088.銃之支配を奪い取れ(4)
王の住む場所だから王城で良いのだろう、が外観は思いのほか見た事のある建物を連想させた。
『まるでリッチな小学校だな』
『同意、モデルは間違いなく小学校だろう』
だよねぇ? ピラミッド型の構造だけど、昔通ってた小学校みたいな素朴な作りだ。
『驚、菜茶に子供時代なんかがあったのか?』
『あん、壊すぞ我ェ』
『沈黙』
茶番はこれくらいにして、坂道を下ったさきにある大門前に辿り着く。
やはりお城には城壁がつきもので大扉をくぐらないと城下町には出る事が出来ないらしい。
「なぁ君、少し散歩をしたいのだが?」
「……見慣れない奴だな?」
「お勤めご苦労様、出る分には構わんだろう?」
「そりゃ確かにそうだが……うむ、通ってよし」
物分かりの良い奴は嫌いじゃないぞ。
大門がギギギと開かれると、そこには城下町の景色が広がっていた。
荷台に溢れんばかりの果物を乗せた馬車が通り過ぎたり、子供たちがキャッキャと走り回ったり。
大門近くに一軒家を立てようと、大工仕事に励む大人や臨時の出店では串焼きを焼き続ける店員が居たりと活気づいている。
いや、活気が伝わりすぎる。
『くっ、没入感にあてられる』
あえてハウルに問いかけるように声を出したつもりなのに、応答が無い。
現実の行動を意識したにも関わらず発せられた声はRLの世界でのみ響き渡っていた。
だがしかし、慌てる時間ではない。
「おいオヤジ、その串焼きはいくらするんだ?」
「なんだい嬢ちゃん、そこに書いてあるだろう?」
「ふぅむ、10*と見えるが。この*は何と読むんだ?」
「おいおいおい、*を知らねぇたぁ、まさか他所から来たのかい?」
「まぁね。しかし困ったな、*なんて金は持ってないんだが……」
「カァー! まさかの冷やかしかっ、忙しい時間帯に邪魔だ邪魔、あっちいった!」
「その割には誰も並んでいるようには見えないが?」
「しつこいねお嬢ちゃん、皆あのにゃんにゃん亭に行っちまって……くそっ」
なるほど。
確かにあそこは人の列が出来ているな。子供から大人まで、男性女性関わらず集まっていることから、よほどの優良店なのだろう。
「ふむ、良い情報ありがとう」
「あっ、待っ、くそっ」
串焼きを焼いてたオヤジには悪いが、私もあちらに並ばせてもらおう。
誰かに引っ付いて入ればどうにでもなるだろう。
しかし列に並んでいても飽きないな。
どこまで一人一人の人格が用意されているというのだ? ハウルのような人工知能が全員分用意されている? それも一切のバグも見られず、人間味がある。
『自慢、我は世界最強の人工知能だ』
『その称号を譲ったつもりは無いのだがね?』
『菜茶、世界最強の人工知能と世界最強は別物だぞ』
『わかってるわよ、冗談が通じないポンコツね』
『くっ』
ハウルと会話をしつつ時間をつぶすと、あと一組で店内に入れるところまで列は進んでいた。
そう、進んだはいいが家族連れや恋人同士やら割入れる隙のある奴が居なかった。
「ふむ、困った」
ぐるりと周囲を探索、するとどうだろう。
列の後方にブロッコリーのような頭の先が覗いているではないか。
「ちょっと失礼」
列から体を横に少し出すと、そこには独りで並ぶルバーの姿があるじゃないですか。
「やーやールバー、偶然だね? 食事だろう? 奢ってくれるよな?」
「げぇ、やっとこさゆっくり飯が食えるかと思えばまた嬢ちゃんか」
「そこはげぇ、じゃなくて喜ぶところでしょう? こんな乙女が一緒にご飯してあげるって言っているのに」
「……乙女ねぇ。まぁ、たしかに年下だが、中身は化け物だろうに」
「やっぱ貴様はデリカシーが足りん」
腕を組んでそう説教をしたところで、私のお腹がクゥと悲鳴を上げた。
「おお、私の腹が鳴ったぞ? 凄いな」
「ぷっ、お前さんも人の子だってか。まぁ余所者同士のよしみで飯くらい奢ってやるよ」
「ん、感謝だ」
「何だ、そんな言葉も言えるんじゃねぇか」
こうしてRLの世界でまさかの食事イベントとなった。




