持っていたもの
周りがあまりにもしつこいから、恋を認めた。周りが薦めてくるから、放課後一緒に帰った。そのうちだんだん乗り気になって、告白して、「親友から」ということになった。
ずっと、違和感があった。周りが煩いから認めて。周りから一緒に帰れと言われてから一緒に帰るようになって。周りから、行けと言われてから一緒に出かけて。私から動くことはほとんど無かった。これは本当に恋と言うのだろうか?という疑問が、ずっと、ずっと、心のどこかに居座っていた。でも気付かないふりをした。きっと不安なだけなんだと、思うことにしていた。でも。
「こういうの、もうやめよう?」
大人しいイルミネーションと花々の中で、彼は言った。言おうとした『想い』をゴクリと飲み下す。
背伸びしたブーツ。背伸びした、大人びたスカート。気乗りしなかった、背伸びした、赤い、口紅。
すっ…と、した。すっと何かが、降りていく感覚がした。
「…そう、だね」
ごめんねと、彼は謝った。こちらこそごめんと、私も謝った。「戻ろうか」と促されるまま、隣を歩く。自分が今何を感じているのか、イマイチよく分からなかった。帰りの車の中で交わす会話は、いつもより色褪せたように感じた。
それからだった。誰かを目で追うようになったのは。気づいたら誰かを探している。細身で、撫で肩で、髪が短い。そんな誰か。最後に出かけた日から数ヶ月経って、やっと気がついた。彼だ。彼を探しているんだ、私は。
あぁ、嫌だ嫌だ。気づかなければ良かった。知らなければ良かった。気づいてしまったら、知ってしまったら、苦しくて苦しくて、仕方がない。
私の手に残ったのは、ツツジやライラックなんかの可愛らしい花ではなくて、ただの、茶色く色褪せた枯葉だった。