077.銃之迷宮(4)
とりあえず準備するからそれまで城内で自由にしててくれと言われ、私はああと頷く。
スピューカ・コリュンことスコはというと、もう大丈夫そうですねと言い残すとさっさと部屋から出て行ってしまった。
「ふむ、ここから単独行動開始という訳か」
没入感になれつつあるところで、私は開眼する。
特注デバイス、音声認識ゴーグルを装着している私はモノクル部分で覆われていた左目を開いていた。
瞬間。
それまでRLの世界でイクラとして心身共に没入しきっていた私の脳は現実へと引き戻される。
「ハウル、オートマッピング開始だ」
『Read、承認』
途端、モノクル部分に次々とマップが生成されていく。
更に次々とデータが書き加えられていく。
「同じマップは無いか。となると有志でこの銃之迷宮に来たのは私と攻略者の二名だけか……」
『菜茶、そこにある再装填具は必須だぞ』
「はいはい、落ちている物は拾いましょうねっと」
人工知能を搭載したこのモノクルはRLの情報収集に特化させているため、アドバイスを湯水のごとく私に与えようとする。
『次はあの棚が怪しい』
「はいはいストーップ、ストーップハウル! 私が訪ねた時だけ喋れば良いから、静かにしような?」
『Read、承知した』
さて、プレイ中はこのダンボールの外に出れない仕様というが、そもそもプレイ中はこの中身がどうなっているのか確認が出来ないのだから、リアルに見たくなるものだろう?
プレイが開始するとカメラの類がバグるのか、撮影に失敗するという報告も多々ある始末だった。
だがしかし、この音声認識ゴーグルで没入している今、開眼した左目でしっかりとダンボール内を視認する事が出来た。
「ハッ、ハッ!」
現実では出来そうにない動きを取ると、それまでRLの世界とリンクして動いていた自身の体がピタリと垂直で止まり、通常の動きに戻った瞬間から再び同期が始まった。
つまり、原理はともかくとして無茶な動きに関しては実体に負担なく実行が可能という点。
つまり、私のイメージがRLの世界に居る私を動かすことが出来るという点。
つまり、やはりこのRLという世界で私は思うがままのプレイで生きる事が可能だという事だ。
「くっ、違和感に慣れていかなければな」
思わず苦い顔をしてしまう。
右目から全身を蝕む没入感、まるで左目で見るハウルの情報群こそが非現実的な何か、と認識から除外しようと脳が警告をあげている。
しかし私は右目からの情報と、左目からの情報をそれぞれ処理をしていく。
深呼吸をして、両腕を組んだまま背筋を伸ばす。
もやがかった脳が次々に情報を処理していき、気が付いた時には二つの世界の情報が一つに合わさる。
「没入感が逆に深まったように感じるな」
『拒否。菜茶はしっかり私を通して現実の情報を取り入れている』
「はぁ、お喋りな人工知能だな。また不良品でも握らされたか」
『拒否。私こそ世界最強のパートナーに相応しいAIを積んだ』
「あっ、そういえばAI君をそろそろ誘おう。こんな城内イベントを一人で楽しんでも悪いからね」
『……』
会話の途中で他人の事を話したせいか、ハウルは口を閉ざしてしまった。
何? やきもちとか焼く系のAIなのかしら。AIとAIってややこしい、私の独り言でもハウルと呼んでやることにしてやろう。
「ハウル、AIにコールだ」
モノクルにAIの電話番号が浮かび上がると、浮かび上がった順に音が鳴り響く。
続いて、ピロロロロと電話が鳴り響く。
「もしもーし、今宿題中なんだけどぉ」
「愛君、今からヘルダンジョンをクリアしようと思うのだが付き合わないかね? ついでに言うと、今現在来ればNPCの町に飛んでこれるよ」
「……すぐ行くわ、待ってなさいよ!」
テンションが低い声から一転、甲高い声で応答する愛君は本当にゲーム好きで素直な子だな、と思う。
さて、AIが来るまで部屋の物色といきますか。
私は何の悪げも無しに部屋の中にある物を手あたり次第に手に取っていくのだった。




