フェイズ4
「俺は、漆黒の華クラウを召喚!」
手札にあるCランク精霊であるクラウを召喚。
クロノギアのディスプレイ画面にカードを置くと俺の隣に魔法陣が出現!
カードの絵柄に書かれた魔女っ子コスチュームの青髪の少女が登場する。
【漆黒の華クラウ】
ランク:C
属性:闇
攻撃:弱
防御:中
体力:中
スピード:弱
「うおっ、めっちゃ可愛い!」
正直、好みのタイプの女の子だった。
これはテンションが上がるぅ!!
「さぁ、勝負を始めようぜ!」
「ガルム! 白頭狼!」
「えっ?」
俺がクラウを召喚すると同時にマッチョゴリラの魔犬共が可愛いクラウちゃん目掛けて一斉に突進する。
ただ棒立ちでいるクラウは、猛進する犬共の攻撃を避けようともせずまともに頭から噛みつかれてしまう。
「って、おいっ!? 俺のお気に入りになにすんだよ!」
野蛮な犬共に押し倒され、唾液だらけの歯でガブガブと噛みつかれるクラウ。
「これじゃあ、獣姦じゃねぇかよ!」
「おまえ、なにをそんなに叫んでいるんだ?」
ひとり嘆く俺に、マッチョゴリラが文字通り目を点にする。
獣欲に塗れた犬共にしゃぶり尽くされたクラウは登場してわずか数秒で光の粒子となって消滅する。
「うおぉぉぉぉっ、マイフェイバリットガール! おまえの犠牲は無駄にしないぞ!!」
クラウをやった野獣共の視線が今度は俺に移る。
そして犬歯を剥き出しにプレイヤーである俺に襲いかかってくる!
おいおい、まじかよ!
咄嗟の回避術など心得もない俺は、犬共のタックルをまともに喰らってしまい、地面に押さえつけられてしまう。
「リンク! 獣魔装ベルバーグ!」
俺が身動きを封じられている間にマッチョゴリラは手札にある新たなカードを展開。
召喚したのは、やつの体躯よりもでかい巨大な戦斧だった。
【獣魔装ベルバーグ】
ランク:C
武器種:斧
攻撃性能:強
防御性能:小
耐久力:中
それをマッチョゴリラは片手でひょういと担ぎ上げると、犬共に束縛された俺目掛けてその戦斧を振り下ろしてきた。
「ちょっ、それはさすがに勘弁――」
やつの戦斧が地面をえぐり、砂煙を空中へと巻き上げる。
馬鹿でかい斧で正面から斬りつけられた俺は、全身が真っ二つに……なっているなんてことはなく、無傷で生還していた。
あれ? たしかに斬られたはずなのに……どうして?
見ると斬られた箇所から縦にノイズが走っていた。
なるほど、ここは仮想世界ってことか。
痛みもなければ血も流れない。
あるのは攻撃を喰らったという認識だけ。
この現象に唯一納得する理由をつけるとするならば、これは現実での出来事ではなくゲーム内での出来事であり、その中で受けたダメージに過ぎないということだ。
『プレイヤーのダメージを判定、ライフカードを削ります』
クロノギアから無機質な音声がなり、俺の眼前にハートの模様が描かれたカードを8枚映し出し、それを光に変えて四散させる。
七星ゆう:ライフカード52/60
空中投影画面にライフカードという名の文字が浮かび、残りの枚数を示す。
俺が攻撃を喰らったことでカードの枚数が減った?
つまり、これがこのゲーム内でのプレイヤー体力ってわけか。
カードゲームであるなら先にこのライフカードを削り切った方が勝者になるという明確な勝敗基準が設けられているはずだ。
「ちっ、思った以上にライフカードを削れなかったな。運の良いやつめ」
ダメージがいまいちだったのかマッチョゴリラが舌打ちする。
いきなりの攻撃や先行後攻という概念がないことから察するにこのカードゲームはアクション性の強い、よりアクティブなタクティクスが求められるゲームなのだと予想がつく。
精霊と呼ばれる召喚獣同士を戦わせたり、プレイヤーを直接襲わせることができることに加え、特殊な武器を自分自身に装備してそれで相手を攻撃し、ライフカードを削ることが可能……。
だんだんとわかってきたぞ、このブレイドリンクっていうカードゲームのルールが!
『ドローチャンスによりカードを一枚引いてください』
「おっ、このタイミングでドローか!」
ターン制のあるカードゲームではそのターンの開始時に用いられるドローだが、ブレイドリンクにおいてはそのタイミングが異なるようだ。
「精霊が消滅したらカードを引くことができる、そんな初歩的なルールもわからないのか貴様は!?」
「なるほど、それじゃあつまりこれはクラウちゃんが俺に残してくれた贈り物ってわけだな!」
有難くカードを引かせてもらう。
よしっ、粗方の流れは把握した。
後はここからどう戦略を練っていくか、だが……。
もちろんアクション型カードゲームである以上相手も悠長に構えていてはくれない。
すぐに戦斧を担ぎ直し、犬共と一緒に迫ってくる!
あと数分、相手の動きを観察できれば、いけそうだな。
初見のゲームは本番と通じてルールを学ぶ!
見せてやるよ、最強カードゲーマー七星ゆうの実力ってやつをな!