旧第5話
「ああ、俺も異世界ニホン人の子孫だよ」
俺はあっさりとクミコの問いに答えていた。別に秘密にするようなことでも無いしな。この大陸には黒目黒髪の人間は元々存在していなかったという。でも、今では十人にひとりくらいは見かける。その全員がニホンという異世界から転移してきた異世界ニホン人の子孫だ。黒目黒髪は「優性遺伝」ってヤツらしい。この言葉もニホン人が伝えたものらしいな。ちなみに、この大陸全土で通じる「帝国共用語」は「ニホン語」とそっくりらしい。それよりも遥か昔に使われていて、帝国共用語にも多くの単語が残っている「古代語」の方は「エイ語」とかいうのにそっくりだそうだ。文化とかでも似ている部分は多いそうだから、異世界と言っても俺たちが今住んでいる世界と、そんなに大きな違いは無いんだろう。
ただ、異世界ニホン人というのは、もの凄く強力なスキルを持っていたり、この世界に転移してきたときから凄くレベルが高かったりと、冒険者としては相当な実力を持っていることが多い。それで目立った活躍をする場合が結構あるので、黒目黒髪だと、一部でもその実力やスキルを受け継いでいるんじゃないかと思われることが多いんだよなあ。実際はスキルとかは遺伝しないんで、黒目黒髪なだけで一般人と変わらないんだけどな。
ただ、忍者ってのは異世界ニホン人由来の職業って話をきいたことがある。元は異世界ニホン人だけの職業だったのが一般化したらしい。だから今じゃあ異世界ニホン人やその子孫だけじゃなくて、誰でもステータスさえ許せば忍者に転職できる。
俺だって、何代か前のご先祖様に異世界ニホン人が居るだけで、別にスキルもレベルも恩恵なんて無かった。俺と同じ黒目黒髪のクミコだってそうだろう。クミコって名前は異世界ニホン人っぽいから、俺より近い先祖が異世界ニホン人なのかもしれないけどな。
「やはり我と同じ異世界ニホン人の末裔……コンゴトモヨロシク……」
そうボソボソつぶやくと、クミコは再び丸眼鏡をかける。せっかく美人なんだから目元を隠すような眼鏡やめればいいのに。まあ、何か本人的なこだわりってものがあるのかもしれないが。
「それじゃあ、一通り自己紹介も終わったことだし、今後の方針を話し合おうか。とりあえず、このメンバーでパーティーを結成するということでいいんだな?」
そう俺が言うと、全員がうなずいた。ここまではいいだろう。
「それじゃあ、パーティーのリーダーを誰にするかだが……誰かやりたい人は?」
誰も名乗りを上げる者はいなかった。そりゃそうだろうなあ。このメンバーは全員が既に転職できるくらいステータスを上げられるほど冒険をやっている経験者揃いだ。だから、パーティーのリーダーなんて体の良い雑用係でしかないことを知ってるんだ。
まだ実際に冒険を始める前に、冒険者になりたての夢と希望にあふれた新人がパーティ―を結成した場合は、これから始まる冒険を仕切ろうと「俺がリーダーだ!」「いいえ、私がリーダーよ!」みたいにリーダーの座をめぐって争いが起きることもあるんだけどな。実際に冒険者として活動してみたら、パーティーリーダーがすることなんて役所での事務手続きとかパーティー共有財産の管理みたいな地味な仕事ばっかりで、それ以外にはメンバーの仲違いの仲裁だとか、ほかのパーティーと共同作業をする際の折衝だとか、神経をすり減らすような仕事が多いんだから。
「リョウがやったら? 一応言い出しっぺなんだし」
そうアイナが言ってくる。来たな。
「言い出しっぺは、一応アイナの方だろう? アイナでもいいんじゃないか?」
まずは、軽く反論して、押し付け合いゲームの始まりだ。
「リョウは男なんだから、あたしより押し出しが効くでしょ」
「ひと昔前ならともかく、今どきの冒険者に男女差別なんて、そんなに無いだろ。ほとんどが男所帯だった頃ならともかく、今は男女比はほぼ半々なんだし。前に所属してたパーティーだってリーダーは女性がやってたぜ。だいたい、このメンバーだと男は俺とイリスしかいないんだから……」
「「「「「「「「えっ?」」」」」」」
俺以外の七人が揃って疑問の声を上げた。あまり感情を表に出していなかったカチュアさえ不審そうに見ている。うげ、これは何かマズいことを言っちまったか!?
