094.銃之支配を奪い取れ(10)
二階層になると、敵は固有モブへと変化していた。
機械人形が縄張りを守るように右往左往しているが、一定の距離があれば無反応という。
「これじゃあ一階の共通モブの方がまだマシじゃない?」
「近づくなよ? 絶対だぞ!? あいつらは弾を無尽蔵に撃ってくるから最悪なんだよ。両手に持つ銃で片手でリロード、片手で再び撃つって仕組みだ。な? ヤバさを理解してくれっカァァァ」
チラ見してわかったが、毎回あの奇声を発するときは額に手を当てているようだ。
嫌いじゃない、そういうのは。
「味見してから考えるっ」
舌なめずりして、機械人形の間合いへと突入する。
距離は丁度10mから反応するようで、感応範囲に入った瞬間発泡の雨が真正面から降り注ぐ。
相手の数は3体、つまり3発の銃弾がコンマ9秒の間隔で飛来する。
そのどれもが正確で、それぞれ頭、胸、足を狙っているようだった。
「ッッ」
上下運動での回避は不可能に近く、横へ素早く躱すと壁に弾かれるように感応範囲から脱出をする。
「ほらっ、いわんこっちゃねぇ! 多少時間かかってでも安全なエリアを通ろうぜ?」
「確かに手加減じゃ二階層ですら大変そうね。なら」
「手加減? おい、お前さん一体!?」
私は右手に手を当てると、ハウルの視覚モードを暗転させる。
『『変化』』
私の声とハウルの音声が現実で交差する。
意識を左目に一極集中させると、ドーパミンがドバドバと溢れ出てくるのがワカル。
「これはそう、遊びモードに昇格ってところかしら? 手加減無しの、でも遊び感覚。それが狂人よ。お喋りはここまで、二階層は突っ切るよ」
「お、おいそんな片目瞑ったままじゃ!?」
再び私は機械人形の感応範囲へ身を侵入させる。
その瞬間に飛来する銃弾に、片目故に距離感を失っているにも関わらず。
「にぃ」
思わず歯を剥きだしにして、口が開けていた。
少し野蛮な遊び方だが、こういう気兼ねない時に使う分には良いだろう。
後数ミリで被弾するという瞬間、私は口を閉じ跳躍する。
胸と足を狙った弾と弾の間に身を滑り込ませるように屈むと、足を狙った弾を平手でパンッと弾いて見せた。
レディ、ゴゥ!
そのまま低姿勢のまま突進を仕掛ける。
頭も胸も足も、射線が一直線になるくらいの姿勢を保ったままの加速に、機械騎兵達の射撃も甘くなる。
簡単な横移動だけで何発も繰り出される弾を回避してみせた私は、先ほど手渡された銃をゼロ距離でパパパパパンッ、と全弾発射してみせた。
オーバーキルもいいところだが、装填を瞬時に済ますと二体目、三体目と葬って見せた。
『解説、菜茶は左目からの情報を右脳に積極的に送る事で狂人化している。今ならパンダと握手しても平気な程握力も出るだろうし、レーザー光線すら避けてみせる直観力を発揮しているだろう。さらに空間支配を』
「なっ、何だぁ!? この変な声は」
『私はハウル。菜茶のサポーター役だ。今は仕事が無いので音声モードでルバーと会話を楽しんでいる』
「なちゃ? イクラから声が聞こえる気がするが、んんぁ? とりあえず敵じゃないんだな? あいつは人間やめた訳じゃないんだな!?」
『是、この階層も問題無いと判断した結果の行動だろう』
「……そうか。てっきり祈願しちまったかとヒヤヒヤしちまったぜ……っておーい! 俺を置いていくなぁぁぁ」
ジュピターの音楽の一周目が丁度終わると、二周目のアレンジ版が流れ出す。
音楽の感性も研ぎ澄まされた今、お気に入りの曲と共に歩む私を止められるものは何も無いだろう。




