なるほど
永い眠りから目覚めた少年は、コックピットに移動した。計算通り、船の窓からは青い星が見える。
「おはようカナメ。気分はどうだい?」
カナメ、と呼ばれた少年は足元に視線を向ける。そこには小型サイズの異星人である『イーヌ』がチンマリと座っている。そういえば、このイーヌは目の前にある青い星にいる『犬』という生き物に姿が似ているらしい。
「ワープ酔いはしていない。それより、あの星は地球で間違いないな?」
「わっふ。もちろんさ。こう見えても僕は超一流のアストロノーツなんだぜ」
銀河帝国本星からコールドスリープを挟んで1年間の旅は、もうすぐ終わる。そう考えたカナメは自身の顔に冷酷な笑みが浮かぶのを感じた。
俺がここにたどり着いたということは、あの星はもう終わりだ。数年以内に帝国に侵略され、原住民たる地球人は属民となる。そしてその過程で功績を積んだ俺は、軍人として出世するだろう。総督たる地位を得ることも夢ではない。
「ふっ……」
「それは余裕の笑みってやつかい? けど僕たちはたった二人の調査員だ。油断は禁物さ」
「相手は未開惑星の蛮族だ。俺たちの作戦行動に障害はない」
イーヌはカナメの言葉を受けると、短い前足を天に向けた。やれやれ、と言いたいらしい。
「それじゃあ帝国のエリートたる君の実力を見せてもらうとしよう。まずはどうする?」
「この船は本宙域に停泊。俺たちは小型ポッドで上陸するぞ」
「なるほど。座標は?」
イーヌがコンピュータを操作し、コクピットのモニタには地球の地図が表示された。
「……そうだな。ここにしよう。記憶もしていないが、そのあたりが俺の生まれ故郷だと聞いたことがある」
カナメが指さした地点は、アジアと呼ばれる東のエリア、さらにその先端。日本と呼ばれる土地だ。
「君にも故郷へのセンチメンタリズムがあるとは意外だね」
「……まさか。人種的に近い方が現地では目立たないという判断だ」
カナメはそう嘯いたが、イーヌは口笛を吹いてみせた。会話はこれで終わりとなり、二人はそれぞれコントロールパネルを操作し、作戦行動を開始した。
この日のことは、のちにカナメによって記述される侵略日誌には次の様に記載されている。
――帝国歴1600年。カナメ・ホシノ少尉、イーヌ・ハスキー博士の両名は侵略対象惑星『地球』への降下に成功。同時刻より現地に潜伏、調査を開始。――