焦る俺に、イリスが語りかけてくる。
「ふうん、そうか。君はボクのことを男だと思ってたんだね? 確かにこんな服装だけど、女を捨ててる気はなかったんだけどな」
皮肉そうな笑みを口元に浮かべて言いながら、イリスが緑色の瞳で強烈な冷気のこもった視線を俺に撃ち込んできた。
う、うわあ、やっちまったぁっっっ!!
「ご、ごめん! その、あの、俺より美男子だと思ってたんで、あんまり注意して見てなかったというか、野郎をジロジロ観察する趣味は無いからというか……それにむ……」
っとォ! これは絶対的な禁句ッ!! 胸部装甲の薄さを理由にしたりしたら、それこそイリスだけじゃなく、ほかの連中にも集中砲火を喰らっちまう。こういうことは考えるだけで読まれるんだ。考えるな、俺、感じろ!(←何を?)
混乱して絶句しちまった俺をイリスは無言のまま氷のような視線でながめている。
ダ、ダメだ、これは何を言っても墓穴を掘るパターンっ! かくなる上は……
「すみませんでしたあぁぁぁぁぁっ!!」
俺はテーブルに額を叩きつけ、米つきバッタのように這いつくばって謝った。
「まあ、いいけど……責任は取ってもらおうかな」
「へ、責任?」
その言い方だと、まるで俺があなたと結婚しないといけないような響きなのですが、この場合は違うよね?
「責任を取るのは責任者の仕事だよね。つまり、君は今日から責任者さ。リーダーよろしく」
うげっ、何つー理論だ!?
「チョット待て、それとこれとは話が……」
反論しようとした俺を冷たく見据えながら、イリスは俺の言葉を遮った。
「違う、なんて言わないよね?」
「……申しません」
「よかった」
そう言って、にっこりと笑うイリス。くそう、こうして見ると確かに女じゃねーか! 何で気付かなかったんだ、俺のバカ、バカ、バカっ!!
かくして、俺はこの個性豊かなメンバーで結成するパーティーのリーダーに就任することになってしまったのだった。
その次にはパーティー名を決めることになったが、特に大きなトラブルもなく『スライムサモナーズ』に決まった。これが冒険者になりたての頃だと、大きな夢を抱いて『栄光の旅路』だとか『最速の勝利者』だとかカッコ良い名前を付けたくなるもんだが、さすがに既に二~三年も冒険者を経験してると、そういう名前が逆に気恥ずかしくなってくるモンだからな。
もっとも、ひとりだけ「我は『深淵の復讐者』が良いと思う……」と主張して譲らなかったヤツがいたけど、そこは残り七人による多数決で押し切った。こういうカッコつけたがる心理は十五歳で成人する直前に多いんで、俗に「十四歳病」なんて言われてるんだけどなあ。そんな病気は十五歳のオリエですら既に克服してるのに、十七歳にもなって罹患してるなよ。
それから、全員で「冒険者ギルド」に移動してパーティー登録を行うことにした。
『スライムしか召喚できないのでパーティーを追放されたけど同じ境遇の美少女たちと協力したら無敵スライムが生まれて一発逆転できた上にハーレム状態になっちゃったんですけど』
https://ncode.syosetu.com/n3239ff/
の試作版です。
エッセイで正規版と比較していただくための掲載ですので、感想、評価などは受け付けておりません。