089.銃之支配を奪い取れ(5)
「んー、味はイマイチね」
「人の*《ダン》で飯食っておいてよく言うぜ」
肉とジャガイモの混ぜ料理をつついているも、ボソボソした味に私は少しご立腹だ。
「あー、慣れてないとこの味付けは辛いかもなぁ。俺も昔はきつかったぜ」
スープも水に塩を足しただけのような味付けに、無銭飲食だけどこの店は二度とこないと誓う私である。
しかしよくもまぁ、味覚にまで訴えてくるものだ。
「お、アイスは美味しいわね」
「人の*だからってようしゃないねお宅は」
食事の話題しか出てこない。
これは私から話題を振らなければ先に進まないタイプなのだろうか。
余所者同士、という単語を拾わない訳にはいかないね。
「んー冷た美味い。ところでさっき、余所者同士って言ったね? ルバーはどこから来たんだい?」
「俺か? 俺は……遊びの国からの流れさ」
「遊びの国? とても平和そうな国だね。で、流れて来たってからには」
「そうさ、他の宇宙船からの運よくここに来ることが出来たんだ。後、俺の母艦は平和なんかじゃない、ただの地獄だったさ」
「ふぅん?」
どうもルバーの乗っていた船はヘルダンジョンがあるらしい。
今度連れて行ってもらおう。
「何だよ、聞いときながら存分に興味がなさそうだなオイ。あっ、肉ばっかつまむなって、ジャガイモも食えよ」
「そういう貴様こそ、馴れ馴れしいぞ! 殺ルゾ!」
「ちょ、逆切れかぁ!? 次は手加減無しでぶっ飛ばすぞ!?」
「キッ」
「……ほら、俺のアイスやるよ。さっき食べ終えてたもんな、そうだ! 追加で注文しても良いぞ!」
ちょろいなルバーよ。
そういえば、ログアウトをすると体はここで眠りにつくんだったな。
私も良い時間ログインしているし、現実で飯とするか。
「ルバー」
「はひぃっ!」
怯えんなよアフロ。
「食事したら眠くなった、家のベッド貸せな?」
「おいっ、ったぁー! またか!? お前ら、まさか眠りの森国から来たとかじゃねぇだろうなぁ? おい、マジでねやがっ……」
ルバーの台詞を最後まで聞かず私はログアウトをする。
ぶわっ、と全身から汗が噴き出る。
喉がカラリと水分を欲しているが、思った以上に空腹であったらしい。
『菜茶、お腹をいくら鳴らしても私には食事を用意する事は出来ないぞ』
「ハウル、あなたの嘘はバレバレよ」
私の鼻孔にはチーズと油の匂いを捉えていた。
その匂いの元となる部屋へ移動すると、リビングのテーブルの上には宅配ピザが用意されていた。
『御名答、カード払いで一枚頼んでおいたぞ』
「あんた、勝手に人のカード使うなんて他の家でやったら即解体レベルの事よ」
『驚、我のこの気の利いた行動で何故解体行きなどと? 人間の思考は不可思議だ』
お前の行動力も不可思議だい、と思いながらアツアツのピザを開封する。
オーソドックスなチーズとトマトのみのそれは、一枚切り離すと左右から中央に向かって折りたたむと、ガブリと大口で頬張る。
「んふぅ、たまのこれが美味いんだよな。ハウル、私は和食派だが今日だけは褒め称えよう」
『是、勿体なきお言葉』
冷蔵庫からキンキンに冷えた牛乳を500ml入るグラスになみなみと注ぐと、私はグビッグビビッと飲み干して見せる。
「はふぅ、さってと」
気分が高まる中、油のついた手をキッチンペーパーでぬぐうと私は端末の一つに手を伸ばした。
「どうなってるかなぁ」
思わず独り言も増えてしまう。
お楽しみタイムである、個人サイト『酒向』の状況確認である。
だが、アクセスした瞬間私の高ぶった気持ちが行き場を失くしてしまう。
「私は何故、誰もアクセスしないような個人サイトを覗いて浮かれているのだ……」
掲示板やチャットルームや、旧世代の技術を詰め込んだこのサイトは一体何のために存在しているのだろうか。作った私自身、わからない。
『やられたね……』
胸中でつぶやく。
アルボリーの奴が色々言っていたけど、祈願の力ってのは気になるわね。
絶対にありえないけど、ありえない事が起こっているありえないだから、ありえるのかもしれない。
『私の何かが奪われた、もしくは消滅させられたとしか考えられないね』
『解、データベースを参照しますか?』
私は無言で頷くと、モノクルに意識を集中させた。




