082.城内攻略(5)
さて、ここらで一つ突っ込みを入れてみよう。
悪い笑みが思わず零れてしまうが、AI君の反応が楽しみである。
「ところでAI君、今全力疾走なんかして大丈夫なのかい? 現実のAI君は今頃汗だく状態なんじゃないかな? 疲労困憊、足がガクガクで立っているのもやっとだったりしないかい?」
ニィ、と笑顔でそう話しかけるとギョッとした顔でAI君は固まってしまう。
「えっ、あっ、確かに私……」
見た目に拘る娘だからね、汗だくの姿で良いのかい? と意地悪を言ってみている。
「匂いも現実には嗅げないけど、このVR空間はこう嗅覚にも訴えてくるよね? ああ、そういえば何やら先ほどから臭うな」
「ひっ、わ、私臭くないもん!」
脇を臭って確認するとか、必死だねおい。
匂いの件はついでにからかっているだけで、本命は体力の話なのにね?
「そうだね、AI君の脇は臭くないよ」
「えぇ……べ、別の場所が臭うってヤバくないですか!? 私、女として終わってる!?」
「まぁ股間からそんな臭いをさせてたらね……」
「ぁぐぅ」
「で、銃から臭う硝煙は酸臭くて好きじゃないね」
そろそろ話題を本題に移すためにネタバラシ、と。
「……喧嘩売ってますね! 売ってますよね、ええ買いますとも!」
シュッ、と正拳突きを打ち込んでくるが、基本的に自分の体の動きを追跡している訳で、ゲームのように組み込まれた綺麗な動きができる訳ではない。
当然、AI君の放つ突きもおそまつなものだった。
パチン、と掌でうけ止めると、一つ指導することにした。
「AI君、さっきの動きは良かったのに何だいこの突きは?」
「ぐぬぬぬぬ」
「思い出してごらん? 走った時本当にデバイスの中で猛ダッシュしたのかな?」
威嚇をつづけながら、AI君は考えだす。
「そういえば、気が付いたらキャラがイメージ通り走ってました。フレームもしっかり見極めてから体を動かせました」
「良いね。つまり、没入感が強すぎて気づけない程に体の自由は不自由しているって訳だよ」
「意味が、わかりません」
「んー。簡単に言えば本当にゲームの世界のお話なんだよ。イメージがそのまま自分を動かせる世界とでも言うべきかな? さっきみたいに自然に近づいて殴る、という行動は現実で行動しなくても再現できてしまうのだよ。逆に意識して明確に殴る、と思うと現実での行動が伴ってお粗末なものになる」
「はい先生! 意味が解りません!」
「馬鹿だね、嫌いじゃないよ」
「チェェェイ!」
再び殴りかかってくるAI君の行動はやはりお粗末なものだった。
その後何発か連続で攻撃を仕掛けてくるも、そのどれもが雑すぎてあくびが出る程だった。
「女子高生とはいえ、もう少し護身できるほどには人の殴り方を学んだ方が良いと思うのだが?」
「人を殴る女子高生なんかいませんよっ! だっ、ハァハァ」
一気に言い切ると、呼吸を乱すAI君。
きっと今頃汗だくロリ女子高生の完成である。
『記録、ツユダクショットを収めました』
まぁこんなバカそうなハウルデバイスがあるからこそ、私は一足先にこの不思議なRLの仕組みを淡々と読み解いていっている訳だが。
「まぁ実践を重ねて感覚は磨いていけば良いさ。ほら、歩いた歩いた」
AI君のケツをパンッ、と叩くと大袈裟に尻をさすりながら歩きだす。
次からは本番だろうし、AI君にはそう簡単に離脱してほしくないな。
そう思いながら足を進める私である。




