092.銃之支配を奪い取れ(8)
楽曲が一つ終わると同時にルバーの家から一歩を踏み出した。
寝室の中が真っ暗だっただけで、外は存外にまだ明るかったのは言うまでもない。
「ダンジョンはあっちの方向かしら?」
ハウルデバイスがマップ機能に介入して得た情報群の中に、自動地図生成機能があるわけだが、どうやらダンジョン位置も取得出来ていたらしい。
「あ、ああ」
「何? 貴方が居なくても良いんじゃないかと思った? 残念、壁は多いほど難易度は下がるの」
「ッカァー! 俺は壁役の為だけに仮眠を起こされダンジョン連行されるってか!?」
「あら、理解がはやくて頼もしいわね」
もう何も言わねぇとばかりに肩をすくめ両手でヤレヤレポーズをとるルバーを横目に、私たちは駆けだした。
地獄の入口へ向かって。
『ハウル、次の楽曲は「ジュピター」。27分でケリをつけるよ』
『了解、御武運ヲ』
私の現実聴覚がクラシックで満たされていく。
足音が、周囲の音が楽曲がかき消されていくのがわかるが、それすらも問題無い。
既に一度味見をし終えているのだから。
「お、おいイクラ! ダンジョン内でまで走ろうってのか!?」
ルバーのそんな制止の声も無視して、私は駆ける。
移動中の会話で何故か呼び捨てにされ出したが、それすらもどうでも良い。
一度攻略済みのダンジョン故に、ルートは全て壁にマーカーが仕込んであるとの情報も貰っている。
安全なエリアは青色のマーカーで、敵が沸く場所は黄色のマーカー、ダンジョン固有の敵・罠に関しては赤色のマーカー。
未開拓エリアに関しては深緑色のマーカーを、そして攻略不能エリアについては黒と黄のマーカーがついているそうだ。
最短ルートを辿るマーカーの見分け方としては、分岐点で一本の青マーカー、二本の青マーカーと分岐していた場合は二本のマーカーがより最短コースといったように、線の多い方を選んでいけば基本的に最短ルートになるらしい。
線の多い最短ルートを通ろうとすると赤色のマーカーが多いそうだが。
そして私がしょっぱなから選んだコースは青一本と赤色二本の分岐点で、赤色を選んだ。
「おいっ人の話聞いてたのかっ!? そっちは」
ルバーの言葉が私へ届く前に、パシュンと脳天目掛けて発砲音がエリア内に響く。
ここのダンジョンをイメージで説明すると、基本的に宇宙船の廊下が延々と続いているような仕組みだ。
要するに道幅は狭く、壁や地面の材質は硬く、天井もいうほど高く無い。
そんな真っ直ぐに伸びる道に分岐を繰り返して、ゴールへと向かうダンジョン。
通路系と射撃系の相性の良さは破格で、避けにくい上に面一杯に攻撃されれば不可避の必殺となる。
だが、それでも私は最短コースを選択する。
「ゴブリン如きが持つ銃など、素人にも劣る」
三匹のゴブリン達が私目掛けそれぞれが発砲するも、狙いも反応も甘く、警戒に値もしない。
近接格闘術でぶっ倒していくと、遅れて通路に入ってきたルバーが頭を抱えていた。
「何てめちゃくちゃな。一歩間違えば死んでしまうぞ!?」
「問題無い、あの程度で被弾していたらハイスコアは狙えんぞ?」
「なぁ、せめて防弾チョッキだけでも着ないか?」
「その問答も無用だと言ったろう? 身軽さ優先で良い」
「そう言ったってなぁ、っておい、ちょっ、っかぁー!」
再び走りだす私に更に深く頭を抱えて見せたのだろうが、残念ながらそんな姿を見ている程私は暇では無かった。
私の着ているクリーム色と灰色のボーダー柄をしたプルオーバーは、ふわりと空気を含み柔らかく揺れると、加速の瞬間私のボディラインを強調させた。
ショートパンツ故に、剥き出しの脚の感覚はすこぶる良好だ。
画面の向こう側だけのゲームでは決して出来ない感覚で行うプレイ。
私は何だかんだで、このRLというゲームを楽しんでいるのかもしれない。
「くくっ、第一から第二層は一気に飛ばすよ」
誰に言うでもなく独り言を吐くと、ドロップ品のチェックも後回しにして肉体言語で更に進む私であった。




