074.銃之迷宮(1)
再び体の一部、衣服がコンテナからはみ出る程度に移動をしてみるも反応が無い。
更に腕を外へ出すとプシュンと乾いた音が響き肌を銃弾がかすめていく。
鋭い痛みが走るも、そのままその場で待機する。
僅か一秒きっかりで続けて同じ傷跡を抉っていく。
熱くなった腕が更に熱くなり、痛さのあまり声が漏れてしまう。
ゲームならこんなリアルな忍耐が必要にならないのに、とぼやきたくもなる。
最終的に5秒間かけて5発の被弾をした私は、その後3秒のクールタイム後再び被弾した時点で身をコンテナの裏へ隠した。
「くぅ、声が漏れるのは失態だが、痛みが伴うのにどうしろと」
被弾する度にヒュッ、と息をのんでしまっていた。
その度に自らより危険な状況に陥る事を理解していても、ここが限界であった。
ともかく、解析の結果だ。
体力4、攻撃力10、魔力10、というステータスから致命傷でなければ体力は1しか削れないらしい。被弾個所により、一気に削れると考えても良いだろう。
そして私を的にしているアレは毎秒発射が可能で、装填数は6発。再装填には3秒かかる、までは理解した。
やるならば3秒の再装填中に駆け抜け破壊する、というのが良いかもしれないが。
「まぁ、出来ないことは無いだろう」
私の視力は弾丸を正確に捉えていた。
無回転。
私達が良く知る銃というものは、大抵が回転が加わった弾が射出される。
だが今私の身を削った弾は無回転、つまり旧世代の銃だと推測が出来る。
それも自動の癖に毎秒1発、装填数6発、再装填に3秒となればリボルバーちっくなものがセットされていると考えるべきだ。
ついでに、無回転でここまで正確に私を撃てるとなると設置型無人機関銃までの距離は思いのほか近く、距離が近い為に弾速までもが速いものだと錯覚しているのだろう。
いや、弾速に関しては銃弾という意味では誤差の範囲内ではあるが、やろうとしている事を考えれば少しでも遅い方がやりやすい。
「ふんっ」
息を絞り、体中の緊張を最大限まで引き上げた私は手をパーにして出した瞬間、水平にしてみせる。ギリギリのラインで後方へ流れていく弾を確認すると、体ごとコンテナの外へと放り出す。
「ッッ」
予想通り、通路は3メートル程度しかなく、その最奥に設置型無人機関銃がある事を視認する。
視認した時には次の弾が射出されるも、予め回避行動に出ていた私は身を屈め次弾を回避。
更に前へと駆けると背中スレスレだろう場所を打ち抜いてくる。
ヘッドショットを狙う銃口は身を屈めた私の頭を再び狙い打とうとするも、そのロジックが私の回避行動を続けて成功させていた。
更に距離を詰めたところで身を屈めた真正面に弾が飛んでくる。
弾速がどうのこうのというのは残念ながら感覚でしかわからない私だが、乾いた発射音と共に私は大地を蹴り上げていた。
「ハァァッ」
跳躍。
痛みがあったり、理不尽な難易度であったり。
そんな環境だろうと、ここはゲームの世界だという事を私は忘れていない。
没入感が、銃相手じゃ無力だという現実の思考が持ち込まれるのが一番のナンセンスなのだ。
だから私は弾の上に足をかけると、一瞬のタイミングミスも許されない弾を踏み台にしただと!? を実行してみせた。
無回転ゆえに、足場にしようと決めた私の行動は結果から言えば成功した。
だが、足場にするには小さすぎ、更には後方への力がかかった弾を踏み台にしても踏み込みがほとんど効かなかった。
故に設置型無人機関銃まで僅か30cmという距離で次弾が発射されるという事態に陥っていた。
が、もう慣れた。
『旧式ガァッ!』
ありったけの瞬発力を開放した私は指二本で射出された弾を掴み取り、捻る。
軌道のそれた弾は顔の横を通り抜けていく。
そんな確認をする間もなく、私の拳は設置型無人機関銃を殴り倒していた。
「全く、最初の一歩からコレとは」
ヘルダンジョンを攻略したという人物とは一度じっくり会話してみたいものだ、とそんな事を考える私であった。




