわけで、カナメは生まれて初めて居眠りというのを実行することにした。すでに十分高校生として溶け込んでいると自負しているため、たまには居眠りも問題あるまい、これもまたカモフラージュの一環であり、体力を放課後の侵略活動に備えるためでもある。
そもそも、カナメは高校の学習など本来はやる必要がない。
理数系の科目はほぼ満点がとれる。文系の科目は赤点レベルだが、それは別にどうでもいい。こんな蛮族の歴史や倫理など学んでいったいなんになるというのか。
ゆえに一限目の古文の時間に仮眠を取る、とも決めた。文系科目のなかでも、この古文というカリキュラムは一番意味がわからない。何故ただでさえ古代も同然のこの星の、さらに古代の、しかも創作を解読する必要性があるのか。いや、ない。未開の土地の、さらに古代の架空の男が義母に恋をしたからなんだというのか。
『そういうわけで、イーヌ。周辺の警戒を頼む』
『わっふ』
ぐぅ。
起きた。起きると二限目のロングホームルームとやらの時間すらもまもなく終わるタイミングだった。まあいい。このロングホームとやらも基本的には意味がない。
「はい。じゃあこれで委員会は決定ね。えーっと、一ノ瀬さんと星乃くんはさっそく体育祭実行委員の仕事があるから、今日の放課後は忘れずに会議にでるように」
「は?」
担任の教師、天ヶ瀬女史の言葉にカナメは疑問の声をあげた。会議という言葉に拒否反応を起こすようになってしまったのかもしれない。
「居眠りしてるほうが悪いんです!!」
天ヶ瀬女史はびしっとそう言い切った。どうやら、カナメが仮眠を取っている間に、なんらかの役職を押し付けられてしまったらしい。
「……は、了解しました」
周辺を見ると、山田がこちらにむけて親指を立てている。また、得意げな顔だ。なにか口をパクパクさせている。読唇してみると、彼はこう言っていた。俺が推薦してやったぜ!
「……?」
今度は隣をみる。千歳と目があった。
「よろしく。星乃くん。えっと、頑張ろー」
彼女はカナメの視線に気づくと、小さな拳を握って笑った。
なるほど理解した。山田は、カナメが千歳に好意を持っているととらえている。ゆえに、千歳と同じ役職に就くようカナメを推薦した、ということだろう。
問題ない。そろそろ千歳ともう少し接近しておきたいと思っていた。ティアキュートについて踏み込む機会となりえるだろう。