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076.銃之迷宮(3)

 バスローブ姿で第二ホールへ向かうと、ダンボール(デバイス)の前に置かれたダンボールを開封する。

 すると、希望通りの品がそこにはあった。


 その品、RLの世界へ没入する為のゴーグルを取りだすと私はエイッ、と中央からへし折って見せる。

 プチンッと音を立て二つに割れたゴーグルの片割れをソッとダンボールへ戻すと、装着してみせる。


「ふむ、奴も腕を上げたね」


 違和感はゼロ。

 右目を完全に覆ったゴーグルと、左目は完全に剥き出し状態となっている。

 更にダンボールの中にあるモノクル型のデバイスを取りだすと、左目に装着してみせた。


「おっと、テストは後にしようか」


 フィット感は全く問題無かったので、そっとデバイスを外すと私は食事をとる。

 豆ご飯に、唐揚げ、ホウレン草のお浸し(かつお節たっぷり)、赤出汁を美味しくいただき、そしてしめにほうじ茶をズズッと啜った。

 はぁ、こういう時間は幸せだね。


 ちなみに、食事は自分で作ったからな?


「では、銃之迷宮へいざ。没入ダイブ


 意識が闇に溶け、再び目を覚ますとマイルームでもなく、先ほど居たダンジョンの続きでもなく。


「ったく、何で俺がここまで世話しなきゃなんねぇんだよ!?」

「貴方が拾って来たんでしょうがっ! 男なら責任とりなさいよっ!」

「いやいやいやいや! この狂暴な女と誰がヤルかよ! それより俺はお前との方が」


 プシュッ。


「次変な事口走ったら撃つわよ?」


 カチリ、と撃鉄ハンマーが下げられルバーは慌てて釈明している。


「いわねぇ! もぅいいませんってば! だから撃鉄さげんのだけはやめて、シャレになってない! てか既に一発撃ったよなぁ!?」

「あーもぅ、男のくせしてピーチクパーチク煩いわね。あら?」


 そんな二人のやり取りをベッドから体を起こした私は一部始終を観察していた。

 これはあれか? 何かのイベントだろうか。


「おっ、やっと起きやがった。いきなり死んだかのように眠りやがって、この貸しはデカイぞ? あいだっ」

「こら、女の子相手に何言ってるのよ。ごめんなさいね、ルバーは根は良い奴なんだけど言動が伴わないから残念なのよねぇ……私はスピューカ・コリュン。スコって呼んでくれて構わないわ」

「ああ。私はイクラだ、宜しく頼む」

「ぷっ、本当にイクラちゃんなのね」

「おいこら、スピューカの方がひでぇじゃねぇか! 人の名前は笑っちゃいけねぇよ!」

「もぅ、そういう時だけ正論飛ばして。ごめんねイクラちゃん」

「いえ」


 ここはハーイ、とでも応えておくべきだったか、とそんな後悔をしつつ話は進む。


「それにしても、凄い筋肉よねぇ。そりゃルバーも手玉にとられやうわね?」

「いやいやいや、アレは俺が眠ってただけでむぐっ」

「ほぅ? 任務中に居眠りをしていたって? 報告書と違うじゃない、どういう事かしら?」

「いや、それはその」


 話は進まなかった。


「すまない、ここはどこなんだろうか?」

「ああ、ここは王城の中にある医務室だよ。俺がおぶって運んできてやったんだから、感謝しろよな? あのままじゃお宅、機械兵にハチの巣にされてたぜ?」

「ん?」

「いきなりログアウトだの言ったら、目を閉じて死んだように眠りだすんだから驚きもするぜ。おかげで緊急連絡入れて荷物を放り出してお宅を運ぶ羽目になったんだからな?」

「まぁ、その判断は偉いわ」


 スコに頭を撫でて褒められるルバーの鼻がグンッと伸びるのがわかる。

 それよりも、そのアフロに埋もれていく腕の方が個人的には気になるのだが。


「大体あれから3時間強か? お宅の面倒をみるのを手伝いにスピューカにお願いした訳だ」

「そのまま私に全部押し付けて逃げようとしてた口が、よく言うわね」

「そ、そんな事ねぇし!」


 さて、スピューカ・コリュンか。

 見た目は日本人女性だな。

 身長も低めで、160あれば良い方か? ルバーの装備は変更無く、スコの服装は私服な事から、ルバーは未だ任務中、スコは元々この王城と呼ばれるエリアに居た人物という事になるだろう。


「話し中悪い、私は銃之迷宮の最深部へ行く用事があるのだが、出口は何処かな?」

「おいおいおい、さっきも説明したよなぁ? もしかして本格的に頭がバグってるじゃねぇか?」

「煩い男だ、次無駄口を叩くようなら今度はヤルわよ」


 シーツ越しに銃口を向けると、両手をあげて降参マークを示す。


「イクラちゃん、地上では銃の取り扱いは厳禁なの。しまってくれるかしら?」

「ふむ、そうなのか。失礼した」

「なっ? コイツ危険だろう?」


 バサァ、とシーツを舞い上げると同時に跳躍した私はベッドのスプリングを利用して空高く舞い上がる。一気にルバーとの距離を詰めると顔面を掴んだ。


「イダダダダ、やめろやめろやめろ!」

「無駄口叩くなと言っただろう?」

「あらまぁ、本当にルバーが赤子のように……と、イクラちゃん、それくらいにしてあげて? これでも上司に怒られてでも貴女を連れてきてくれたんだから、ね?」

「……しょうがない」


 体力は10に回復しているし、変なことをされたわけでもなさそうだ。


「で、連れて行ってくれるよな?」

「……勿論だとも」


 参ったとばかりに、ルバーはそう答えてくれたのだった。

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