旧第6話
冒険者の宿から少し歩いたところにある石造りのいかめしい建物が、この街にある冒険者ギルドの建物だ。中に入ると、受付カウンターが多く並んでおり、その中で職員が冒険者に応対していた。俺も整理券を取ってパーティー登録の申請書類にメンバーの名前や冒険者登録番号を記入しながら待っていたが、整理券の番号が呼ばれるまで結構待たされた。書類と仲間全員の「冒険者免許カード」を提出して、登録が完了するまで再度しばらく待つことになる。
同業者組合と俗称されているけど、実態は帝国政府の機関で、つまりは役所だ。大昔に発足した頃は冒険者が集まって仕事を融通し合ったり、困ったときに助け合ったりする本来の意味での同業者組合だったんだけどね。冒険者という戦闘力が高い自由人の力が集まると、それなりの武力になるので、帝国政府が統制する必要性を感じて、公的機関にして政府の管理下に置かれることになったんだ。最低限の戦闘能力と素行を確認の上で免許が発行される。っても、素行確認の方は筆記試験だから、実際はザルみたいなもんだけどな。
だから、昔は無頼が多かった冒険者も、今じゃあきちんと帝国政府の管理下にある。民間人相手にトラブルなんかを起こしたらライセンス剥奪の上で豚箱行きだ。まあ、冒険者同士の喧嘩やいじめくらいは大目に見られてるけどな。
「何だあいつら。スライム召喚士なんて雑魚がいくら集まったって雑魚に変わりはないだろうに」
「雑魚だから群れるんだろうよ。八人パーティーとか人数多すぎだろ」
……そう、いじめくらいはあるんだ。だから、パーティー登録する俺たちをバカにするようなことを、大声で聞こえよがしに言ってくるようなヤツらもいるんだ。確かに冒険者パーティーの標準的な人数は四~六人くらいだから、俺たちの人数は少し大目だけど、別に例がないわけじゃない。
だから、この程度の安い当てこすりに反応するほど俺たちは素人じゃない。強気そうなアイナも、プライドが高そうなキャシーも、顔色ひとつ変えずに無視している。ただ、無視しきれないようなヤツもいるんだよなあ。
「おのれ……」
「よせ、クミコ。相手にするな」
「うぬ……呪う……」
意外に血の気の多いクミコを落ち着かせながら待っていると、俺の名前が呼ばれたのでカウンターに行く。そこで、受付窓口のおばちゃんに俺たちのパーティー登録が完了したと書類の控えと各メンバーのライセンスカードを渡された。美人受付嬢? そんなのは都市伝説だ。美人なら、もっと収入が良い仕事に就くさ。
渡された書類を見て、俺たち「スライムサモナーズ」の登録ランクを確認する。
「Dランクですか?」
「はい、皆様は既に冒険者経験が二年以上の方が多く、おひとりだけ一年程度の方もいらっしゃいますが、既に一度転職済みなので、Eランクでスタートする必要はないと判断いたしました。ただ、元はCランクパーティー所属の方ばかりなのですが、転職したてでレベル1の方が多いので、いきなりCランクにするのは規定上できませんので」
冒険者パーティーの実力の目安であるランクは、AからEまでの五段階に大まかに分けられている。このうち、AとEの数は少ない。最高ランクのAまで上がれる実力のあるパーティーは絶対数が少ない。そして最低ランクであるEは「初心者」を表しているので、大体一年もあれば自動的に「未熟」のDランクに上がるからだ。
だから、俺たちみたいな経験者が結成したパーティーがEランクになることは滅多にない。構成メンバーの経験とレベルを元にしてランクが決定されるので、俺たちみたいなCランク経験者が多いときはCランクになってもおかしくないのだが、今回はレベル制限のせいでDランク止まりだったようだ。
「了解しました。なに、Cランクにくらいは、すぐ上げてやりますよ」
Cランクパーティーのレベル要件は、構成員の半数以上がレベル20以上であることだったはず。その程度まで上げるのは、それほど苦労はしないだろう。だから、俺は受付のおばちゃんに軽口をたたいて、パーティー登録完了の書類の控えを自分の異空間収納に入れた。
このインベントリってのは、冒険者ならみんな習得してる基本スキルのひとつで、職業にかかわらずレベル2~3くらいでおぼえることができる。この世界に隣接する異空間に一定量――だいたい自分の体重の二倍くらいまでの重量――の荷物を収納することが可能なんだ。インベントリに入っている荷物は他人に盗まれたりしないし、入れている間は時間が経過しない。このため、生物は入れられないのだが、それでも非常に便利なスキルだ。だから、商人になりたい人とかでも、インベントリ習得のために冒険者になって、インベントリだけ身に付けてから冒険者を引退するなんてことをよくやっている。
ライセンスカードの方は、みんなの所に持ち帰って、それぞれ持ち主に手渡す。これは冒険者としての資格があることを証明するカードなんだが、帝国政府の正式機関である冒険者ギルドが発行しているから身分証明書としても使うことができるし、お金の代わりにもなるという優れものだ。
お金の代わりってのは、このカード自体に預金カードとしての機能が付与されているからだ。もう金貨なんて古くさいものは好事家が収集しているだけで、実際は帝国政府が発行している「金貨引換証」が実際の金貨と同価値で流通していて、紙幣って呼ばれてる。それをさらに一歩進めたのがキャッシュカードで、これは銀行が金貨や紙幣を預かった数量を記録しておける手持ちカード型のマジックアイテムなんだ。大抵の商店や宿屋では、既に預金カードを持っているだけで、銀行の口座にある金貨や紙幣を商店の口座に移し替えて支払いができる金銭登録機ってマジックアイテムを導入しているから、キャッシュカードだけで買い物ができるんだ。
弱小商店や行商人だと、さすがにそんなマジックアイテムは持ってないけど、そんな商人相手に多額の支払いをすることは滅多にないので、銀貨や銅貨といった小銭や少量の紙幣だけ財布に入れて持ち歩けばいい。昔の冒険者みたいに重たい金貨をジャラジャラ持ち歩く必要は無いってわけだ。まあ、インベントリに入れれば手持ちで持ち歩く必要はないんだが、金貨は重いんでインベントリの容量を食うからな。
もっとも、昔だって好んで重たい金貨を持ち歩きたがるような冒険者は少なかったんだ。だから、冒険者ギルドは冒険者の金貨を預かる仕事もしていた。銀行の代わりをやってたんだな。その業務を今でも引き継いでいるので、冒険者ギルドは帝国政府の公的機関で唯一、金融機関も兼ねている。だから、ライセンスカードがキャッシュカードも兼ねているってわけだ。モンスター討伐の報償金とかも、ほぼ自動で自分のライセンスカードの口座に振り込まれるので、非常に便利だったりする。
ちなみに、これは民業圧迫じゃないかということで数年前には分割民営化しようという改革の動きもあったんだけど、巨大な既得権なんで改革は潰された。世の中そんなモンだ。だいたい、いちいち不便にする改革なんてしないでいいんだよ。現場の冒険者にとっては便利な方がありがたいんだし。
『スライムしか召喚できないのでパーティーを追放されたけど同じ境遇の美少女たちと協力したら無敵スライムが生まれて一発逆転できた上にハーレム状態になっちゃったんですけど』
https://ncode.syosetu.com/n3239ff/
の試作版です。
エッセイで正規版と比較していただくための掲載ですので、感想、評価などは受け付けておりません。