081.城内攻略(4)
階段を登った先は、窓際がガラス張りとなっており場外が一望出来た。
建物の構造的に、登るほどにフロアは狭くなっていくピラミッド型なのだろうか。
例えるならそう、小学校を巨大化させ廊下や教室を豪華にしたような作りと言えるだろう。
「わぁ、見てください! 的だらけですよ!」
「こらこら、人を見てその発言は悪党っぽいぞ」
「んー、既に悪党?」
違いない。
私もAI君に続いて外を見ると、そこには城下町が広がっていた。
王城は丘の上に建てられているらしく、見晴らしがよかった。
噴水広場だろうか、女性たちが笑顔で雑談する景色や子供たちが走り回って遊んでいる姿を見ると、どこまで作り込まれた空間なんだと感心してしまう。
あっ、子供がこけた。
すると、他の子どもが手を差し出し起こしてやったり、いやはや、まるで本当にここで生きているかのように笑ったり泣いたりしているではないか。
「何か見えますか? 一戸建ての建物多くて、羨ましいですねぇ。私のマンション、コレ置くだけでめちゃくちゃ狭いんですよ……」
その歳で自立しているだけで十分だと思うが……。
「で、何見てたんですか?」
コロコロ表情の変わる娘だ。
「いやなに、噴水広場の子供たちは泣いたり笑ったり元気だなと」
「……見えるんですか?」
「見えないのかな?」
顔を引き攣らせるとか、いよいよこの世界は異様に感じる。
そもそも、公式発表はないもののヘルダンジョンに潜るとアバターキャラが強制的に自身と瓜二つになる仕様は一体何なんだ? 没入感を強める為の仕様とでもいうのだろうか。
現実と変わらぬ表情を再現しているし、運営のこだわり具合がうかがえる。
確かに、頬肉の動きで表情は読み取れると聞くし、見た目に関しては……謎技術過ぎる。
「見える訳ないじゃないですかっ! 日本人であの距離の子供たちの表情読み取れるとか、無理です! キモイです!」
「……喧嘩を売られたと思って良いのかな?」
「あっ、あっちから人の気配がしますよ!」
悠長に二人で雑談をしていたら、どうやらやっと追ってらしき人物が廊下の奥に姿を現す。
「そのようだね」
現れたのは男性で、これまたラフな格好をしている。
先ほど現れた二人組と似た服装をしていることから、基本的に男性陣はあの服装なのだろうかと予想を立てた。
「君たちで間違いないかな? 暴れているって……」
パンッ、と乾いた音が響く。
AI君の早打ちが喋っていた途中の男の背後に穴をあけていた。
大きく外れたソレは、男は声を失っている。
「また外れたぁ。この銃壊れてるんじゃないですか? それともこういう仕様なの?」
「格ゲーばかりしているからAIMの腕が上がらないんだよ」
「いやいやいや、AIMくらい私だって程ほどに自信ありますよっ! 銃が悪いだけで」
食い気味で詰め寄ってくるAI君だが、撃たれた側もそういつまでも黙っていなかった。
「ふ、ふははは、何だただの素人じゃないか。ジェイムズが負傷したと聞いていたが素人幸運だったみたいで存外、拍子抜けだよ」
ゆっくりと、ゆっくりと歩き出す男は胸にあるホルスターから銃を抜くと撃鉄に手をかけていた。
「ほら、言われているぞAI君」
「えー、でもこの銃壊れているし……いいや、これ上げます」
ポイッと投げ捨てられた銃を受け取ると、AI君は男へ向かって猛ダッシュをかましていた。
「なっ、撃つぞ!」
「ンハァァッァ!」
パンッ、と発泡された弾を視てから姿勢を低くし躱すと、そのままジェットパーンチとか言いながらアッパーを放っていた。
「ぐべ」
予想外の事が続いたのだろう、モロにアッパーを食らった男は体を宙に浮かすとそのまま背中から倒れ込んだ。
「銃なんて必要無かったんや」
「こらこら、郷に入れば郷に従えっていうじゃないか。この機会に銃の扱いも学ぶと良いさ」
そう言って見せると、10mオーバーある距離からパンッ、と発泡してみせると銃弾はAI君の股を抜け気絶していた男の脹脛を貫いた。
「がぁっ、うっ……撃たれた?」
痛みからか、気絶状態から強制的に回復させられた男は倒れたまま両手を上げる姿勢をとっている。
「降参だ、命まで取るってこたぁ……ないよな?」
「パンツ覗きながら言われたらヤッても構わない気がしてくるけど、今は良いもの見れたし見逃してあげる。ねぇ、私の銃でなんでそんな正確に撃てるのー? ねー、どうしてー!?」
パタパタと軽い足取りで私の方へ向かってくるAI君だが、その後ろでNPCは再び光の粒子となり姿を消していた。
「よーく自分で考えな。まだ弾も残ってるんだから、じっくり見極めなさい」
「了解」
さて、小出しにしか先兵が来ないという事から城内だからといって大人数の守りが常駐はしていないようだ。それに外をみても市民たちに異変を察知した感じはなさそうだった。
それに距離の取り方を見ても、銃の特性を十分に理解しての行動パターンをとっているように思える。
通常、この銃ならば5mまでは正確に狙い打てるだろう。
つまり5mという距離での早打ちが彼らの流儀なのだろう。
まぁそんなルールにのっかってやる必要は何処にもないのだがね。
「たぶん敵はそう数が居なさそうだよ」
「確かに、全然ですよねぇ。もっとこう、わしゃわしゃ敵が出てきて無双するイメージだったんだけどなぁ」
AI君も何となくには理解しているのだろう。
銃での戦闘に、人数は不要だということに。




